劉禅転生。 ―― 目の前に現れた奸臣と、触って気づいたわがままボディ
紅陽が部屋の外へ控えの兵に指示を出していたとき、
廊下の向こうから、軽い足音が近づいてきた。
布の裾が揺れ、香の匂いがわずかに変わる。
「……これは、陛下がお目覚めと聞きまして」
柔らかい声。
だが、その柔らかさが不自然に感じられる。
紅陽が振り返り、わずかに眉をひそめた。
「黄皓殿。陛下はまだご静養が必要です。今はお控えいただきたい」
「まあまあ、そんなに固いことを。私はただ、陛下のお身体を案じて……」
黄皓は、紅陽の制止を軽く受け流し、
まるで自分の部屋であるかのように、すっと中へ入ってきた。
裕介は、知らない男が近づいてくるのを見た。
(マジで、なんなんだ、ていうか俺、ほんとに劉禅なの?)
「陛下。お加減はいかがですか」
黄皓は布団のそばに膝をつき、まるで親しい家臣のように身を寄せた。
「草原で、気を失われたと聞き、心配で心配で……」
(近い近い近い! 気持ち悪っ!)
裕介は反射的に身を引いた。
その動きに、黄皓の目が細くなる。
「陛下?」
紅陽が一歩踏み出し、黄皓の前に立った。
「近づきすぎです。陛下はまだ混乱しておられる」
「混乱、ですか」
黄皓は紅陽を見上げ、薄く笑った。
「元はと言えば、近衛兵であるお主が見失うからこんなことになったのでは?」
「……」
「まあ、良いです。ご無事であれば」
黄皓は立ち上がり、袖を整えた。
「また改めて参ります」
それだけを言い、うやうやしく頭を下げて去っていった。
(ここ、三国時代だよな。俺が劉禅。ここが蜀の宮殿で)
三国志は好きだった。
小説や漫画で読み漁ってきた世界が、今、目の前に広がっている。
(いやいやいや、ていうか、劉禅って、デブだな)
裕介は自分の腹を触って思った。
転生前の自分は痩せ型だった。
心なしか、動きが鈍く感じる。
裕介は、ようやく理解し始めていた。
今の自分が、何者なのかを。




