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三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


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78/84

78.皇帝二人が先鋒!――人類の存亡を懸けた夜明けの最終突撃

長安には文官を中心とした後方支援部隊が集められ、洛陽には歴戦の軍人たちが配置された。


その二つの都の間――渭水沿いに、広大な砦が築かれた。

民も、兵も、文官も、身分を問わず総力を挙げて積み上げた砦である。


そこが、漢軍と魏軍の共同駐屯地となり、人類最後の防衛線となった。

やがて、異形の群れは予想通り砦へ殺到した。


昼夜の区別などない。

太陽が昇ろうと沈もうと、奴らはただ喰らうために押し寄せてくる。


廠と曹叡も、交代で前線に立ち続けた。

皇帝であることを捨て、ただの一兵として剣を振るう。


すべては――

中核となる存在を叩くため。

核が姿を現すその瞬間まで、目の前の異形を倒し続けるしかない。


人間同士の戦と違うのは、異形には恐怖も疲労もないことだった。


どれだけ倒されても、

どれだけ焼かれても、

どれだけ切り刻まれても――

ひるまず、ただ前へ進んでくる。


----


倒し続けて三日目。

異形の動きが、明らかに変わった。


これまでのように、ただ喰らうために突っ込んでくるのではない。

戦場のあちこちで、群れがぴたりと動きを止め、まるで何かを“待つ”ように、にらみ合いの形を取っていた。


「……あれは」


曹叡が、遠くの闇の中にひときわ巨大な影を見つけた。

他の異形とは明らかに違う。

その周囲だけ、空気が歪んでいるように見える。


近くで戦っていた紅陽が、血に濡れた方天戟を支えながら二人に駆け寄る。

「陛下、曹叡陛下m間違いありません。あれが、建業で孫権殿の首を掲げていた異形です」


紅陽の言葉に、廠と曹叡は同時に息を呑んだ。

戦場全体が、静かに震えていた。

まるで大地そのものが、これから現れる“災厄の王”を恐れているかのように。


----


関優と張凱も、その“核”をはっきりと見て取った。

関優は息を呑み、槍を握る手に力を込める。

「……あれが、群れを動かしているのか」


二人の声には、恐怖ではなく、“理解してしまった者の静かな覚悟”が滲んでいた。

戦場のあちこちで異形が動きを止め、まるでその巨大な影を中心に呼吸を合わせるように揺れていた。


----


異形の群れが動きを止めたまま、戦場に不気味な静寂が落ちた。

風も吹かない。

焚き火の炎さえ、息を潜めるように揺れを止めている。

その中心――

ひときわ巨大な影が、ゆっくりと前へ進み出た。


廠、曹叡、紅陽、関優、張凱。

誰もがその姿を見つめ、言葉を失った。

影は、かつて人であったものの形をわずかに残している。

だが、皮膚は黒くひび割れ、骨はねじれ、

その目だけが、異様に澄んでいた。

そして――

その口が、ぎこちなく開いた。


「……ニン……ゲン……」


廠が息を呑む。

曹叡は剣を構えたまま、動けない。

影は、まるで喉を思い出すように、ゆっくりと、確かに言葉を紡いだ。


「……喰ラウ……

喰ラウ……

喰ラウ……」

その声は、地の底から響くような低さでありながら、

どこか“人の声”の名残を感じさせた。


紅陽が震える声で呟く。

「……言葉を……話している……」


影は、紅陽たちを見渡し、


まるで“思い出した”かのように、次の言葉を吐いた。

「……ソン……ケン……

喰ッタ……

次ハ……

オマエラ……」


廠の背筋に冷たいものが走る。


曹叡は歯を食いしばり、叫んだ。

「貴様……孫権を……!」


影はゆっくりと首を傾けた。

「……喰ラウ……

喰ラウ……

喰ラウ……

世界……

喰ラウ……」


その瞬間、周囲の異形が一斉に咆哮を上げた。

まるで“核”の言葉に呼応するように。


全軍で一度、押しあった。

決着はつかない。


「一旦、退くぞ」


廠と曹叡は、馬首を返し、砦に戻っていった。


核は、原野にたたずんでいた。


----


夜明け。

集結してきた。

洛陽、長安から、漢軍、魏軍全ての武将が全軍が出撃してきた。


廠と曹叡が並んだ。


曹叡は廠に向かって頷くと、廠は全軍に伝え始める。

「みんな、これまで、よく戦ってきた。ついに、人類の死力を尽くす時が来た。敵の核が目の前だ」

全員が頷く。

「ここで勝たなければ、人類は滅びる。ここは、一歩も退かない。一匹でも多く敵を倒せ。人類の意地をみせてやるぞ」


おう、という怒号にも似た歓声が聞こえてきた。

「先鋒は、俺と曹叡」

全軍がどよめく。


「俺たちが死んでも、必ずあれを、打ち倒せ」

廠が剣を振り上げる。


「みな、必ず異形をここで打ち破る」

曹叡が駆け出す。


人類の最後の突撃が始まった。

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