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三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


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49/84

49.歴史改変、成功。命を繋いだ廠が、急いで漢中へ戻らなければならない理由

馬超の案内で、廠と紅陽は奥の小屋へ向かった。

山賊の残した焦げた匂いがまだ風に混じっているが、集落には安堵の空気が広がりつつあった。


小屋の前には、ひとりの老人が静かに立っていた。

背は低いが、目は澄んでいる。

その佇まいは、ただの山の民ではない気配を放っていた。


「あなたが、元莱殿か」


廠が声をかけると、老人は深く頭を下げた。

「はい。陛下、お待ちしておりました」

廠は一瞬だけ驚いたが、すぐに息を整えた。

「俺が来ることが分かっていたのか」

「孔明殿の脈が乱れた時、胸騒ぎがしたのです。あの方の気は、わたしが一度整えたもの。遠く離れていても、乱れれば分かります」


紅陽が目を見開いた。


「そこまでの腕前とは……」


元莱は微笑み、廟の奥から包みを取り出した。

薬草と針箱が丁寧に収められている。


「すぐに成都へ参りましょう。孔明殿の病は、まだ手が届くところにあります」


廠は深く頷いた。


「馬超殿、世話になった。必ず礼はする」


馬超は静かに首を振った。


「礼など不要。……ただ、孔明殿を救ってください。それだけで十分です」


その言葉には、かつて蜀の将として生きた男の誇りと、今も消えぬ忠義が宿っていた。


----


夜明け前、廠・紅陽・元莱の三人は山を下りた。

山の空気は冷たく、夜露が草を濡らしている。


元莱は年齢を感じさせぬ足取りで進み、時折、廠に言葉をかけた。


「廠殿。孔明殿の病は、気が衰え、血が滞るもの。 戦の策を練り続けた疲れが、ようやく表に出たのでしょう」

「治るのか」

「治します」


----


成都に戻ると、黄夫人がすぐに廠たちを迎えた。

その顔には疲労が滲んでいる。


「廠殿、夫は、まだ」

「連れてきたよ」

「案内を」

元莱は静かに言い、孔明の寝所へ向かった。


寝台の上の孔明は、息が浅く、顔色は青白い。

廠が近づくと、わずかに瞼が動いた。

「……廠殿……来て、くださったのですね……」

「喋るな。今、元莱が来た」


元莱は針箱を開き、孔明の脈を取り、静かに頷いた。

「間に合いました。廠殿、孔明殿の手を握っていてください」

廠は孔明の手を取り、その温もりを確かめた。

弱いが、まだ確かに生きている。

元莱は一本の細い針を取り、孔明の胸元へとそっと打ち込んだ。

「――戻ってきなさい、孔明殿」

その声は、まるで魂に語りかけるようだった。


孔明の呼吸が、わずかに深くなる。

廠はその変化を感じ、胸の奥が熱くなった。


「……孔明」

元莱は次々と針を打ち、気の流れを整えていく。

やがて、孔明の顔に、ほんのりと血色が戻り始めた。

黄夫人が涙をこぼす。


「……夫が……」


元莱は静かに言った。

「まだ安心はできません。ですが――峠は越えました」

廠は深く息を吐き、孔明の手を握りしめた。


「よかった…本当に…」


その夜、成都の空には雲がなく、星が静かに瞬いていた。


廠は庭に出て、夜風を吸い込んだ。

山の薬草の匂いが、まだ衣に残っている。


孔明は助かった。

だが、戦は続く。 廠の道も、まだ終わらない。


紅陽が隣に立つ。


「陛下、これからどうしますか」


廠は夜空を見上げた。


「紅陽…やっぱり、遠征はきついな…」

「どうしたのですか?いきなり…」

「いやあ、なんでもない」


織が近くにいるのと、いないのでは、寂しさがまるで違った。


「漢中へ戻ろう」


その声は、静かだが揺るぎなかった。



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