超絶弩級の美人ちゃんは馬鹿じゃない
ところで話変わるが、今世の私は千人に一人レベルの美人だ。
肩あたりで揺れる、びっくりするほどサラッサラな明るいトーンの茶髪。猫みたいにパッチリとした鮮やかな黄色の瞳。薄紅色の唇は見るかに柔らかそうで、笑うと小さな八重歯が口元から覗く。
どこか儚げだけど、口角を上げると意外なほど無邪気な雰囲気になる。前世で出会ってたら、無条件に宝石を貢いでたね絶対。
で、だよ。
そんな超絶美人顔面なんて、守る一択じゃないですか。
この! まともな化粧品もろくにない世界で! こーんな美人(自分)をほっぽっとくなんて言語道断!! ありえない!!
「というわけでこちら、試作品一号の『薔薇水』です。歴史に残る大発明の第一歩となる代物なので、今のうちに拝んでおくことをお勧めします。ぱんぱかぱーん!」
「……詳しく説明しろ似非美人」
「似非なんて酷い。どっからどう見ても超弩級の美人さんでしょ」
「うるさい似非美人」
ぴえん。
さて、薔薇水をご存知ない方にご説明しよう。
薔薇水とは、言ってしまえば化粧水の一種だ。
作り方は超簡単。お鍋にバラの花びらと水を入れて沸騰させ、その湯気を冷やして集めるだけ。
元が湯気なので無菌で腐りにくく、ふんわりとくどくない程度にバラの香りが香る。
別にバラじゃなくてもいいんだけど、この高級感溢れる香りがいいんだよね〜。お嬢様方に売れば、爆ウケすること間違いなし!
商品化もちょっと考えている。ちょっとだけど。
だけどこれ、前世含めて初めて作ったから、効果が未知の領域なんだよね。適当に売り捌いてお肌トラブルとか起きたら目の当てられない。
というわけで早速テスター開始である。被験者は私とアックスだ。
「ほっれほれほれ。こうやって手に取って広げて、こう、お肌に馴染ませるようにぬりぬり〜っと。やってみあーくん」
「……こうか?」
「うん、上手上手〜」
奇跡級の美青年と超弩級の美人が、揃って鏡の前で顔をこねくり回す。
手に取った瞬間、ふわっと香るバラの匂い。なんとなくお嬢様の気分になる。
これでアックスの肌に合わなかったら、敏感肌用にカモミールの化粧水を作ろうと思っている。もちろん、異常がないのが一番だけどね!
化粧水を塗り終わったら、次は乳液だ。
前世で使っていたような乳液の成分は大雑把にいうと、水と油と、二つを繋ぐための乳化剤の三つ。結構シンプルだ。
というわけで、一応トラブルがないようにアックスに浄化してもらった井戸の水とオリーブオイル、そして乳化剤になる卵黄を用意した。
卵黄が乳化剤になるのは、卵黄にはレシチンという最強の天然乳化剤が含まれているから。マヨネーズが分離しないのもこれにおかげ。
「って感じでその三つを混ぜ混ぜしたのがこちらの乳液です。はい塗ってー」
「お前は前世でこんな妙な液体まで顔に塗ってたのか……」
妙て。世の中の乙女達に謝れや。
鏡で確認してみると、久しぶりに潤いを与えたお肌が光り輝いて見える。
試しに自作のファンデーション(水と植物油と真珠の粉配合)と口紅(蜜蝋と植物油と紅花の汁)、アイシャドウ(雲母の粉末と植物油と蜜蝋)で軽くお化粧してみる。
「わ、化粧のノリ、最っ高……!」
鏡の中には華やかにお化粧された超絶弩級の美人さん。
なんて素晴らしいことでしょう。私もうこの子達なしじゃ生きてけないよ。
大歓喜する私を見てアックスが一言。
「……何が変わったんだ?」
「ちょっとそこに直ろうかあーくん」
乙女心のわからないやつめ! もう!
この努力の結晶たちが見えないのかと憤慨していると、アックスがふと首を傾げる。化粧水と乳液のおかげで、いつにも増してイケメンに見える。
アックス目当てで来る女性客も多いんだよね……。この美形さんめ。
「ところで、なんで突然こんなこと始めたんだ?」
「え〜、乙女に言わせるなんて……キャッ!」
「…………」
「ごめんなさい、調子に乗りました。反省してます」
だからその炎を仕舞ってください。
ここからは真剣な話をしよう。うん。ちゃんと話すってば。
「あのね、人の第一印象って、ほとんどが外見で決まるんだよ」
たとえば、清潔感。それから姿勢の良さとか細かな所作とか。
顔や身体のバランスが良くて左右対称な人は、遺伝子が優秀で健康な人。黒目が大きくて潤っている人は無害で魅力的な人、って感じに。
人はそういうところで無意識に無害か有害かを判断するのだ。
だから肌を整えて相手に清潔感を覚えさせ、身だしなみを整えて格下と舐められないようにする。アイシャドウと口紅で意思の強さと知性を強調させる。敵意を持っていると悟られないように、両手は常に見えるところに置いておく。
そうすることで、相手の油断と信用を招ける。
こういう無意識の判断が一番怖いんだよね〜。気づかないうちに隙を晒したりするんだ。
「つまりこれは、立派な死亡フラグ対策なんだよ」
言ったでしょ、裏では今、悪役側の大物たちが暴れ回ってるって。
それで調べてみたら、魔王がウチの店の存在に気づいたらしいんだ。
「だからもうすぐ来るかもしれなくて」
「なんでそれを早く言わないんだ馬鹿似非美人!!」
「なんてひどい幼馴染なんだ」
馬鹿って。馬鹿ってなんだその世界一私に似合わない単語は。
馬鹿じゃないからこうして異世界コスメをセッセと作ってるんじゃないか。あと似非じゃないから。
あと、死亡フラグ対策の他にも、売り捌いて売り上げアップ狙えないかなー。って目的もあるんですよ。
絶対売れると思うんだよね、これ。大した素材使ってないから平民でも手が届く値段にできそうだし。
そうドヤ顔で熱弁する私に、アックスは死んだ魚の目で正しく諭した。
「もうなんて言葉をかけたらいいのかわからないが、一言だけ言っておく。ウチは飲食店だ」
「…………」
飲食店で売るつもりだった食べられないモノをソ……ッと机の上に置いた。
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