83.二つの魂、同じ空へ
核を討ち滅ぼしてから、数十年の歳月が流れていた。
あの戦いのあと、国は驚くほど静かに、そして確かに平和へ向かっていった。
魏も呉も、もはや敵ではない。
人々は互いに手を取り、荒れ果てた大地を耕し、街を建て直し、子どもたちの笑い声が戻ってきた。
漢は復活した。
そして、平和は続いた。
だが―織だけは、時が止まったままだった。
廠が眠りについたあの日から、織はずっと皇后を貫いた。
求婚する者は何人もいた。
政治的な縁談もあった。
だが、織はすべてを静かに断った。
「私は……あの方の帰りを待つと決めています」
そう言って、微笑んだ。
誰も責めなかった。
誰も止めなかった。
織の想いは、国中が知っていた。
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ある日、宮殿に静かな知らせが届いた。
――廠の脈が、止まった。
医官たちは深く頭を垂れた。
「……長きにわたり、脈は保たれておりましたが……
ついに、天へ召されたのでしょう」
織は、しばらく言葉を失った。
廠の寝台のそばに座り、そっとその手を握る。
温かさは、もうなかった。
「…廠」
その声は、涙ではなく、微笑みに近かった。
かすみも紅陽も、老いた顔で静かに頷いた。
皆、分かっていたのだ。
廠は、ずっとこの国を見守り続けていたことを。
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葬儀は、国を挙げて行われた。
洛陽の空は澄み渡り、風は穏やかだった。
人々は黒い衣をまとい、道の両側に並んだ。
廠の棺が運ばれると、誰もが頭を垂れた。
「この国を救った英雄だ」
「我らの皇帝だ」
「人類を守った方だ」
老いた曹叡が杖をつきながら棺の前に立ち、震える声で言った。
「劉禅……お前がいなければ、我らはここにいなかった。
お前が守った国は、今も平和だ。
……ありがとう」
紅陽は涙をこらえきれず、拳を握りしめた。
「陛下……俺たちは、あなたの背中を追い続けました。
どうか、安らかに」
関優と張凱も、白髪の混じった頭を深く下げた。
織は棺のそばに立ち、静かに目を閉じた。
「陛下。
あなたが守った国は、もう大丈夫です。
あなたが願った未来は、ここにあります。
……どうか、ゆっくりお休みください」
その声は、まるで祈りのようだった。
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葬儀が終わり、人々が去ったあと、
織はひとり、廟の前に残った。
夕日が差し込み、廟の影が長く伸びる。
「…廠。
私は、あなたを待ち続けました。
でも、もう…いいのですね」
織は空を見上げた。
そこには、雲ひとつない青空が広がっていた。
「あなたが守った世界で、私は生きました。
あなたが残した平和の中で、私は笑いました。
……ありがとう」
風が吹き、織の髪を揺らした。
その風は、どこか懐かしい温かさを帯びていた。
織はそっと目を閉じた。
「また…いつか」
その言葉は、誰に向けたものでもなく、 ただ空へ溶けていった。
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その後、織は、紅陽を居室に呼んだ。
「紅陽殿。 あなたに……漢の帝を継いでいただきたいのです」
紅陽は驚き、目を見開いた。
「皇后様……私は……」
「あなたほど、この国を理解し、
この国を愛し、
この国の人々に寄り添える者はいません」
織の声は揺れていなかった。
その決意は、長い年月の中で固められたものだった。
かすみが紅陽の手を握った。
「あなたなら……できます。
私たちの子どもたちも、きっと支えます」
紅陽は、静かに目を閉じた。
「……分かりました。 廠の遺志を…必ず継ぎます」
こうして、紅陽は漢の新たな帝となり、 かすみとの子どもたちが、その後継者として育てられていった。
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現代に戻り、ビジネスを興した廠。
その目が閉じられた時。
織は、紅陽たちと共に、廟の前に来ていた。
「……そちらへ行っても、よろしいですか」
その瞬間、織の身体が、静かに崩れ落ちた。
医官たちが駆け寄ったが、 織の顔は穏やかで、まるで眠っているようだった。
「……皇后様……」
かすみが泣き崩れ、 紅陽は拳を握りしめた。
だが、誰もが分かっていた。
織は、廠のあとを追ったのだ。
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その夜、洛陽の空には、 二つの星が並んで輝いていた。
人々はそれを見上げ、静かに語り合った。
「あれが……陛下と、皇后様だ」
「ずっと……一緒なのだな」
風が吹き、宮殿の庭の木々を揺らした。
その音は、どこか優しく、まるで二人の笑い声のように聞こえた。




