第4話 前世の思い出
俺が裏路地でフランスの歴史の複雑さで絶望してたら裏路地のさらに奥の方。そこは真っ暗で一寸先も見えない、そこから鈍い打撃音みたいなのが聞こえる。
――ドスッ。
アランソンの街並みは、表通りこそ石造りの家が並んでいるが、一歩裏に入ればそこは迷宮だ。そこは、まるで常時「夜」が支配しているかのような、どろりと濁った闇の底だった。
湿った空気を切り裂くように、鈍い音が聞こ続けていた。そして、何かが壁に激突する音。そして、野卑な笑い声。
「……何だ?」
現代日本人としての平穏な本能が「逃げろ」と叫ぶ。だが、俺はその本能を無視をした。何故なのだろう現代日本人としての本能ではなく「細川真斗」としての本能が『行け』と言っている。俺はそのまま、足を音のする方へと向けさせた。
闇に目を凝らす。そこにいたのは、ボロを纏い、頬の削げ落ちた男たちが三人。彼らの視線の先には、壁際に追い詰められた一人の女性がいた。
「おい、いい加減に吐き出しな。その綺麗な服のどこかに、金貨の一枚くらい隠してるんだろ?俺らはもうパンすら買える金がないんだよ!」
「……ありません!言ったはずです、私はただの……」
「嘘をつけ! 貴族の屋敷に出入りしてるのは見たんだ。どうせ貴族のガキだろ?じゃないと、あんな豪勢な門をくぐれるわけがねえ」
その女性の細い肩が震えている。だが、その瞳だけは強い光を失っていなかった。
これが1788年のフランスだ。年表には書いていない「ルイ16世」や「ナポレオン」などの活躍してきた世界の裏側では、今日この瞬間のパン代のために、人は獣になる。
男たちの目は、もはや悪党というより、獲物を前にした「飢えた狼」そのものだった。
あの女性に、見覚えがあった…。もう一生会うと思わなかった。それはともかく俺は、前世の時の様に同じ行動をとる。
顔が似ているだけで、赤の他人かもしれない。だが、赤の他人でもこの人だけは、見捨てられない。
昔って言うか前世か、俺は前世の職業は高校で社会科の教員だった、勿論担任もしていた。 うちのクラスは化学が苦手で俺も暇な時間や授業がない時間を割いて一緒に化学の授業受けた。自分で言うのはあれだが中々生徒に好かれていたと思う(※そこは自信を持ちなさい)。ほとんどの生徒とフレンドリーに話してるし、何かあったら相談してくれる。ある日、学校に不審者がやってきた。あの時は本当に驚いたよ、その不審者は何と女子生徒の上履きを盗むためにやってきて俺はたまたまそいつに、かち合ってしまった。
しかもその不審者、刃物も所持しててアタフタしてたら刺されちゃったんだよ。まぁ一命は取り留めたけど、それを聞いた親父に退院後自分の身を守る程度の武術を叩き込まれた。
俺の父親は元柔道オリンピック日本代表選手で、60代とは思えない動きをして今もピンピンしてるよ、そう言えば親父どうしてるかな〜親不孝者とか言って葬式で泣きながら怒ってそう。
まぁ、そんなの置いといて親父の手ほどきで叩き込まれた護身のための武術、柔道日本代表選手だった親父のシゴキは地獄だったが、まさか18世紀のフランスで役に立つとはな。
頬を軽く叩き軽く気合いを入れ、女性の前に立つ。
「あぁ? 何だテメエ、見ねえ顔だな」
男たちの視線が、女性から俺へと移る。先頭の男が、懐から錆びたナイフを抜き、切っ先をこちらに向けた。月明かりに鈍く光るその刃は、あの日の不審者が持っていたものと重なる。だが、今の俺はあの日の無力な教師じゃない。
「この人から離れろ。二度は言わないぞ」
「ハッ! 死ねよ、俺らはこれに命かかってるんだよ!」
男が叫びと共に、大振りに突きかかってくる。
前世に会った不審者より、よっぽど殺気にキレがあった。彼らはきっとこれで飢え凌いでるのだろう。だが、仕方ないこの世界は弱肉強食だ。親父の乱取りに比べればスローモーションだ。俺は一歩、左斜め前へ踏み出す。
男の突き出した錆びたナイフを持っている右腕を左手で受け流しながら、右手ですれ違いざまにその手首をガッチリと掴む。
そのまま体を反転。自分の肩を相手の脇の下に潜り込ませ、テコの原理を働かせる。
元オリンピック日本代表選手直伝の護身術一本背負い!
「なっ、ぐわあああっ!?」
天と地がひっくり返る感覚と共に、男の体が宙を舞った。石畳への着地は、現代の畳の上とは訳が違う。
「――ズドンッ!!」
重く、硬い音が路地裏に響き渡る。男は呼吸すらできず、白目を剥いて地面に転がった。手から離れたナイフが、カランと虚しい音を立てる。
「ヒッ……な、なんだコイツ!?」
悪いが正当防衛だぞ。俺は呆然としている女性の手を引くと、その場から一気に駆け出した。




