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三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


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22/25

二人の秘密 ――名は裕介、字(あざな)は廠(しょう)

「…俺は…」


目の前には、織、かすみ、紅陽。

「信じてもらえないと思うが…」

皆、沈黙している。

「俺は遥か未来の日本にいたんだ。ただ何故か気が付いたらこの劉禅という男になっていた」

誰も、何も言わない。

「どうしてなのかは、分からない。俺だって知りたい」

(…絶対、なにいってるかわからない状態だよな…)


「この時代の事は、興味があって知っていた」

沈黙が重い。

「みんなを、だますつもりはなかった。ただこんなこと誰も信じないと思った」

(おい…これ、いきなり首をとばされるやつじゃね?…)

「俺だって信じられない。けれど」


「名前は?」

織が尋ねてきた。

「は?」


「お主の名前は何という?」

織が言った。

「…ああ、裕介。石川裕介だ」

「なるほど、性が石川で、字が裕介。で、名は?」

「名?」


(ああ、そういうことか、説明めんどくさ)


裕介は現代のことを説明した。

「ふむ、つまり、字にあたるものが無い、と?」

織が言う。

「そうだ。通称みたいなものはあるが」

「通称?」


(だめだ、よけいややこしくなる)


「未来の…日本?」

「ああ」


(どんどん面倒になる…でも仕方がない)


それから、裕介は、三人が納得するまで、質問に答え続けた。

何度も何度も。


「では、なぜ我々を助けた?」

紅陽に聞かれる。


「それは、あれだ。黄皓がどんな奴かは知っていたつもりだし。あとは宦官が気持ち悪かったからだ、それに…」

「それに?」


「織…さんを好きになった。好きになった女のためなら男ならなんでもするだろ?」


長い沈黙の後、織が言った。

「かすみ、紅陽」


「はっ」

「はい」


「この男は、陛下だ。今、蜀は北伐の真っ最中。余計な混乱をこれ以上起こして、父上たちの悲願を全うしようとしてくれている孔明に心配をかけたくない」

「皇后様」

「陛下は、鷹狩りの後から記憶が何かと混同しており、これまでと辻褄が合わない発言がある。それを不審に思った黄皓達が、陛下に対して反逆を企てた」


皆、黙って織の言うことを聞いている。


「勅命により、全員処断した。そういうことにしておこう」

「はは」

「はい」


そこまで言うと、織がこちらに向いた。


「陛下」


「…え、あ、はい」

「陛下がたとえ、何者であろうとも、我らをお救いくださったことには違いありません」

「…」

「そして、私の対する想いも承りました」

「い、いや、それは、そのほんとに」


「陛下」

「…は、はい!」

背筋が伸びる。


「無用な混乱を避けるため、このことは我らだけの秘密、ということにしておきたく存じます」

「は、はい」

「あなたは、劉禅。それをお忘れなく」

「わ、わかりました」


静寂が痛かった。

誰一人なんの言葉も発さない。

たまりかねて、言った。


「あ、あの。織…さん」


織はだまっていた。何かを考えているようでもあった。


「これだけは、言わせてください。俺、本当に、織…さんのこと」


「廠」

「…え?」

「あなたの字をずっと考えてました」

織が、紙に字を書く。


「これが?」

しょうと読みます。広々とした、包容力のある空間のことです」

「廠…」

「そこに何を入れるのかは、周りの人次第。今のあなたは、私に取っての廠なのです」


「空間…廠…」

「ですから、私達、知っているものだけが廠と呼びます、それでよろしいでしょうか」


「ん、あ、ああ…」


「廠か、なるほど。確かにいいかもしれん」

「廠…」

紅陽とかすみが言う。


「それ以外の時は、劉禅公嗣」

「はい」

裕介は、織に答える。

「とりあえず、今日はこれまでにしましょう。廠には引き続き皇帝としての役目ははたしていただきます」

「あ、わ、わかりました」


(死なずにすんだ)


一礼して、紅陽とかすみが退室した。


部屋の中には、織と二人。


「あ…あの、織…さん」


「織でかまいません」


「あ、じゃあ、織」

「はい」

「お、俺、その、貴方への、その想いは、嘘じゃないっていうか」

「…」

「初めて見た時から、今も、その…」


たどたどしく言葉をつなぐ。

本心だったからだ。


「だから…」

「廠」

その声色が、やけに温かった。


「私も好きよ、廠のこと」

「え?」


「こんなにも、愛されたのは、初めてなの」

「織…さん」

「織でいいよ。廠」

柔らかな微笑みを向けてきた。

その瞬間、何かが自分の中ではじけたのが分かった。


「織」

居室の床に織を押し倒す。

唇を重ねる。

幾重にもめぐらされた衣を脱ぎ捨てる。

織は、拒否しなかった。



----



その後、寝台に移動して、交わりを終えてから、廠こと裕介が言った。

「いつから気づいてたの?」

「廠の事?」

「ああ」

「あなたが、私の事、好きって言った時から」

「ええ?だいぶ前じゃない?」

「皇帝は、自分から好きって言わないものなのよ」

「そうなの?」

「それに…」


急に織が抱きついてくる。


「交合の仕方がまるで違う」

「あ、そう」

「でも、伝わった」

「え?」

「私の事を本気で好きになったんだって」

「…ああ」

「私も、こうやって父上と母上みたいに恋をしてみたかった」


張飛将軍のことだろう。

「恋?」

「うん。恋。でもどんな気分は分かった」

「それなら、よかった」

「廠」

「…何?」

「私も好きよ、廠のこと」


今度は、裕介が寝台に押し付けられる。


「今度は、私の番」


(…なんとかなった。…廠か。難しい漢字だな…それにしても、織…最高だ…)


薄明りの中で、二人は交わり続けた。

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