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三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


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温もりの境界線

黄皓は、宮殿の居室にいた。


「やはり、あの鹿狩り後から様子が変わったようです」

「そうか」


手の者からの報告を受けていた。

目の前に広がる居室では、女と配下の宦官達が痴態を繰り広げている。


黄皓のそばにも、女がいた。

服を着ていない。

黄皓は横の女の胸のふくらみに手を伸ばしながら報告を受けていた。


「紅陽は?どうしている?」

「は、陛下のそばにいる以外はもっぱら調練に明け暮れております」


「ふむ。おかしな動きはないか」

「張皇后とその侍女に関しても、今まで変わりはありません」


「そうか」


「違いがあるとすれば、仮面、鎧を外し、陛下のご寵愛を一手に引き受けていることくらいです」


側室が全員追放された。

全員、黄皓達宦官が親戚筋をたどって集めてきた女たちだった。


「せっかく、陛下好みの女たちを集めてきた、というのに」


それだけではない。

馬宿に押し込めていた近衛兵50人が側室の代わりに宮殿に戻ることになったのだ。

全て、あの紅陽の仕業に違いなかった。


どうやってあの陛下を操っているのか。


だが、、宦官達もそれぞれに私兵は雇っている。

全員集めれば、200人はいる。


いざとなれば、それでも紅陽の一人くらい暗殺できる。


「黄皓様、やはり陛下は」

「うむ」


女が喘ぎ声を出し始めると、突き飛ばした。

あわてて、女は立ち去る。



…誰かが劉禅と入れ替わっている…



そうとしか考えられなかった。


「鷹狩りの場所をつぶさに調べよ」

「はい」


「後で、儂もいく」

近寄ってきた別の女の尻をなでながら黄皓は言った。



ーー



夕餉の後は、いつも沐浴をする。

側室をすべて排除してしまったため、いつも織の従者である、かすみが身体を拭いてくれる。

裕介は、実は、風呂に入りたかった。


「なあ、聞いてもいいか」


「なんなりと」


「なんで風呂入らないの?」


「陛下は入浴が嫌いでしたが」


「…そうだったのか」

「熱いお湯は嫌だ、と」


(子供か…)


「ちょっと風呂に案内してもらってもいいか?」


「今ですか?」

「すぐには入れないだろうけど、場所が見たい」


「…源泉が湧き出てきているので、熱いままですので、入ることはできます」


「マジで?!行こう!」

「では、参ります」

かすみは薄着だった。裕介の身体を拭くのに、濡れるからだ。


(て、いうか、かすみも、なんかエロい…)



ーー



宮殿内に、温泉を引き込んだ湯殿がある。

そこに案内された。


中にかすみと入る。

後ろには、紅陽がぴたりと控えている。


(すげー…ちゃんと温泉だ…ひのきの匂いがいい感じ…)


湯気が立ちこめる中、檜の香りが淡く漂っている。

石造りの湯池の縁にだけ、磨かれた檜がはめ込まれていた。


「あれ、ここって誰も使ってない?」

「もちろん、陛下専用の湯殿でございます。最近では、ほとんど使われておりませんが、清潔な状態は保っております」

側室は追放したが、女官はいるのだ。女官は、毎日清掃をしてくれているようだ。


「織は?」


「…月のものが来ております。部屋で控えております」


(生理ね…確か、この時代は、不浄だから皇帝とかに寄れないんだっけ)


「そうか…」

かすみが微笑む。


「陛下は本当に皇后様のことを愛してるんですね」

「当たり前だよ。妻であろう」

「皇后様と交合が出来ないとき、私でも良ければ、寝御もいたします」

「しん、ぎょ?」


「はい。交わりのことです」


(かすみと、エッチできんの?!…やべえ、劉禅、やべえ…だが)


「いや、やはり、織が身ごもるまではやめておこう」

「陛下」


「入るぞ」

手を湯に沈め、温度を確かめる。

これなら入れそうだ。

縁に手を添えて、ゆっくりと片足を沈める。


「……ああ、これだ」

息をひとつ吐き、身体を滑らせるように湯へ沈めていく。

肩まで浸かると、熱がじわりと肌に馴染んだ。


かすみは、遠くで控えている。


「入らないの?」

「滅相もございません」


「じゃあ、紅陽は?」


外で控えている紅陽に向かって、大きな声で言う。

かすみが伝えに行くと、浴室の外から、紅陽の大きな声が聞こえてきた。


「恐れながら、陛下と共に湯に浸かれるものは、おりません」

「こんなに広いのに?」

20畳分くらいの広さがある湯池だった。


「そういう問題ではありませぬ」

戻ってきたかすみが言う。

「身分、ってやつ」

「はい」


(退屈だな…織、入んないかな…あ、生理だっけ)


「かすみ」

「はい」


「織は……その、まだ終わらないかな。月の」

「いえ、終わったかどうかは、本人でないと分かりません」

「確かめてもらって、その問題無ければ、呼んできてくれないか」

「かしこまりました」


かすみは、薄い単衣のまま、湯気の中を静かに出ていった。


しばらくして、「失礼いたします」と声がして、かすみが戻ってくる。


その後ろに、皇后が控えていた。


「陛下、皇后様をお連れしました」


「おお、織。来てくれたか」


かすみが一歩下がりながら告げる。

「ちょうど……終わったばかりとのことです」


湯殿の入口の前で、皇后は一度立ち止まった。

湯気が扉の隙間からゆるく流れ出し、薄衣の裾を揺らす。


かすみが静かに扉を押し開ける。

湿った熱気がふわりと広がり、皇后の頬に触れた。


皇后は、足元を確かめるように一歩踏み入れる。

石床は湯気でわずかに濡れ、冷たさが足裏に伝わる。


「失礼いたします」

織は小さく告げ、湯殿のいる裕介へと視線を向けた。


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