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三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


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【格闘訓練】実力差に抗え!無能皇帝が泥の中で誓った再起

廠は、水をかけられた。

「起きろ」

気を失っていたようだ。

教官にたたき起こされる。


「二人一組になれ!」

教官の声が響くと、新兵たちは互いに目を合わせ、ためらいながら距離を詰めた。

廠の前に立ったのは、先ほど坂で声をかけてきた青年だった。

年は廠より少し下かもしれない。だが、その目には覚悟の色があった。


「始め!」


青年が先に踏み込んだ。

拳が風を切り、廠の頬をかすめる。

痛みよりも、その速さに驚いた。


(速…見えねえ…)


廠は反射的に腕で受ける。

距離を取る。

青年は間を与えない。

次の一撃。さらに次の一撃。

容赦なく襲いかかる。


拳が腹にめり込み、息が漏れた。

「ぐ…」

視界が揺れる。

膝が折れそうになる。


「立て!倒れたら終わりだ!」


教官の声が、遠くで響く。


廠は歯を食いしばり、地面を蹴った。

青年の腕を払い、体をひねって反撃に転じる。

拳が青年の肩に当たり、わずかに体勢が崩れた。


(いける…!)


だが、次の瞬間、青年の膝が廠の脇腹に入った。

鋭い痛みが走り、呼吸が止まる。


「ぐっ…!」


倒れそうになる身体を、廠は必死に支えた。

泥が足にまとわりつく。

汗が目に入り、視界が滲む。


青年は息を切らしながらも、廠を見て言った。


「やるな…あんた、本当に新兵か?」


廠は答えられなかった。

息ができない。

胸が焼けるようだ。

それでも、拳を握り直す。


(ここで倒れたら、何も変わらない)


転生前、逃げるようにして生きてきた。

仕事も、楽なほうを選び、休みの日は、遊び惚ける。

気が付けば、誰しもが出来る仕事さえも、できなくなっていた。

会社で、好きで付き合っていた女にも愛想をつかされた。

剣すらまともに扱えない皇帝。

それが今の自分だ。

変わるためにここに来たのだ。

織、紅陽、かすみ。

変わらなければ、同じように愛想をつかされるかもしれない。

それはつまり、ここでは死を意味するのだ。


廠は踏み込んだ。

青年も同時に動く。

互いの拳がぶつかり、衝撃が腕を走る。


「そこまで!」


教官の声が落ちた瞬間、廠はその場に崩れ落ちた。

泥の冷たさが、火照った体に染み込む。

青年が手を差し出す。

廠はその手を見つめ、ゆっくりと握り返した。


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