表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/84

62.華容道を焼く復讐の炎。関優の刃が宿敵・陸遜を打ち砕く

新城近くの野営地。

夜風が帳の幕を揺らし、十万の兵の気配が静かに広がっていた。

廠は全軍の主だった将たちを集め、地図の前に立った。


灯火が彼の横顔を照らし、その影が大きく揺れる。


「……陸遜は、俺たちの力を知らない」


その一言に、場の空気が張りつめた。

「麦城での敗北は、あいつにとって誤算だ。だからこそ、次は正面からぶつかってくるはずだ」


将たちは互いに顔を見合わせ、やがて力強く頷いた。

紅陽が静かに言う。


「陸遜は、正面決戦を選ぶ、確かにあり得ます」


廠は頷き、関優と紅陽を見た。

「正面からお前たち二人は相対してくれ」


関優は驚きに目を見開いた。

「正面を?」

「そうだ。十万の軍勢の顔は、お前たちだ」


紅陽は静かに頭を下げた。

「陛下のご期待、必ずや応えてみせます」

関優も拳を握りしめる。

廠は満足げに頷いた。


----


関優が問う。

「では、陛下は…どうされるのですか?」

廠は地図の南東を指差した。

そこには、江陵へ続く細い山道、華容道が描かれている。


「俺は、紅仁とともに陸遜の背後に回る」

「背後……?」

「そうだ。陸遜が正面に全力を注げば、背後は手薄になる。そこを突いて─華容道に火をつける」


将たちが一斉に息を呑んだ。

「か、華容道を…焼く…!?」

「それでは、呉軍の退路が…!」

廠は静かに言った。

「退路を断つ。陸遜を、逃がさないためにな」


その声音は、これまでの柔らかい廠とは違う。

皇帝としての覚悟と、父の仇を討つ者の決意が宿っていた。

紅陽が慎重に問う。


「しかし…陛下自ら背後に回るのは危険では…」


廠は笑った。

「危険じゃない戦なんて、どこにもないさ」


関優が息を呑む。

「陛下…!」

廠は関優の肩に手を置いた。

「お前は正面で勝て。俺は背後で勝つ。どちらが欠けても、この戦は終わらない」

その言葉に、関優は深く頷いた。

廠は満足げに微笑んだ。

「よし。陸遜の策を、陸遜に返すだけじゃない。今度は俺たちの策で勝つ」

帳内の空気が一気に熱を帯びた。

十万の軍勢が、いままさに決戦へ向けて動き出す。


----


江陵南方の広大な原野。

朝霧が薄く漂う中、呉軍の赤い旗が一斉に翻った。


陸遜は高台に立ち、整然と並ぶ自軍を見下ろした。


中央には精鋭歩兵。

左右には騎兵。

後方には弓兵と火矢隊。

まるで巨大な刃を研ぎ澄ませたような布陣。


「来るがいい」


陸遜の声は静かだったが、その静けさこそが呉軍全体を引き締めていた。

「今日こそ、荊州の地に新たな秩序を刻む」


----


一方、南原の北側。

蜀軍十万の旗が風に揺れ、地平線を覆うように広がっていた。

関優は馬上で深く息を吸い、青龍偃月刀を背に負ったまま前を見据える。


紅陽が隣で静かに言う。

「…陸遜は、正面から来る。こちらが退いたことで、勝てると思っている」


関優は頷いた。

「なら、正面で叩き返すだけだけです」

関優は刀の柄に手を置き、前へ進んだ。

「全軍─前へ!」

十万の兵が一斉に動き、地響きが原野を揺らした。


----


その頃、廠と紅仁はわずかな近衛兵だけを連れ、南東の山道へと馬を走らせていた。

険しい山道を抜けると、江陵へ続く細い一本道─華容道が姿を現す。


紅仁が息を整えながら言う。

「陛下……本当に、ここを焼くのですか?」


廠は迷いなく頷いた。

「陸遜は正面に全力を注ぐ。なら、背後は必ず手薄になる。 ここを焼けば呉軍は退けない」


紅仁は震える声で言う。

「退路を断つということは陸遜を、生かして帰さないということ……」


廠は静かに答えた。

「父上を討った男だ。 ここで終わらせる」


その目には、これまで見せたことのない鋭さが宿っていた。


「紅仁、火薬を運べ。合図は正面の戦が最も激しくなった時だ」


紅仁は深く頷いた。

「…承知しました、陛下」


----


江陵南原。

ついに両軍が射程に入る。


「弓隊──構え!」


関優が刀を抜く。

「盾兵、前へ!」


紅陽が方天戟を構える。

「全軍、突撃!!」


十万の蜀軍が雄叫びを上げ、呉軍の中央へと雪崩れ込む。


陸遜は冷静に指示を飛ばす。


「中央、耐えよ! 左右の騎兵、回り込め!」


戦場が渦を巻くように動き始めたその瞬間、南東の空に、黒い煙が立ち上った。

陸遜の目が鋭く細まる。


「…何だ?」


次の瞬間、華容道の方角から炎が噴き上がった。


蜀軍の兵が叫ぶ。


「陛下だ!陛下が─華容道を焼いた!!」


呉軍の後方から悲鳴が上がる。


「退路が…! 退路が燃えている!!」


陸遜は初めて、扇を握る手を震わせた。


「…背後を…断たれた…?」


十万の軍勢が一斉に吠え、

正面の激突と背後の火攻めが、まるで巨大な罠が閉じるように同時に始まった。


----


紅陽の騎馬隊。

蜀軍の赤い牙と呼ばれていた。

縦列のまま、まるで一本の槍のように呉軍の中央へ突き刺さる。

矢の雨が降り注ぐが、紅陽はすべてを方天戟で叩き落とした。


敵の先鋒がぶつかった瞬間、紅陽の隊は左右に一気に拡散し、呉軍の列を切り裂く。

悲鳴と怒号が渦巻く中、紅陽は視界の奥に、陸遜の旗を捉えた。


「…見つけた」

方天戟を構え、再び縦列へ。


「行くぞ!!」

赤い牙が、陸遜の本陣へ一直線に走り出した。


----


高台の陸遜は、迫り来る紅陽の隊を見て目を細めた。


「……あれが、蜀軍の牙か」


扇を閉じ、馬を前へ進める。

「来い。受けて立つ」


陸遜は自ら前に出た。

名将としての矜持が、彼を戦場の中心へ押し出す。

紅陽と陸遜の距離が一気に縮まる。


方天戟が唸りを上げ、陸遜の剣がそれを受け止めたが、いなしきれない。

紅陽の圧力は、それを遥かに上回っていた。

陸遜は悟った。

正面では勝てない。

「退くぞ!! 本陣、後退!!」

呉軍が一斉に後退を始める。

だが退いた先には、青龍偃月刀を構えた関優が立っていた。


----


陸遜の目が大きく見開かれる。

「お前は」


関優は静かに言った。

「我が名は、関優。お前を討つ」

青龍偃月刀が、朝日を受けて青く光る。


陸遜は剣を構えた。

「来い……!」


関優が馬を蹴り、青龍偃月刀を振り下ろす。

陸遜は受け止めようとしたが、その一撃は、陸遜の力を完全に上回っていた。


「ぐっ……!」

陸遜の剣が折れ、彼の身体が馬上から弾き飛ばされる。


地面に叩きつけられた陸遜は、血を吐きながら空を見上げた。

「見事…だ…」


関優は刀を下ろし、静かに言った。

「これで終わりだ」

陸遜は目を閉じた。


----


その瞬間、呉軍全体に絶望が走る。


「陸遜殿が……倒れた……!」

「もう戦えぬ……!」

「退路も……燃えている……!」

「降伏だ……降伏するしかない!!」


次々と武器が地面に落ちる音が響く。

呉軍は、正面の圧力と背後の火攻めに挟まれ、完全に戦意を失った。

関優が馬上から叫ぶ。


「武器を捨てろ!これ以上、無駄に死ぬな!!」


呉軍は一斉に膝をつき、

旗を倒し、全軍が降伏した。

紅陽が深く息を吐く。

遠く、華容道の炎が空を赤く染めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ