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第八話 三竦み その1

「まずはマヨネーズの連中を潰すのが優先かな」

 二年四組のメンバーを集めた会議で、紳一郎がそう告げた。

「でもさ。そこでいたずらに犠牲を出すと、レモンの連中との決戦に響かないかな」

「そうだね、その懸念はもっともだと思うよ」

 夏帆の質問を、紳一郎は待っていたと言わんばかりに受け止めた。

 人数に劣る以上、これ以上のメンバーを減らすことは致命傷になりかねない。

「何度も協力を求めているのに断られている現状、最悪の可能性はレモンの連中とつながることなんだ。

 お蘭たちと一緒になって、第三勢力になられても困る」

 そのためには、自ら潰しに行ってそうした上で、可能であれば麾下に加えたい。

 紳一郎は集まった一同を見回しながら言った。

「すぐにでも、出撃が出来るよう、準備を整えておいてほしい」

 そう言った紳一郎は、教室の隅っこで放心している悪友とその彼女を見た。


 ライバルが元彼女だったという事実を、興奮から覚めた雪斗が気付いたのは、自陣に戻ってしばらくしてからだった。

 その上、高校では大人しくしていようと、不良であった事実をひた隠しにしていたのに、それを忘れてケンカすることがとても楽しかった。

 一回で二つのショックを受けた雪斗は、その衝撃に放心してしまっていた。

 なんとか教室に運び込んだが、雪斗は何も言わず、ただ床を眺めている。

 比奈子は、そんな雪斗を放っておけずに寄り添っていたが、何度声を掛けても、雪斗は返事を返さなかった。

 しばらくはそっとしておこうと、隣に座って手を握り続けている。

 紅蜂とのケンカは一進一退で、重い一撃は受けていなかったため、表面上は大きなケガは見受けられなかった。

 少し腫れあがった雪斗の頬を、比奈子は空いている方の手で濡らしたハンカチを当てて冷やしている。

「まだ、落ち込んでる?」

 そこに、打ち合わせを終えた紳一郎がやってきた。

「まだ」

「ユキってば、意外と落ち込むんだよね。ケンカは強いくせに」

「そうなんだ」

 比奈子の返事を聞いた紳一郎は、おもむろに雪斗の頭へ空手チョップを叩きつけた。

「──!」

 声にならない悲鳴を上げて、顔を上げる雪斗。

「ユキさー、落ち込むのは後にしようぜ」

「ちょっと、田辺君」

 比奈子に咎められた紳一郎は、彼女の方を向き、口の前で人差し指を立てた。

「春歌ちゃんが紅蜂だったから何なのさ。不良だったから何なのさ」

 見上げてくるだけの雪斗に、紳一郎はさらに続けた。

「お前だって隠してたんだから、オアイコだろ。それに、それでも隣にいてくれる彼女がいて、何が不満なのさ」

 紳一郎がノーモーションからつま先を雪斗の腹に叩き込む。

「……」

 雪斗は、何も言わずに立ち上がった。何も言わないまま、紳一郎を睨み付ける。

 やがて。

「……そう、だな」

「やっと復活かい」

「余計なことを考えるのは辞めるわ。それから──」

 言い終わらぬうちに、雪斗は紳一郎の顔を殴りつけた。綺麗に入ったその一撃に、紳一郎はもんどりうって倒れた。

「殴られた分は返してもいいよな」

「返却は、受け付けてなかったんだ!」

「知らん」

 紳一郎は差し出された雪斗の手を掴んで、起き上がった。

「まったく。ケンカは強いのに落ち込む癖は、いい加減に直して欲しいよ」

「うっせー」

 笑いあう二人に、比奈子はこれが男の友情なのかな、と考えていた。なんにせよ、雪斗が元気になってよかった、と思った。

「まさか、紅蜂とイチャラブってたとは思わなかった」

「そうだね。春歌ちゃんもケンカっ早い子だったけど、まさか紅蜂本人だとは思わなかった」

「お前も、何度もボコられてたしな」

「ユキが連れまわすから、相棒だと思われて狙われてただけだよ」

「俺が悪いのか」

「今頃気付いたのかよ!?」

 呆れかえる紳一郎の肩に腕を回して、

「あっはっは、いいじゃねーか。よっしゃ、レモンの連中を薙ぎ払いに行こうぜ、相棒」

 雪斗はそう言った。

「残念、先にマヨネーズなんだ」

「おっと、それは面白い」

 比奈子は、教室を出ていこうとする二人に向かって走り出した。


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