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三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


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83/84

83.二つの魂、同じ空へ

核を討ち滅ぼしてから、数十年の歳月が流れていた。


あの戦いのあと、国は驚くほど静かに、そして確かに平和へ向かっていった。

魏も呉も、もはや敵ではない。

人々は互いに手を取り、荒れ果てた大地を耕し、街を建て直し、子どもたちの笑い声が戻ってきた。


漢は復活した。

そして、平和は続いた。


だが―織だけは、時が止まったままだった。


廠が眠りについたあの日から、織はずっと皇后を貫いた。

求婚する者は何人もいた。

政治的な縁談もあった。

だが、織はすべてを静かに断った。


「私は……あの方の帰りを待つと決めています」


そう言って、微笑んだ。


誰も責めなかった。

誰も止めなかった。

織の想いは、国中が知っていた。


----


ある日、宮殿に静かな知らせが届いた。


――廠の脈が、止まった。


医官たちは深く頭を垂れた。


「……長きにわたり、脈は保たれておりましたが……

ついに、天へ召されたのでしょう」


織は、しばらく言葉を失った。

廠の寝台のそばに座り、そっとその手を握る。


温かさは、もうなかった。


「…廠」


その声は、涙ではなく、微笑みに近かった。


かすみも紅陽も、老いた顔で静かに頷いた。


皆、分かっていたのだ。

廠は、ずっとこの国を見守り続けていたことを。


----


葬儀は、国を挙げて行われた。


洛陽の空は澄み渡り、風は穏やかだった。

人々は黒い衣をまとい、道の両側に並んだ。


廠の棺が運ばれると、誰もが頭を垂れた。


「この国を救った英雄だ」

「我らの皇帝だ」

「人類を守った方だ」


老いた曹叡が杖をつきながら棺の前に立ち、震える声で言った。


「劉禅……お前がいなければ、我らはここにいなかった。

お前が守った国は、今も平和だ。

……ありがとう」


紅陽は涙をこらえきれず、拳を握りしめた。


「陛下……俺たちは、あなたの背中を追い続けました。

どうか、安らかに」


関優と張凱も、白髪の混じった頭を深く下げた。


織は棺のそばに立ち、静かに目を閉じた。


「陛下。

あなたが守った国は、もう大丈夫です。

あなたが願った未来は、ここにあります。

……どうか、ゆっくりお休みください」


その声は、まるで祈りのようだった。


----


葬儀が終わり、人々が去ったあと、

織はひとり、廟の前に残った。


夕日が差し込み、廟の影が長く伸びる。


「…廠。

私は、あなたを待ち続けました。

でも、もう…いいのですね」


織は空を見上げた。


そこには、雲ひとつない青空が広がっていた。


「あなたが守った世界で、私は生きました。

あなたが残した平和の中で、私は笑いました。

……ありがとう」


風が吹き、織の髪を揺らした。


その風は、どこか懐かしい温かさを帯びていた。


織はそっと目を閉じた。


「また…いつか」


その言葉は、誰に向けたものでもなく、 ただ空へ溶けていった。


----


その後、織は、紅陽を居室に呼んだ。


「紅陽殿。 あなたに……漢の帝を継いでいただきたいのです」


紅陽は驚き、目を見開いた。

「皇后様……私は……」


「あなたほど、この国を理解し、

この国を愛し、

この国の人々に寄り添える者はいません」


織の声は揺れていなかった。

その決意は、長い年月の中で固められたものだった。


かすみが紅陽の手を握った。

「あなたなら……できます。

私たちの子どもたちも、きっと支えます」


紅陽は、静かに目を閉じた。

「……分かりました。 廠の遺志を…必ず継ぎます」


こうして、紅陽は漢の新たな帝となり、 かすみとの子どもたちが、その後継者として育てられていった。


----


現代に戻り、ビジネスを興した廠。

その目が閉じられた時。


織は、紅陽たちと共に、廟の前に来ていた。


「……そちらへ行っても、よろしいですか」


その瞬間、織の身体が、静かに崩れ落ちた。


医官たちが駆け寄ったが、 織の顔は穏やかで、まるで眠っているようだった。


「……皇后様……」

かすみが泣き崩れ、 紅陽は拳を握りしめた。


だが、誰もが分かっていた。

織は、廠のあとを追ったのだ。


----


その夜、洛陽の空には、 二つの星が並んで輝いていた。


人々はそれを見上げ、静かに語り合った。


「あれが……陛下と、皇后様だ」

「ずっと……一緒なのだな」


風が吹き、宮殿の庭の木々を揺らした。


その音は、どこか優しく、まるで二人の笑い声のように聞こえた。

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