67.錦馬超、再臨。――かつての狂虎が成都の危機に牙を剥く
ついに、敵が城壁に取りついた。
縄梯子や鉤縄が次々と掛けられ、城壁の縁から海賊と呉兵が這い上がってくる。
城壁の上に登ってきた敵兵には、南中兵が正面から相対した。
彼らは疲労困憊でありながらも、故郷を焼かれた怒りで士気は高く、槍を突き出し、盾で押し返し、必死に応戦している。
だが、他の者たちは違った。
城壁に立つのは、文官と民が大半なのだ。
孟獲は剣を抜き、城壁に上がってきた敵兵を次々と蹴散らしていく。
「うおおおおっ!よくも……よくも南中を……!」
怒号とともに、孟獲は敵兵を掴み上げ、そのまま城壁の外へ蹴り落とした。
だが――
敵は止まらない。
城壁の縁には、次から次へと海賊と呉兵がよじ登ってくる。
文官たちは震える手で弓を引き、民は石を抱えて必死に投げ落とす。
「来るな……来るなぁっ!」
「押し返せ!落とせ!」
城壁の上は混乱し、敵味方の叫びが入り乱れていた。
孟獲は血に濡れた剣を握り直し、迫り来る敵の群れを睨みつけた。
(……このままでは、押し切られる)
城壁の上に吹く風は、
戦の熱気と焦燥を運んでいた。
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その時だった。
山の方角から、突き抜けるような歓声が上がった。
「……あれは?」
孔明は城壁の上から目を凝らした。
山の稜線に、派手な装束をまとった一騎が現れた。
その男は、天へ突き刺すように剣を掲げ、そのまま成都を包囲する海賊と呉軍の背後へ突撃していく。
陽光を反射するその装束。
かつて「錦馬超」と呼ばれた時代のままの、あの姿。
孔明は息を呑んだ。
「……馬超か」
まぎれもなく、あの男だった。
かつて馬超は、孔明にこう言ったことがある。
――「死んだことにして、乱世を去りたい」
戦いに疲れ、血に濡れた名声を捨て、静かに山へ消えたいと。
孔明は説得したが、馬超の胸に巣食う“遁世の影”を完全に払うことはできなかった。
だが今――
その男は、再び戦場に戻ってきた。
山の民を率い、かつての狂虎のごとく、敵陣へと縦横無尽に突撃していく。
成都を救うため。
その姿は、老いた今もなお、伝説の武将そのものだった。
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馬超の突撃に呼応するように、孟獲は城門を開かせ、南中兵を率いて飛び出した。
「南中の恨み、ここで晴らすぞぉっ!!」
孟獲の咆哮とともに、南中兵が城外へ雪崩れ込み、馬超の騎兵と挟撃する形で呉軍と海賊を押し返していく。
二人の勢いは凄まじかった。
馬超の槍が閃けば、敵の列が裂け、孟獲の剣が振るわれれば、海賊が吹き飛ぶ。
その圧力は、包囲していた呉軍の陣形を一気に崩壊させた。
攻囲は、すでに解けていた。
しかし、馬超も孟獲も冷静だった。
敵を押し返したその場で、二人は互いに頷き合い、いったん兵を下げて陣を組み直す。
寡兵であることに変わりはない。
勢いだけで押し切れる相手ではなかった。
敵は多勢。
呉軍はまだ数万の兵を抱えている。
その時、別の方角から、地鳴りのような蹄音が響いた。
「……何だ?」
孟獲が振り返る。
次の瞬間、呉軍の側面に、猛烈な勢いで騎馬隊が突撃していった。
先頭に立つのは、紅陽だった。
蜀の赤い牙。
紅陽の騎馬隊が呉軍の側面を切り裂き、その後方から廠率いる近衛兵が雪崩れ込む。
馬超は槍を掲げて叫んだ。
「よし、行くぞ」
「うおおおおおっ!!」
馬超の兵、孟獲の南中兵、そして紅陽と廠の騎馬隊が三方向から突撃し、呉軍と海賊の混成軍はついに耐えきれず、総崩れとなって敗走していった。
成都の空に、勝利の雄叫びが響き渡った。




