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第十三話 エピローグ その3(最終話)

 家庭科室で大量生産されたから揚げが教室に運び込まれた。

 生産は女子たちが、配送は男子たちが、共に陣営を問わずに協力しあい、二年四組の教室でから揚げパーティが始まった。

 教室の中央にはいくつもの机が並べられ、その上には揚げたてのから揚げが大皿に大量に盛り上げられていた。

 廊下側に並べられた机たちには戦争で多量に消費されたはずの各種調味料が、それぞれの陣営が自己主張するかのように積みあがっていた。

 生徒たちがロッカーやカバンに秘匿していた、お気に入りたちである。

「あれだ、先生はそんなに給料もらってないから、これだけの量だとかなりきついんだぞ」

「大丈夫、そう二人ならね」

 武田先生の隣で、山下先生が嬉しそうにほほ笑んでいる。当の武田先生は紳一郎の背中に恨みのこもった特大の槍になりそうな視線を送り続けているが、どうにも突き刺さらない。

「まさか、あの二人が昔付き合っていたなんてね」

「ああ、かなり意外だよな」

 夏帆と晋が、先ほど発覚した事実に驚きを隠せないでいた。

「女子大生じゃなくなったから別れるとか、タケちゃん性質悪いな」

「そうね。諦めて山下ちゃん貰うように助けてあげないとね」

 二人は顔を見合わせると、悪いたくらみをするように示し合わせた。

「お前ら麻婆くえー!」

 調味料エリアで、剛三が叫んでいた。

 深皿を手に持ってあちこちに声をかけまくっている。

 だがそれを相手にしているのは蘭だけだった。

「はいはい、お姉ちゃんが一緒に食べてあげますよー」

「お蘭、お前だけだな、麻婆を分かってくれるのは」

「お姉ちゃんですからね!」

 佳乃と映美が教室の後方で、みんなを見ながらから揚げに舌鼓を打っていた。

「はーあ、なんか疲れたし制服くっさいし、もうどうしようもないよ」

「あはは、それでも私は楽しかったよ? カノちゃんや春歌ちゃんのお手伝いできたし」

「あんたねー。そんなこと言うから巻き込まれるんだよ」

「いいの、お友達だもん」

 窓際で黄昏ているのは優一だ。その隣で輝がから揚げをケチャップで真っ赤に染め上げていた。

「うぅぅ~山下せんせぃ~」

「まったく。失恋くらいで泣くな。貧弱な」

「お前みたいな奴には分からんだろ!」

「ああ、失恋などしたことないからな。欲しいものはいかなる手段ででも手に入れる」

「だから公式戦で台揺らして反則取られた挙句、卓球部が処分されるんだ」

「フン。それくらいの心意気が必要だということだ」

 から揚げの皿の前で、智子が紳一郎の皿にから揚げを取り分けていた。

「べ、別にアンタのためにやってるわけじゃないんだからねっ!」

「ああ、大丈夫大丈夫、勘違いなんてしないよ」

「んなっ!? べ、別にそんなことしなくてもいいんだってば……」

 智子の声がどんどん尻切れになっていき、最後には口パクになってしまう。

「え? なに?」

「な、なんでもないわよ!」

 聞き返した紳一郎に、智子は慌てて言い返した。

 から揚げを取りに来た比奈子に、邦和が近寄って行った。

「なあヒナ公。宮本と佐々木は寄りを戻したみたいだしよ、おれたちも戻そうぜ」

「……岡田君。あなた、いたの? どこにも見かけなかったから、てっきり逃げ出したんだと思ってた」

「んなわけないだろ。このおれがそんなことするわけないだろう」

「どうかしら。口だけ番長だし。それに、雪斗くんと佐々木さんは寄りを戻してなんかいないわ」

「え、お、おい、何で名前で呼んでるのさ。おれの時はそんなことしなかったろ!」

「気持ちの問題よ」

 そう言って比奈子は邦和から離れて雪斗の方へと歩いて行った。

「おい岡田、失恋した同士、アイツと傷をなめ合っていろ」

 呆然とする邦和の方を叩いて、輝がそう言った。


「春歌、ずいぶんと上機嫌だな」

「そりゃそうでしょ。だって、雪斗があのレッドウルフで、五年も前からずっとやりあってきた相手だってんだから」

「確かにな。初めて蹴られたのは五年も前になるんだな」

 雪斗の前で、元彼女は終始笑顔だった。

「なんかもう中学のことは隠せそうにないんだから、アンタと堂々とケンカしたっていいわけだし」

「疲れるからあまりやりたくないな。大人しい高校生でいたいんだ」

 皿の上のから揚げを平らげると、春歌は雪斗の腕を取り──

 それを比奈子に妨害される。

「ストップ。元彼女はどこかに行きなさい」

「返してもらったから。あんましつこいと蹴るよ」

「暴力女」

「あ?」

「雪斗くんはもう私の」

 そう言って比奈子は雪斗の腕を取り──

 それを春歌に妨害される。

「雪斗、あんたなんか言いなさいよ」

「雪斗くん、はっきりとこの女に言ってあげて」

 目の前で争う二人の少女を前に、雪斗はどう言えば穏便に解決するのかを考えてみたが、どうにも答えはでそうになかった。


 から揚げに何をかけるべきか、という主張のぶつけ合いは、武力衝突によって、新たな選択肢を見出したことで円満に解決を迎えた。

 翌日、騒動の中心となった二年四組の全員には、校舎全域の清掃という罰が告げられた。


end

これにて本作は完結となります。

最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。


「くっだらない理由で真面目に戦争する」というただそれだけで、

よくもまぁ、ここまで書き上げたと思います。


卵焼きに何をかけるかはケンカだけど、

から揚げなら戦争なんです。特にレモン。

とはいえ、みんなでワイワイ食べるってのが一番なんだろうなと。

そんな感じに終われたような気がします。



目標1:20*20で250枚以上

目標2:キャラクターをしっかり作る

→だいたい出来た気がする。だいたい。


20*20の原稿用紙換算で260枚、書き上げにだいたい一か月。

まずまずのペースで完成したんじゃないかと。


また次のお話でお会いできましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  立ちまくったキャラとプロットと程よい文字数の良作。 [気になる点]  ……雪くんはなにやっても死亡フラグだし、紳くんは裏切者なのにきっちりモテているし……。どこで差がついた! [一言] …
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