78.皇帝二人が先鋒!――人類の存亡を懸けた夜明けの最終突撃
長安には文官を中心とした後方支援部隊が集められ、洛陽には歴戦の軍人たちが配置された。
その二つの都の間――渭水沿いに、広大な砦が築かれた。
民も、兵も、文官も、身分を問わず総力を挙げて積み上げた砦である。
そこが、漢軍と魏軍の共同駐屯地となり、人類最後の防衛線となった。
やがて、異形の群れは予想通り砦へ殺到した。
昼夜の区別などない。
太陽が昇ろうと沈もうと、奴らはただ喰らうために押し寄せてくる。
廠と曹叡も、交代で前線に立ち続けた。
皇帝であることを捨て、ただの一兵として剣を振るう。
すべては――
中核となる存在を叩くため。
核が姿を現すその瞬間まで、目の前の異形を倒し続けるしかない。
人間同士の戦と違うのは、異形には恐怖も疲労もないことだった。
どれだけ倒されても、
どれだけ焼かれても、
どれだけ切り刻まれても――
ひるまず、ただ前へ進んでくる。
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倒し続けて三日目。
異形の動きが、明らかに変わった。
これまでのように、ただ喰らうために突っ込んでくるのではない。
戦場のあちこちで、群れがぴたりと動きを止め、まるで何かを“待つ”ように、にらみ合いの形を取っていた。
「……あれは」
曹叡が、遠くの闇の中にひときわ巨大な影を見つけた。
他の異形とは明らかに違う。
その周囲だけ、空気が歪んでいるように見える。
近くで戦っていた紅陽が、血に濡れた方天戟を支えながら二人に駆け寄る。
「陛下、曹叡陛下m間違いありません。あれが、建業で孫権殿の首を掲げていた異形です」
紅陽の言葉に、廠と曹叡は同時に息を呑んだ。
戦場全体が、静かに震えていた。
まるで大地そのものが、これから現れる“災厄の王”を恐れているかのように。
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関優と張凱も、その“核”をはっきりと見て取った。
関優は息を呑み、槍を握る手に力を込める。
「……あれが、群れを動かしているのか」
二人の声には、恐怖ではなく、“理解してしまった者の静かな覚悟”が滲んでいた。
戦場のあちこちで異形が動きを止め、まるでその巨大な影を中心に呼吸を合わせるように揺れていた。
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異形の群れが動きを止めたまま、戦場に不気味な静寂が落ちた。
風も吹かない。
焚き火の炎さえ、息を潜めるように揺れを止めている。
その中心――
ひときわ巨大な影が、ゆっくりと前へ進み出た。
廠、曹叡、紅陽、関優、張凱。
誰もがその姿を見つめ、言葉を失った。
影は、かつて人であったものの形をわずかに残している。
だが、皮膚は黒くひび割れ、骨はねじれ、
その目だけが、異様に澄んでいた。
そして――
その口が、ぎこちなく開いた。
「……ニン……ゲン……」
廠が息を呑む。
曹叡は剣を構えたまま、動けない。
影は、まるで喉を思い出すように、ゆっくりと、確かに言葉を紡いだ。
「……喰ラウ……
喰ラウ……
喰ラウ……」
その声は、地の底から響くような低さでありながら、
どこか“人の声”の名残を感じさせた。
紅陽が震える声で呟く。
「……言葉を……話している……」
影は、紅陽たちを見渡し、
まるで“思い出した”かのように、次の言葉を吐いた。
「……ソン……ケン……
喰ッタ……
次ハ……
オマエラ……」
廠の背筋に冷たいものが走る。
曹叡は歯を食いしばり、叫んだ。
「貴様……孫権を……!」
影はゆっくりと首を傾けた。
「……喰ラウ……
喰ラウ……
喰ラウ……
世界……
喰ラウ……」
その瞬間、周囲の異形が一斉に咆哮を上げた。
まるで“核”の言葉に呼応するように。
全軍で一度、押しあった。
決着はつかない。
「一旦、退くぞ」
廠と曹叡は、馬首を返し、砦に戻っていった。
核は、原野にたたずんでいた。
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夜明け。
集結してきた。
洛陽、長安から、漢軍、魏軍全ての武将が全軍が出撃してきた。
廠と曹叡が並んだ。
曹叡は廠に向かって頷くと、廠は全軍に伝え始める。
「みんな、これまで、よく戦ってきた。ついに、人類の死力を尽くす時が来た。敵の核が目の前だ」
全員が頷く。
「ここで勝たなければ、人類は滅びる。ここは、一歩も退かない。一匹でも多く敵を倒せ。人類の意地をみせてやるぞ」
おう、という怒号にも似た歓声が聞こえてきた。
「先鋒は、俺と曹叡」
全軍がどよめく。
「俺たちが死んでも、必ずあれを、打ち倒せ」
廠が剣を振り上げる。
「みな、必ず異形をここで打ち破る」
曹叡が駆け出す。
人類の最後の突撃が始まった。




