第23話 結成
地方長官との交渉を終え、工房に戻った俺とジャンは、その足でドニの元へと向かった。
作業場ではドニが、唸りを上げる蒸気機関の調整に没頭していた。
「ドニ、銃の量産はいつからいける?」
「あぁ?……量産の理屈は分かったが、流石に人手が足りねぇぞ。あと五、六人は使えなきゃ話にならねぇ」
ドニの言う通りだ。俺達が作ってた数丁の銃は一丁ずつ全てドニの手作りで、部品の互換性なんて概念はなかった。だが、俺が目指すのは規格化による量産だ。
「分かっている。だから、鋳型を使う。ドニ、お前にはその原型の金型を作ってほしい。一度型ができれば、あとは誰が叩いても同じ形の部品ができる」
「……お前、本当に職人を失業させる気だな。だが、面白ぇ。やってやるよ」
ドニが不敵に笑うのを確認し、俺は隣でずっと青い顔をしていたジャンに向き直った。
「……はあ!? 俺が自警団のトップ!?」
ジャンの裏返った声が、空気に響いた。彼は自分の耳を疑うように、指で耳をほじってから俺を見据えた。
「おい、冗談だろマサト! 俺はただの職人だぞ? 喧嘩だってスラムで
スラムで何度かやり合った程度だし、銃も剣も扱えないぞ?。トップなら、あのレオって坊主の方が見込みがありそうじゃねぇか!」
「確かにレオはまだ少年なのに見込みがありそうに見える。だが、自警団は単なる暴力集団じゃない。街や工房の防衛、そして何が正当防衛で、何が過剰防衛かを判断する冷静な頭脳が必要なんだ」
俺は一歩、ジャンに近づいた。
「ジャン。この仲間の中で、お前が誰よりもまともな感覚を持っているからだ。適当に考えてすぐ実行する俺や、これから集まる自警団の兵たちを制御できるのは、お前しかいないと思う」
「それは……買い被りすぎだって……」
ジャンは視線を泳がせた。だが、その手は珍しく小刻みに震えている。
彼も気づいているはずだ。俺たちが手にした富がどれほど異常な額で、どれほど多くの人間の悪意を呼び寄せているか。
「……マサト。お前、本当は怖いんだろ?」
不意に、ジャンが顔を上げた。その瞳には、いつもの雰囲気とは違う、鋭い色が混じっていた。
「お前は天才だ。空気からパンを作るようなことだって、いつかやりかねない。でも、その頭脳が凄すぎて、仲間以外全員敵に見えてる。だから、こんな過剰な武器や権利を欲しがるんだ」
俺は黙ってジャンを見つめた。そんなに頭脳が凄いつもりはないが、まさかレースだけで、こんな大金を稼げるとは思わなくて殆どの人が敵に見えるのは……図星だ。この時代の人間を、俺はどこかで信じ切れていない。だから物理的な力で安心しようとしている。
「………」
俺は返す言葉が見つからず、黙ってしまう。
「……分かったよ。引き受けてやる」
ジャンは大きくため息をつくと、俺の肩を強く叩いた。
「ただし、条件だ。あまり強大な敵を作るなよ、あくまで自警団のだからな」
その顔は太陽を直視する様な眩しい笑顔だった。
「……助かるよ、ジャン」
俺が差し出した手を、ジャンが力強く握り返す。その手のひらは、職人特有のマメで硬かった。
〜数日後〜
工房の真正面にあるそこそこ広い空家、元々は中堅規模の商家で家族もそこそこ多かったが、この不景気で一家離散したらしく、その場所を地方長官が更地にしてちょっとした訓練場にしてくれた、そこに自警団のトップとしてジャン団長。兵士として数十人の身寄りのない青少年たちだ。
彼らの手には、まだ人材をあまり回せてないのに、ドニの努力のお陰で全員がライフルが握ってる。
「いいか、お前たち! 今日からお前たちは、この工房と、自分たちの居場所を守る盾だ!」
『はっ!』
「今から銃の扱い方を教える、死ぬ気で覚えろ!」
青少年たち、いや自警団の兵士たちは真剣そのものだ。




