48.正体バレ? だが関係ない! 西涼の猛将に認められた、偽物皇帝の真実の覚悟
馬休、いや、馬超の案内で、廠と紅陽は集落の奥へと進んだ。
焚き火の煙が細く立ちのぼり、薬草の匂いが風に混じる。
その静けさの中で、ふいに馬超が足を止めた。
「……陛下。元莱殿の小屋はこの先ですが、ひとつ申し上げねばなりません」
廠は眉を寄せた。
「何だ」
馬超は周囲に目を走らせ、声を潜めた。
「山賊が近くまで来ております。数は二百ほど。山の民を狙う連中でして……元莱殿を成都へ連れて行くのであれば、放置はできませぬ」
紅陽が即座に反応した。
「山賊……。この集落を襲うつもりか」
「はい。今夜か、明け方か。いずれにせよ、近い」
廠は短く息を吐いた。
孔明の容態が脳裏をよぎる。
急がねばならない。
だが。
「……山賊を放置して元莱を連れ出すわけにはいかないな」
「陛下、我ら近衛がいれば十分です。すぐに片をつけましょう」
紅陽が言うと、馬超は静かに首を振った。
「山は我らの庭。だが、山賊もまた山に慣れた者。地の利を奪うには、こちらも数が要ります。
陛下……どうか、我ら山の民の自警団と共に戦っていただけぬか」
その声音には、かつて西涼の名将として戦場を駆けた男の誇りが宿っていた。
廠はその気迫を受け止め、ゆっくりと頷いた。
「分かった。共に戦おう。元莱を成都へ連れていくためにも、ここを守る」
馬超は深く頭を下げた。
「感謝いたします。……では、準備を」
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集落の中央にある広場に、十数名の男たちが集まっていた。
粗末な槍や弓を手にしているが、その目は鋭く、覚悟が宿っている。
馬超がみなの前に立つ。
「山賊が来る。距離からして、今夜だ」
居並ぶ自警団兵の中に、廠と紅陽は混ざっていた。
「この集落に入る前に、一本道で迎え撃つ」
「我らの配置を、お決めください」
自警団の兵士の中の一人が言った。
「半数を埋伏させる。残りは、中央に展開して迎え撃つ。数が多いようなら下がりながら、挟撃する」
指示を出し終えると、兵士達は駆け出していった。
馬超が廠と紅陽のほうにやってくる。
「陛下。あなたが“劉禅”ではないこと、わたしには分かります」
紅陽がその言葉に反応する。
「何故、そのようなことを」
「いや、紅陽、大丈夫だ」
紅陽を制すると、馬超に向かって言う。
「だと、すれば、なんとする?馬超殿」
「…ご存じでしたか」
「立ち振る舞いで、俺だって分かる。並みの武人ではない、でどうする?」
「今は問いません。この戦いが終わった後、元莱殿を成都へ送り出すことを約束しましょう」
廠は静かに頷いた。
「頼む」
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夜が深まり、山の闇が濃くなる。
焚き火の明かりが揺れ、風が木々をざわめかせる。
その時だった。
「来たぞ!」
見張りの声が響いた。
闇の中から、粗野な笑い声と足音が迫ってくる。
山賊たちが松明を掲げ、集落へと雪崩れ込もうとしていた。
紅陽が鋭く叫ぶ。
「火を放て!」
自警団の者たちが、あらかじめ積んでおいた枯れ枝に火をつけ、山賊の進路に投げ込む。
炎が一気に広がり、山賊の足が止まった。
「今だ、射て!」
弓矢が闇を裂き、山賊の前列が崩れる。
馬超が剣を構え、廠の横に立った。
二人は前へ飛び出した。
馬超の剣が唸り、廠の槍が閃く。
紅陽は背後から的確に援護し、山賊の動きを封じていく。
山賊たちは予想外の抵抗に怯み、やがて叫び声を上げて逃げ出した。
「逃がすな」
馬超の声に、自警団の者たちが
やがて、集落に静けさが戻った。
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馬超が廠の前に立ち、剣を鞘に仕舞う。
「…驚いた。やはり、あなたは劉禅陛下ではない。だが、おかけで誰一人欠けずに済んだ」
廠は息を整えながら言った。
「孔明のためだ」
「孔明殿が?」
「ああ…病なんだ。それで、以前孔明も針を打ってもらったって聞いてな」
「そういうことでしたか」
馬超は頷き、奥の小屋を指した。
「元莱殿は、すでに支度を整えております」
廠は紅陽と目を合わせ、静かに歩き出した。
孔明のもとへ希望を連れて帰るために。




