漢中に吹く風、成都からの急報
漢中にある丞相府。
最近の諸葛亮は、ほぼ漢中にいる。
必然的に、漢中が丞相府のようになっていた。
成都とのやりとりは、頻繁に行っており、文官達も馬を使うことを覚えたものが多い。
馬の蹄の音が近づいてきた。
その速さに、門番が思わず顔を上げる。
漢中にある丞相府。
最近の諸葛亮は、ほぼ漢中にいる。必然的に、漢中が丞相府のようになっていた。
成都とのやりとりは頻繁に行われ、文官達も馬を使うことを覚えたものが多い。
馬の蹄の音が近づいてきた。その速さに、門番が思わず顔を上げる。
「丞相! 早馬です!」
諸葛亮は筆を置き、わずかに眉を動かした。
文官が駆け込み、封を切ったばかりの書状を差し出す。
「急報にございます。陛下が……」
諸葛亮は黙って受け取り、目を走らせた。
――『劉禅、頭部を強打するも命に別状なし』
「……無事か」
本来なら、丞相である自分が成都に戻り、一度混乱を収める必要があるかもしれなかった。
自分が漢中から帰ってこれないのをいいことに、今まさに劉禅に取り入って、黄皓が宮殿内では権力を握っていた。
宦官が政治に口出してくるのだけは避けたかった。
宮殿内だけで何をしようと構わないが、それはそれで、宮殿内の浪費も直接戦費に影響する。
「一度、戻りますか?」
従者が言ってきた。
「これから出撃なのだ。無事ならばいい」
従者が下がると、諸葛亮はもう一度書面を見る。
「命に別状なし、か……」
出撃の準備は止められない。
漢中に大軍を率いて攻め込んできた魏軍を、撤退させたところだった。
漢中には大した被害は出なかったが、戦の最中、雨が降った。
領内で泥濘になったところもある。
桟道の補修も必要な個所があった。
準備を整えてから、今度はこちらから仕掛ける番だ。
(劉備様…)
劉備から、漢王朝復興の遺志を受け継ぎ、蜀の国は戦っていた。
心優しい劉禅が、戦に次ぐ戦で、心を痛めているのは分かっていた。
だから、無気力になり、放蕩になりつつあるのも黙認している。
だが、蜀には、三国を統一して、漢王朝を復興するという志がある。
(この私が必ずや)
諸葛亮は、もう一度戦略を確認しはじめた。




