表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

 ――どれだけの時間が経ったのかはわからない。気がついた時には夢の世界にいた。そう、これは夢だ。夢でないとありえない。

 寝ているのは自分のベッドだ。机、椅子、本棚、備え付けのタンス、部屋の風景も変わらない。だけど、身体は痺れているし、さっきまであったものが見当たらないのだ。

 ……僕の腕と足がない。

 肩から下、股関節から下、全てが無くなっている。痛みは全くないが、痺れのせいで体の感覚もない。首だけはどうにか動かせる。助けを呼ぼうにも声が出せず、全身から嫌な汗が吹き出した。

 パニックになりながら、首だけを一生懸命動かして、どうにか夢から醒めようともがく。するとそれは、何の前触れもなく現れた。

 嫌な音が壁から、カサカサカサ。

 消毒液の匂いが鼻にツンと。

 空気が重くなり、苦味がしそうだ。嫌なものが現れたことを肌でも感じた。

 そんなもの、見たくはない。だが、見ない方が怖い。首をゆっくり動かすしかなかった。

 なんだよ。これ……。

 たくさんの色がぐちゃぐちゃに混ざったように全身が黒い、長い足が生えた蜘蛛だ。二匹も壁に張り付いており、さらにその大きさが普通ではない。人の顔くらい、つまり北崎の周りを飛んでいる硝子羽のアゲハと同じだ。

 黒い蜘蛛は二匹とも、とてつもない速さで巨大な体を動かし、壁をつたって天井までやってきた。自分の身体のどの位置になるかはわからないが、ベッドの延長線上にいることはわかる。

 気持ち悪すぎる。何とかして逃げなきゃ。

 それなのに身体がさらに痺れて首も動かなくなり、瞬きさえもできなくなった。

 二匹の黒い蜘蛛からポタリ、またポタリ、液体が涙のように僕の腹部に落ちる。制服に染み込んで皮膚にまで届き、ヒリヒリと感じる熱のせいで、すぐに身体に悪いものだとわかった。

 消毒液の匂いがさらに濃くなり、強い吐き気がしてくる。もちろん、今の僕は吐くことすら出来ない。

 一匹の黒い蜘蛛が、ガタガタ揺れる。

 ぐらりぐらり、もう一匹の黒い蜘蛛も揺れる。

 最悪の予感がした。そして、それがもう防げないこともわかった。

 やめろやめろやめろやめろ!

 次の瞬間だ。二匹の黒い蜘蛛が、手足がなくなった僕の胴体に落下してきたのだ。

 短い足のような口で僕をかじるわけでもなく、糸を出すわけでもない。二匹とも光がない八つの目で僕を見つめる。

 それは、凍り付いたかのように淡々としたものだった。

 中年男性の声が黒い蜘蛛から聞こえ、鼓膜から脳へと無理やり捩じ込まれていく。

「おまえはいくら頑張っても『 』にはなれないんだよ。俺から言うことはもう何もない。思い出でも作って自分のために生きろ」

 さらに、もう一匹は中年女性の優しすぎる声だ。まるで死者への憐れみのように聞こえる。

「今までごめんね。これからはもう自由だから、いっぱい楽しんでね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ