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第十三話 エピローグ その2

「さて。そろそろ結論を出そう」

 倒れた雪斗に、比奈子は慌てて這い寄った。その二人に、紳一郎は高々と宣言する。

「もはや、この戦いで立っているのはただ一人。そう、俺だけだ。つまり、俺が正しい」

 聴衆はいるが、誰も聞いてはいない。だが、それは些細な問題である。

「それは、この世の理が決まるということだ」

 一拍、開ける。

「から揚げには、何かをかける必要などない! それが、正しい人の道ということだ!!」

 拍手は、ない。だが、反論もまた、ない。

「田辺、くん……」

「なんだい委員長。勝者は俺だ。つまり俺が正義だ」

 わずかに残っていた両陣営の者たちは、終戦の宣言で力を抜いて座り込んでいた。そんな連中を倒すことなど、たやすいことだ。

 一番厄介な雪斗は満身創痍な上、比奈子とイチャついていたので、背後からの一撃だけで倒せた。

「……シン、てめぇ」

 まだ意識があったことに紳一郎は驚きつつ、悠然と歩み寄ると、頭を踏みつけた。

「なんだいユキ。キミがいつも言っていただろう、最後に立っていれば勝ちだ、ってさ。そして今、立っているのは俺ただ一人。何か間違っているかい」

「……」

「足を、どけて」

「ふふ。では委員長。君は……胡椒をかけると主張していたね。それを取り下げ、何もかけないと宣言するんだ」

「シン、比奈子に手を出すな」

 足元から聞こえてくる声が、とても心地よいとさえ思う。これが、いつも雪斗が感じていた勝利の快感なのか、と紳一郎は思った。

「何もかけない、と言えばね。とはいえ、ユキの隣に倒れるのなら、それも悪くない選択なんじゃないのかな」

 比奈子は何度も口を開いては声を出そうとするが、その度に思いとどまるようで、口をぱくぱくとさせていた。しばらくして、ようやく決意したのか声を発した。

「……から揚げには、何も、かけ……」

「ちょい待ちな」

 だが、それを止めた声が、紳一郎の背後から聞こえてきた。

「ようシンの字。てめぇ人のもん踏んでんじゃねーよ」

 気絶から復帰した春歌がそこにいた。佳乃と互いに支え合って立っていた。

「不意打ちとはね。そんな卑怯な人だとは思わなかった」

 佳乃の抗議も、紳一郎はどこ吹く風と受け流した。

「譲れないもののために、人は踏み外すこともあるのさ」

「ただの卑怯者が偉そうに」

 大仰に言う紳一郎だったが、どうにもその声は届かないようだ。

「それより」

 比奈子がよろよろと立ち上がりながら、春歌に問う。

「人のもん、てどういうつもり」

「ん? ああ。返してもらうわ。負けっぱなしで終わる気はないんでね」

「認めない」

「いや、別に委員長が何を言おうとも気にしないけど」

 にらみ合う比奈子と春歌。

「あれ、ねえ、オレ無視?」

「はいはい、相手してあげるからさっさと退場なさい」

 軽く言う佳乃に、紳一郎は激しい怒りを見せた。

「ふふ。いくら誰だろうと、ボロボロな状態で、ほぼ無傷の俺に勝てるとでも思ってるわけ?」

「あー、それは負けフラグだわー。だから、自動退場したら?」

「ふざけるな!」

 足を強く踏み込む。足元の雪斗の頭蓋骨から、ミシリと軋む音が聞こえた気がした。

 と、足首を掴まれ、持ち上げられた。

「少しは回復した気分だ」

 紳一郎の足首を掴んだまま、雪斗が体を起こす。そのまま投げ出して、雪斗は体の自由を取り戻した。

「決勝ラウンドといこうか」


 雪斗、比奈子、春歌、佳乃が対峙していた。

 紳一郎は、一番最初に集中攻撃を食らってボロ雑巾となって廊下の端に転がっている。

「から揚げにかけるべきは、味塩胡椒だ」

「胡椒よ」

「レモン」

 雪斗、比奈子、佳乃がそれぞれの譲れない主張をする。それを冷ややかに見ていた春歌が、さらっと言った。

「……なんでも、いいじゃない。自分の分に、好きなのをかけなさいよ」

 三人は驚いた顔で春歌を見る。

「な、何よ……」

「第四勢力か」

「新しい主張だわ」

「面白い発想ね」

 三人が口ぐちに言う。

 校舎内に吹き荒れた嵐を吹き飛ばす、それはそんな一言だった。

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