断罪の勅命
黄皓は、宦官たちを密かに呼び集めた。
「皆の者、よく聞け」
居並ぶ宦官たちは、息を呑んで主の言葉を待った。
「今、宮中におられる“陛下”は、陛下ではない。あれは紅陽が挿げ替えた別人だ」
理解が追いつかない者たちの間で、ざわりとどよめきが走る。
「かつて陛下が鷹狩りの折に頭を打たれた、という話があったな。あれは虚言だ」
黄皓は声を落とし、しかし一語一語を鋭く響かせた。
「紅陽は陛下を暗殺し、陛下に似た者を据えたのだ」
「なんと……」
「まことにございますか」
宦官たちは口々に叫び、顔色を変える。
「この窮状を見よ。我らを疎む紅陽が、すべてを仕組んだのだ」
「では、今の陛下は……」
「偽物だ」
「そ、そんな……」
黄皓は手を上げ、騒ぎを制した。
「静まれ。よく聞け、皆」
宦官たちの視線が一斉に黄皓へと集まる。
「だから、今度は我らがやり返す番だ」
そう言うと黄皓は、さらに声を潜め、己の策を宦官たちへと囁き始めた。
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その一部始終を、かすみは天井裏から聞いていた。
知らせなければ。
彼女は音もなく身を翻し、宦官たちの宮殿の天井裏を離れた。
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かすみの報告を、裕介は居室で受けた。
紅陽と織も同席している。
「黄皓……!」
紅陽は拳を固く握りしめた。
かすみが聞いたのは、闇に紛れて紅陽を暗殺し、その後で“劉禅”、つまり裕介を、宦官たちが用意した別人とすり替えるという策だった。
「おのれ……皆殺しにしてくれる」
「紅陽」
「陛下。これは裏切りです。陛下に対する大逆、いや弑逆にございます」
裕介は短く息を吸い、問うた。
「相手は全部で何人くらいだ」
「二百人はいるかと」
「こちらは」
「近衛兵五十人」
裕介は紅陽を見る。
「勝てる?」
「陛下、宦官どもの雇った私兵など、ものの数ではございません。必要とあれば、今すぐこの私が全員を討ち滅ぼしてまいります」
「落ち着けって、紅陽」
裕介はかすみと織に視線を移した。
「いつ仕掛けてくると思う」
「兵が揃い次第、こちらの隙をうかがってから攻めてくるかと」
隙――。
寝ている時。
つまり、夜。
(準備が整う前に攻めちゃえばいいんじゃね?)
「宦官たちの兵は、いつ頃集まる」
「明日の夜明けには」
「今、宦官の宮殿には?」
「少しの手勢と、側室、あとは宦官だけです」
「よし」
裕介は立ち上がった。
「宦官たちを誅滅する」
「陛下!」
紅陽も立ち上がる。
「紅陽、近衛兵を率いて宮殿に攻め込め。宦官と、それに組する者をすべて討ち取れ」
「はっ」
「これは勅命だ」
裕介は素早く紙に命令を書き、署名した。
「突入を確認したら、俺たちも後から向かう。織、かすみ、準備を」
「御意」
紅陽は勅命を受け取り、そのまま駆け出していった。
「織」
「はい」
「かすみ」
「はっ」
「俺たちも動くぞ」
裕介にとって、戦は初めてだった。
胸の奥で、緊張が静かに膨らんでいく。




