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三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


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69.洛陽への影、長安への牙――紅陽の策と古都の陥落

翌日。

廠は紅陽とともに、再び蜀軍の長安包囲軍へと合流した。

魏延、馬岱、姜維が出迎える。

荊州南部を蜀が奪還したことで、長安は南側からの圧力にも晒されることになった。


廠はすぐに軍議を開く。

「今度こそ、南から迂回して洛陽を直撃する」


そう宣言したところで、紅陽が静かに口を開いた。

「いえ、陛下。むしろ南から“洛陽へ向かう”と見せかけて、長安を急襲すべきです」

その声には、確信と大胆さがあった。


廠が眉をひそめる。

「……紅陽。何か策があるのか」


紅陽は一歩進み、地図の南側に手を置いた。

「はい。魏は、我々が南から洛陽へ向かうと判断すれば、必ず兵を東へ振り分けます。長安の守りはその分、薄くなる」


魏延が腕を組む。

「囮か……しかし、洛陽へ向かうふりだけで、敵は本当に動くのか」


紅陽は静かに頷いた。

「動きます。荊州南部を奪った今、蜀が洛陽へ抜ける“道”は現実に開けています。魏はそれを恐れている。だからこそ、こちらが一歩踏み出すだけで、必ず反応する」


姜維が目を細める。

「なるほど……南から洛陽へ向かう“影”を見せて、魏軍を誘い出し、その隙に長安を叩く……」


紅陽は廠をまっすぐ見つめた。

「陛下。長安を落とすなら、いまが最も深く切り込める時です」


廠はしばし地図を見つめ、やがて力強く頷いた。


「……よし。その策で行こう」

その一言で、場の空気が一変する。

魏延と馬岱が即座に動き、伝令が走り出す。

廠は立ち上がり、紅陽に目を向けた。


「紅陽、すぐに出るぞ。南へ向かう“影”を作るのは我らだ」

「承知しました、陛下」


二人はほとんど言葉を交わさずに軍議の場を後にした。

廠と紅陽が動くと知れ渡るや、蜀軍の陣中に緊張と期待が走る。

その日のうちに、廠と紅陽は精鋭を率いて南へ向けて出陣した。

洛陽へ向かうかのように見せかけながら、すでに彼らの胸中には“長安急襲”の刃が研ぎ澄まされていた。


----


廠率いる蜀軍が南から洛陽へ向かう構えを見せた。

その報が魏の中枢に届くや、洛陽防衛を最優先と判断した魏は、長安から大軍を東へ向けて出陣させた。


その動きが確認された瞬間、魏延を総大将とする長安包囲軍が一斉に攻撃を開始する。

北と西の陣から鬨の声が上がり、長安城壁に向けて矢が雨のように降り注いだ。


同時に、紅陽率いる騎馬隊が進路を鋭く転じ、南へと駆けた。

洛陽へ向かうはずの軍が、突然、長安南方へ突撃してくる。

魏にとっては予想外の動きだった。


「南門を叩くぞ、遅れるな!」


紅陽の号令に、騎馬隊は土煙を巻き上げながら南門へ殺到する。


一方、長安から東へ向かった魏軍は、背後で起きた急変に気づき、慌てて引き返そうとした。

だが、その帰路を廠率いる重装歩兵部隊が塞いだ。

重装歩兵たちは盾を組み、槍を突き出し、魏軍の進路を完全に封じた。

狭い谷道での衝突は激烈を極め、魏軍は押し返されるたびに隊列を乱していく。


その間にも、長安城は北・西・南の三方向から圧迫され、守備は急速に崩れ始めていた。


----


長安は、ついに落ちた。

北と西からの攻撃、南門への突撃、そして東へ向かった魏軍の足止め。

すべてが噛み合い、城は孤立した。

一年を超える籠城で、兵士たちの士気はすでに限界を迎えていた。


その夜明け前、長安城内の一角で、ついに音がした。

重い閂が外される、乾いた鉄の響き。

次の瞬間、南門がゆっくりと開いた。


「……開いたぞ!」


包囲軍の前線にいた兵が叫ぶ。

魏延は即座に号令を下し、蜀軍は雪崩のように城内へ突入した。


城壁の上では、魏兵たちが武器を握りしめたまま動けずにいた。

戦う気力を失った者、仲間を失い続けた者、飢えと疲労に沈んだ者。

誰もが、もはやこの城を守り抜く力を持っていなかった。


紅陽の騎馬隊が南門から駆け込み、廠の重装歩兵が東側から押し寄せる。

三方向からの圧力に、長安は完全に崩れた。


やがて、城内の抵抗は散発的なものに変わり、正午を迎える頃には、長安全域が蜀軍の掌中に収まっていた。

一年以上に及んだ攻防の果てに、長安は陥落した。

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