80.中核討滅――五人の最終連携
化け物の群れの中核にたどりついた。
ひときわ巨大な影が、ゆっくりと前へ進み出てきた。
廠、曹叡、紅陽、関優、張凱。
誰もがその姿を見つめ、言葉を失った。
影は、かつて人であったものの形をわずかに残している。
だが、皮膚は黒くひび割れ、骨はねじれ、
その目だけが、異様に澄んでいた。
影が口を開いた。
「……ニン……ゲン……」
その声は、地の底から響くような低さでありながら、どこか“人の声”の名残を感じさせた。
紅陽が震える声で呟く。
「…言葉を…話している……」
影は、まるで“思い出した”かのように、次の言葉を吐いた。
「……ソン……ケン……
喰ッタ……
次ハ……
オマエラ……」
廠の背筋に冷たいものが走る。
曹叡は歯を食いしばり、叫んだ。
「貴様が、孫権を」
影はゆっくりと首を傾けた。
「……喰ラウ……
喰ラウ……
喰ラウ……
世界……
喰ラウ……」
その瞬間、周囲の異形が一斉に咆哮を上げた。
大地が震え、空気が裂ける。
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廠は、槍を構えた。
前方にたつ“影”は、他の異形とは明らかに違う。
その存在だけで、空気が重く沈む。
紅陽が方天戟を構え、低く吠えた。
「行くぞ! 化け物に容赦はいらぬ!」
紅陽が先陣を切り、異形の群れへ突撃した。
戟が唸り、黒い肉を裂く。
その動きは、まるで炎が駆け抜けるようだった。
中核の周囲を削り取るように、異形を次々と薙ぎ払っていく。
曹叡は魏軍を率いて側面へ回り込む。
「魏軍、突撃」
魏の兵たちが雄叫びを上げ、黒い波へ突っ込んだ。
鋼の音と咆哮が交錯し、戦場が揺れる。
反対側では、関優と張凱が同時に動いた。
「張凱、右を抑えろ!」
「任せろ!」
二人は息を合わせ、異形の壁を切り裂いていく。
その動きは、まるで長年の戦友のように滑らかだった。
左右が崩れ、中央がぽっかりと開いた。
廠は、槍を握り直す。
(……ここだ)
ひときわ大きな影―敵の中核が、廠を見下ろしていた。
その目は、澄んでいるのに、底がない。
人間の形をしているのに、人間ではない。
中核が、喉の奥で何かを鳴らした。
「……オマエ……」
廠の背筋が粟立つ。
「……喰ウ……」
次の瞬間、中核が地を蹴った。
黒い残像が走り、廠の目の前に迫る。
止まれ。
中核は、しかし動きを止めない。
「何!?」
ぎりぎりのところで、影の手を躱した。
(効かないって…マジでラスボスか…ならば)
動け。
「廠!」
曹叡が叫び、剣を構えて中核へ突っ込む。
だが中核は、曹叡の斬撃を片手で受け止めた。
金属が悲鳴を上げる。
「なっ……!」
曹叡の剣が軋む。
中核は、ゆっくりと曹叡の顔を覗き込んだ。
「……オマエ……モ……喰ウ……」
紅陽が背後から方天戟を叩き込む。
「させるかぁッ!」
轟音。
中核の身体がわずかに揺れた。
だが―倒れない。
関優が叫ぶ。
「硬すぎる……!」
張凱が歯を食いしばる。
「だが、やるしかねぇ!」
五人が同時に構え直す。
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廠は槍を構えた。
中核は、まるで廠だけを見据えているかのように、澄んだ目を細めた。
「……オマエ……」
その声は、言葉というより“意思”そのものだった。
(時間停止が使えない…だが…)
槍を握り直す。
ここまで戦ってきたんだ。
紅陽が叫ぶ。
「いくぞ、化け物」
紅陽が方天戟を振りかざし、真横から中核へ突撃した。
戟の刃が黒い皮膚に食い込み、火花が散る。
「ぬぅっ……硬い……!」
だが、その一撃で中核の動きが一瞬止まった。
その隙を逃さず、関優が左から槍を突き込む。
「紅陽、押し込め!」
刃が中核の脇腹に深く刺さる。
黒い血が飛び散り、地面を焦がした。
張凱が右から斬りかかる。
「こいつは……人間じゃねぇ! 遠慮はいらねぇ!」
三方向からの攻撃が、中核の動きを確実に鈍らせていく。
曹叡が叫ぶ。
「喰らえ!」
中核の背後から、刃を突き立てた。
廠は槍を構え、深く息を吸った。
中核の胸の中央―
黒いひび割れが、脈打つように光っている。
(あれが……核の核だ)
廠は地を蹴った。
「うおおおおおおッ!」
槍が一直線に突き出される。
中核が咆哮した。
「アアアアアアアアアアアアアアアア!」
黒い波動が爆ぜ、周囲の大地が砕ける。
だが、紅陽たちが必死に押さえ込んでいるため、中核は動けない。
廠の槍が、黒いひび割れへ―
突き刺さった。
轟音。
光が爆ぜ、黒い肉が裂ける。
中核が絶叫した。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
廠は槍を押し込みながら叫んだ。
「ここで終わりだぁぁぁぁッ!」
曹叡が剣を振り下ろし、
紅陽が戟を叩き込み、
関優と張凱が左右から突き刺す。
五人の力が、一点に集まった。
中核の身体が、光に包まれ――
砕け散った。
黒い破片が空へ舞い上がり、朝日を浴びて消えていく。
異形たちが一斉に崩れ落ち、砂のように砕けた。
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戦場に、静寂が戻った。
曹叡が息を吐いた。
「……勝った……のか……?」
紅陽が笑おうとしたが、その前に廠の身体が崩れた。
紅陽が駆け寄る。
だが廠は、もう意識を保てなかった。
最後に見たのは、仲間たちの顔と、朝日の光だった。




