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第十一話 原理主義対自由主義 その1

 比奈子から南階段からの進軍を提案され、雪斗はそれを了承した。

 本隊が東校舎にいるのであれば、北階段から進めば挟撃を受ける恐れがあるし、何より三階に残っている部隊も脅威である。

 もし北階段の部隊が二階を経由して回り込んできても、少数だから何とかなるが、残留部隊と本隊との挟撃は避ける必要があった。

 例えレモンどもの勢力が大きかろうと、部隊を分けてくれているのだから、その分けられた部隊を潰せばいい。

 話を聞けば、単純な話である。

「比奈子は頭がいいな。確かにお前の言うとおりだ」

 作戦を聞いた雪斗は、素直に感心した。

 北階段付近で全員を集合させていたが、雪斗はすぐさま南階段へと転進することを判断した。

 雪斗は先頭に立っている。すぐ後方に比奈子や夏帆、二年四組の面々が連なる。その後ろに二年生の他クラスからの援軍が並ぶ。

 南階段の直前でいったん止まり、雪斗は背後を見やる。

 やる気に満ち溢れた顔が、ずらっと並んでいる。

「よし、作戦開始だ!」

 雪斗はそう宣言するや否や、階段室へと飛び出した。レモンの連中が突然飛び出した雪斗の姿に面食らっている間に距離を詰める。

 五人ばかりのレモン派を瞬く間に片付け、雪斗はさらに階段を駆け上がる。

 階段の上には、さらに三人ほどが待ち構えていた。下方からの音に警戒して、すでにレモン爆弾と絞りカスを投げつける体勢だった。

 雪斗に向かって投げつけられるその武器をものともせず、雪斗は突進する。

 雪斗がその三人の隙間を駆け抜けると、その三人が雪斗の方へと向き、そのタイミングに後方から押し寄せた仲間たちが突っ込んでくる。その連携により、雪斗が手を出すことなく倒れた。

 ふう、と一息吐くと、雪斗は廊下へと飛び出した。仲間たちがそれに続く。

「宮本だ!」

「攻めてきたぞ!」

「げ、迎撃だ!」

 それほど警戒していなかったようで、レモン派は一瞬で混乱した。それを好機と言わんばかりに雪斗が足を緩めず吶喊する。

 雪斗が数人ばかりを殴り倒したところで、不意に後方へと飛び退り、しゃがみこんだ。

 その瞬間、廊下には胡椒の弾幕が張られた。

 原理主義者たちの胡椒爆弾がこれでもかと投げつけられた。

「っくしょん!」

「ごほっごほっ」

 クシャミに咳、目や鼻の痛みを訴える声がたちまち場を支配する。

 投擲の一斉射が終わったところで、雪斗は手を振り上げて攻撃の停止を身振りで命じた。

 胡椒の煙幕の中から、時折レモン果汁の水風船や絞りカスが飛んでくるが、狙いを付けて投げられないようで壁や天井に当たるものが多く、極稀に届いたものだけが原理主義者へのダメージとなった。

 その散発的な攻撃は、士気が高い兵たちの動きを止めることは出来なかった。

 廊下を支配する胡椒が薄まったところで、雪斗は振り上げた腕を力強く正面に振り下ろした。

 前進の命令である。

 雪斗自身も、自ら発した命令に従ってレモンどもの中に分け入っていく。

 大半の連中はうずくまって顔を防御している。そんな連中を蹴倒し、殴り倒していく。

 この居残り組の指揮官は井出晋であるという情報はすでに得ている。

 その姿を探すが、皆が一様にうずくまっているため、見つけるのは困難そうに思えた。

 北階段近くまで進んでみたが、見当たらない。

 その時、背後で大きな雄叫びが聞こえた。

 三年三組の教室から、晋を先頭にした無傷の増援が、原理主義者たちの脇腹を突き刺すように割り込んできた。

 押し寄せる物量に、雪斗たちは分断された。

「やあ宮本。気分はどうだい」

「よう井出。なかなか面白いことをしてくれるじゃないか」

「君たち相手には過ぎた作戦だったかな?」

「これくらいじゃ負けねーよ」

 とはいえ中央を塞がれて分断されては、各個撃破のいい的だ。こちらの作戦が、相手に利用されたようにしか思えない。

 攻めあぐねた雪斗の隣で、比奈子が叫んだ。

「挟み撃ちよ! みんな、そのまま突っ込んで!」

 比奈子の叫びに呼応して、原理主義者たちは中央に陣取るレモン派へと襲い掛かった。

「なんだと! くそっ、蹴散らせ!」

 晋が声を張り上げると、自由主義者たちも迎撃態勢を取る。

 雪斗は比奈子の声に素早く反応して晋へと向かう。

「作戦が仇になったな!」

 ダッシュの勢いを乗せた拳を、晋の胸部へと叩き込む。だが、晋は一歩だけ下がってそれを受け止めた。

「はっ! キャッチャーなめんな。この程度のあたりじゃオレは倒せないぜ!」

 振るわれた筋肉に覆われた太い腕を一歩下がって雪斗は躱した。

「言っておくが、練習でレスリング部の連中のタックルを受けているんだぜ。お前程度じゃ俺は倒せるとは思うなよ」

「めんどくせえな」

 本当に面倒な相手だ。雪斗はそう思った。

 両の拳をいったん開き握り直すと、雪斗は晋に向かって突進する。

 両腕を開いて待ち構える晋が、それを受け止めようと腕を閉じようとした瞬間に、雪斗は右へと飛び跳ねる。

「はっは! キャッチャーなめんな!」

 左足をすっと引いて体の向きを変える晋。どこまでも正面で受け止める気であることが伺い知れる。

 廊下を蹴って、低い弾道で突っ込む雪斗を、晋が両腕で押さえこもうと掴みかかってくる。

 着地した右足を踏ん張って、雪斗は体を持ち上げた。

 晋が雪斗の体を抱え込んだのと同時に、雪斗のヘッドバットが晋の顎を直撃した。

 その衝撃で、晋が腕を開いた。その瞬間を見計らって雪斗は距離を開ける。

「くそ、頭硬ぇな」

 雪斗は痛みの残る頭を押さえながら、晋を見た。

 顎への一撃で脳を揺らされた晋が、足を踊らせていた。

 それを見て、雪斗はすぐさま距離を詰め、その顔面へと拳を叩き込む。

「おらあっ!!」

 晋はそれを避けることもできず、見事に顔面で受け止めた。雪斗が拳を振りぬくと、そのままもんどりうって廊下へと倒れ込んだ。

「防具付けてなきゃ、キャッチャーだからって痛いのは変わらんだろ」

 雪斗はそう吐き捨てた。

 晋が倒れる頃には、廊下は原理主義が制圧をし終えていた。

 中央に割り込んできた晋率いるレモン派は、足元にうずくまる仲間が邪魔で身動きが取れなくなっており、そこに左右から多量の胡椒を巻き散らかされた。

 分断が、挟撃になってしまった。

「井出君はただの頭でっかちだったみたいね」

 比奈子が、ぼそっと言った。

「そうだね。だけど、挟み撃ちって言ってくれなかったら危なかったかもね」

 夏帆が比奈子を称えた。

 よし、と雪斗は廊下にあふれかえるレモンどもを、どこか一つの教室にまとめて放り込むように指示を出した。


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