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三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


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57.【黒幕】魏の使者を一蹴!? 蜀を滅ぼさず、魏も助けない。孫権が描く『呉の一人勝ち』ルート

呉の孫権は、曹叡からの使者と謁見していた。


建業・紫極殿。

深い紫の帳が垂れ、香炉から立ちのぼる白煙が静かに揺れていた。

孫権は玉座に座し、鋭い眼光で前に跪く男を見下ろしていた。

魏の皇帝・曹叡が遣わした使者、張虎である。

張虎は恭しく頭を垂れたまま、声を張った。

「陛下。魏は呉との友好を重んじております。蜀が長安を攻め、洛陽へ迫る今こそ、呉と魏が手を取り合い、中原の秩序を守るべき時と考えます」


孫権は目を細めた。

「中元の秩序…か。蜀が魏を攻めるのは、漢王朝の復興、他ならない」

張虎は言葉を続ける。

「蜀が洛陽を落とせば、次に狙われるのは呉。 それは火を見るより明らか。魏は呉を“盟友”として扱う覚悟がございます」


その言葉に、側近の呂壱が一歩前に出た。

「陛下。蜀はかつて我が呉の将軍を暗殺した国。張飛の件は、いまだ蜀の者どもが恨みを抱いております。今、蜀が勢いづけば、必ずや我らに牙を剥きましょう」


孫権は黙したまま、玉座の肘掛けを指で軽く叩いた。

「…姜維らが率いる蜀軍は、漢水沿いを北上しているのだな」


張虎が頷く。

「はい。魏軍はすでに追撃を開始しております。呉軍が南から圧をかければ、蜀軍は挟撃され、壊滅は必至」

呉の重臣たちがざわめいた。


孫権は静かに手を上げ、ざわめきを止めた。

「張虎よ。魏は、蜀を滅ぼした後、呉をどう扱うつもりだ?」


張虎は一瞬だけ言葉に詰まり、すぐに笑みを作った。


「もちろん、魏は呉を尊重いたします。天下を二分し、共に安寧を築く――」


孫権はその言葉を遮った。

「二分、だと?魏が天下を二分する相手は、常に“魏自身”だ。呉も蜀も、そなたらにとっては駒に過ぎぬ」


張虎の額に汗が滲む。


孫権はゆっくりと立ち上がり、玉座の階段を降りた。

張虎の目の前に立ち、低く囁く。


「だが―蜀が洛陽を落とせば、魏は崩れる。その時、呉は中原へ進める。魏が弱るのは、我にとって悪い話ではない」


張虎の顔色が変わった。

「陛下、それでは――」


孫権は背を向け、玉座へ戻りながら言った。

「だが、蜀が目指しているのは、あくまでも漢王朝の復興だ。その時が来たら、我らも臣従せざるを得ない」

「そうなったとき、私は生きてはいまい。ゆえに、呉は“蜀を助けもせず、魏にも与しない”。

ただし―蜀の背を突くのは、蜀が魏を追い詰めすぎた時だけだ」


呂壱が進み出る。

「陛下、では今回の出兵は……?」


孫権は薄く笑った。

「蜀の動きを止めるための“牽制”だ。魏に恩を売り、蜀には圧をかける。だが、蜀を滅ぼす気はない」


張虎が声を荒げる。

「陛下! それでは魏は――!」


孫権は冷たく言い放った。

「魏がどうなろうと、知ったことではない。呉が生き残る道を選ぶだけよ」


張虎は言葉を失い、ただ頭を垂れた。

孫権は重臣たちに向き直る。


「呉軍は蜀軍を追うな。魏軍との共同戦線も張らぬ。ただし――蜀が洛陽を落とす寸前になれば、“蜀の背を突く構え”だけは見せよ。

それで十分だ」


呂壱が深く頭を下げた。


「御意」


孫権は再び玉座に座り、静かに呟いた。


「蜀と魏が争い、互いに疲れ果てた時、天下を取るのは、呉よ」


その声は、紫極殿の奥深くに吸い込まれていった。


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