第22話 お主も悪よのぉ〜
レオを連れて雑木林でのテストを終えた数日後。俺は街の中央にあるいつもの屋敷に訪れていた。
流石にもう出入りが慣れた地方長官の屋敷だ。
「……王立工房の件上手くいってるようだな。先日の陛下への献上品として、見事であった。して、今日は何の用かな?」
豪華な執務机に座る地方長官は、最近俺たちのレースで確実に利益を出して、羽振りがよさそうだ。
「本日は地方長官様に、ご相談……いえ、ご提案があって参りました。最近、この街の治安が急速に悪化していること、お気づきでしょうか?」
俺が切り出すと、地方長官の眉がピクリと跳ねた。
「治安だと? まぁ最近は悪化してるようだな」
「はい、労働者たちが仕事を失い、不満を溜め戝と化してます。地方長官様……もし、王立工房が焼き討ちに遭い、陛下へのレースの献上が止まったら、誰がその責任を取ることになるのでしょう?」
俺が静かに告げると、地方長官の顔から余裕が消えた。
王立工房の保護は、王家から長官に与えられた至上命令だ。それが失敗すれば、彼の出世道は断たれる。
「……何が言いたい」
「長官の手を煩わせるつもりはありません。ただ、私の工房で独自に自警団を組織・運営する許可をいただきたいのです」
「私兵を持とうというのか!? 」
「自警団です。あくまで工房の敷地内、および周辺の警戒にあたる非正規の組織。……そして何より、これには地方長官様にとっての大きなメリットがあります」
俺は身を乗り出し、声を潜めた。
「もし衛兵が賊と化した労働者と衝突すれば、それは行政と市民の紛争になります。ですが、私の自警団が勝手にやった衝突なら、地方長官様は工房が勝手に暴走したと切り捨て、責任を回避できる。……汚れ仕事はすべてこちらで引き受けましょう。地方長官様はただ、安全な場所で私の成功を眺めていればいい」
「…………」
地方長官は沈黙した。彼は典型的なリスクを追いたくないタイプの官僚だ。俺の提案は、彼にとって都合のいい逃げ道になる。
「……それと、運営費と訓練用の土地などについても、少しばかり融通をいただけますと。治安が維持されれば、工房の収益は上がります。そうなれば、地方長官様への個人的な献上金も、今の倍は準備できるかと」
俺は悪い笑みを浮かべると、地方長官も同じ顔をする。まるで悪代官と賄賂を渡してる商人みたいだ。
「ふむ……。なるほど、君は実に話が分かるな」
土地の提供と、税金の一部を治安維持費として工房へ還流させる書類に、地方長官が署名する。
交渉は成立だ。
「マサト! 無事だったか!? お前、長官相手に一体何を……」
「ああ、ジャン。心配しすぎだ。……ほら、土地も金も、それから武器を公然と持つ権利も手に入れたぞ」
俺が署名入りの書類をひらつかせると、ジャンはそれをひったくるようにして読み、みるみるうちに顔を青くした。
「……じ、自警団の運営許可!? しかもこれ、実質的に俺たちの私兵じゃないか! おい、こんなものを認めさせるなんて、どんな魔法を使ったんだよ……」
「魔法じゃない、ただの利害一致だよ。……ジャン、悪いが帰ったらすぐ動くぞ」
俺が歩き出すと、ジャンは「お前、いつか後ろから刺されるじゃないか……」とボヤきながらも、必死に俺の後を追ってきた。
俺はジャンの嘆きを背中で聞きながら、内心で冷ややかに計算していた。
ギルドが襲ってくるなら、返り討ちにする正当防衛の権利が必要だ。そして、いずれ来るであろう革命の時、特権階級たちに頼らず自分たちの身を守る。
その礎が、今この瞬間、法的に固まったのだ。
「さて、ドニに頼んで、量産体制の構築だな」
俺たちは、夕闇に包まれ始めた街を、自分たちの工房へと向かって歩き出した。




