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THE LAST TEEN KISS-シュメタリングの夜明け-  作者: 野良猫
第二章 君は蜜よりも甘く
11/22

2006/5/17 電話、相談

 毎日、毎日、北崎達の会話を聞いていた。聞けば聞くほど、彼女はグループの女子に何も興味がなく、話を合わせているだけだとわかる。

 ところが今日の話によると、北崎はmixiを退会したようだ。周りに嘆かれていたし、僕もそこまでするのは意外だった。日常の仮面をまとった北崎なら、もっとうまい具合にやると思っていたからだ。

 一方、僕自身は今日も変わったことなんてない。

 夜だっていつも通り勉強に全く集中出来ず、ただ自室の机に座っているだけだった。北崎との関係がなくなってからずっと、心が渇いて何も手につかないのだ。

 このまま起きていてもしょうがない。もう寝てしまおう。

 ……いや、眠れない。

 机に置いてあった携帯電話が目に入る。手に取ってパカっと開き、発信履歴を表示した。

 もう、話すことなんて何もない。それにこんな時間に電話したら迷惑だろう。でも、このままだと本当に終わってしまいそうだ。北崎との不思議な日々を終わらせたくない。

 ここで嫌われたら諦めよう。

 覚悟を決めて発信のボタンを押す。

「……え? 修治?」

 コールもなく、北崎の声が聞こえてきたのだ。

 心臓が高鳴る。大袈裟だが、二人の声を繋いでいる見えない電波が、赤い絲のように思えた。だが、絲から伝わる驚いた彼女の声が、脆く細く感じる。切断してしまわないように、丁寧に言った。

「ごめんね。こんな時間に電話して」

「私も話を聞いてもらいたくて、電話しようと思ったから、ちょっとびっくりしただけだよ」

 なるほど、コールもなく電話に出た理由がわかった。でも、何があったのだろうか。絲をゆっくり手繰り寄せるように答える。

「どうした? どんな話でも聞くよ」

 北崎はしょげた声だが、口調だけは明るい。

「私、蝶になれることがうれしくて、この世界から飛び立つことしか考えてなくてさ。でも、肝心の行きたい場所のこと、全く考えてなかったの。バカだよねぇ。修治の家から帰る途中で気づいちゃった」

 別件だが、僕も考えていなかったことに気がついた。

 北崎は何故そこまで蝶になりたいのか。自分があまりこの世界に執着がなくて、考えもしなかったが、普通なら人間を辞めてしまうなんて怖いはずだ。

 クラスでの振る舞い……羽化できないなら自殺する……きっとポジティブな理由ではないのだろう。

 無闇に聞くと、せっかく繋がった赤い絲が切れてしまう気がした。言うべきことがわからないでいると、北崎は不安そうに続ける。

「ごめんね、こんなこと言って」

「謝らなくていいよ。迷惑になんて思ってないし」

 むしろ、電話できたことがうれしかった。だけど、このまま何も言わなければ、この通話は終わってしまうかもしれない。半ば無理やり、赤い絲を自らに絡めるようなことを言ってしまった。

「わからないなら、一緒に考えようよ」

「良いの?」

 きっと北崎は大きな目を見開いて、少しの希望を見ているのだろう。言ってしまったはいいが、もちろん案なんかない。それでも、わからないでは済まされない。話しながら必死に考えた。

「蝶ってさ、なんかフワフワ飛ぶよね。そんな体験をすれば、行きたい場所がわかるんじゃない?」

「そっか。蝶の感覚になるのかぁ……」

 これが本当に正しいのだろうか。変なことを言ったかもしれない。それでも、そんな体験ができる場所がないか、自分の少ない人生経験や知識から考える。こんな時、学校の勉強は驚くほど役に立たなかった。だけど、ここで答えを出せば、また北崎と繋がれる。

 必死に考えると、幼い頃の思い出が答えをくれた。学校からでもどうにか行ける、一度だけ行ったことがある場所だ。

「観覧車なんてどう? あれならゆっくり上がるから」

「あ! 遊園地か!」

 声色から納得してくれたようだ。もちろん、遊園地は一人で行くところではない。だが、次に言うこと考えるだけで、心臓がうるさくなる。こんなことを言って大丈夫なのだろうか。

 いや、悩んでも仕方ない。不安だがこれから言うことは自然だ。むしろ、言わなければならない。

「い、一緒に行こうよ」

「もちろん! いつにする? いつにする?」

 食い気味で受話器からはしゃぐ声が聞こえてきた。

「えっと……なるべく早い方が良いよね。明日の放課後とか?」

 緊張と北崎の圧に急かされてしまい、ろくに考えずに言ってしまった。

「そんな遅くから行ったら、遊園地終わっちゃうよぉ」

 話し合いの結果、次の土曜日に決まった。学校が終わって、各自ご飯を食べてから現地で会う。北崎がレンヤと別れた直後であり、誰かに見られて変な誤解をされないために、遊園地以外では別々に行動することにしたのだ。

 おやすみで通話は終わる。……赤い絲は繋がったまま。

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