第24話 命名
自警団の訓練を始めてから数週間。
今日から彼らには、蒸気機関に使う石炭輸送の護衛任務についてもらおうと考えていたのだが、直前で重要な事が発覚する。
作業の休憩時間。ジャンとラーブル、それに俺のいつものメンバーで少しお茶をしていた時のことだ。
「今更だが、自警団の名前ってなんだ? 〇〇自警団みたいに、何か名前をつけるのが定番じゃないか?」
ジャンは、シードルというリンゴの酒を飲みながらお茶菓子を摘んでいる。
絶対にお茶菓子と酒は合わないだろ……という言葉が喉まで出かかったが、自警団の名前という重要すぎる話題に一気に押し込められた。
そこへ、ラーブルが追撃を放ってくる。
「そう言えば、ここの工房についても特に名前がついてませんでしたね。ギルドの人たちからは『王立工房』としか呼ばれてませんし」
「確かに……。王立工房なんて、役所がつけた味気ない分類名だからな。これから組織を大きくするなら、俺たちの旗印になる名前が必要だ」
俺は腕を組み、考え込む。
この工房は、アランソンという地名と、俺が立ち上げた?工房だ。
それなら――。
「……よし、『アラマサ』はどうだ? アランソンとマサト、二つの名前を合わせたんだ」
「アラマサ、か。響きは悪くないな。力強くて、どこか聞き慣れない異国情緒もある」
ジャンが意外そうに頷きラーブルも同意する。
「決まりだ。今日からここは『アラマサ王立工房』。そして、ジャンが率いるのはアラマサ自警団だ」
そう決まれば動きは早かった。俺はドニに頼んで、自警団が纏う濃紺のコートの肩に「A」と「M」を組み合わせたシンプルな紋章を刺繍させた。
そして一時間後。
石炭を積んだ馬車を囲むように、十人の青少年兵たちが整列していた。
「いいか、アラマサ自警団としての初仕事だ! 相手はギルドに雇われたゴロツキかもしれん。だが、怯むな。俺たちが守るのは、俺たちのメシの種だ!」
ジャンの怒声に、少年たちが「はっ!」と鋭い返礼で応える。
馬車が街の通りへ出ると、異様な光景に通行人たちが足を止めた。
揃いの紺色のコートを纏い、背中には見たこともない鉄の筒――ライフルを背負った少年たち。その一団が放つ、規律正しい軍隊のような威圧感に、街の誰もが釘付けになる。
「……おい、あれを見ろ。王立工房の連中だ」
「『アラマサ』って旗に書いてあるぞ。自警団だとさ」
そんな囁き声が聞こえる中、馬車が細い路地の入り口に差し掛かった時。
前方から、棍棒や大振りのナイフを手にした男たちが十数人、道を塞ぐように現れた。
「へっ、ガキの兵隊ごっこかよ。大人しくその石炭を置いていきな。そうすりゃ痛い思いはさせねぇ」
男たちの背後には、ほくそ笑むギルドの職人の姿があった。
ジャンが一歩前に出る。その手は少し震えていたが、声はこれまでにないほど冷徹だった。
「……警告する!ここは地方長官より認可を受けた『アラマサ自警団』の警備区域だ。即刻立ち去らなければ、アラマサ王立工房の名において、武力行使に踏み切る」
いつも酒を飲むジャンとは思えない真面目っぷりだ。
「ハッ! 武器も持たねぇガキが何を――」
「構えッ!!」
ジャンの鋭い号令とともに、レオたち五人が一斉に膝をつき、ライフルを構える。
その銃口が自分たちを狙っていると気づいた瞬間、ゴロツキたちの顔から余裕が消えた。
「撃てッ!」
『――ズドォォォォォンッ!!』
たった五挺の一斉射。だが、石畳を砕き、空気を震わせるその爆音と破壊力は、この時代のどんな銃とも違っていた。
「ひ、ひぃぃぃっ!?」
足元の石が砕け散り、砂煙が舞う中、男たちは武器を捨てて腰を抜かした。
「アラマサの名を、忘れるな。次はないぞ」
ジャンの静かな宣告が、静まり返った路地に響き渡った。




