第20話 改造
新しく雇ったレオとマリーが、ラーブルに教わりながら工房の掃除や糸の整理を始めた頃。
俺とドニは、工房の近くにある人気のなさそうな雑木林に来ていた。
「……できたぜ。マサト、お前の言う通りに銃身の内側に螺旋の溝を彫ってやった」
ドニが差し出したのは、一見すると普通のマスケット銃の銃身だ。だが、中を覗き込むと、そこには精緻な六本の螺旋ライフリングが刻まれている。確か、ライフル銃の語源もここから来ていたはずだ。
それはさておき、これによって弾丸に強烈な回転を与え、ジャイロ効果で弾道を安定させる。現代では常識だが、この時代では一部の狙撃兵しか使わない超高級品、あるいは未知の技術だ。
「よし、テストだ。ドニ、一応耳を塞いでろよ」
「ああ、わかってるよ」
ドニが慣れた手つきで火薬を詰め、丸い鉛玉を流し込む。標的は十メートル先の分厚い木板だ。
『――ズドォォォォォンッ!!』
激しい衝撃音とともに、木板の真ん中が見事に撃ち抜かれた。
「すごい……! 狙い通りだ!」
「へっ、この距離なら目をつぶってても当たるぜ。……だがな、問題はこいつだ」
ドニが顔をしかめて、熱を持った銃口の中を見せた。
そこには、火薬が燃えた後の真っ黒な煤が、彫ったばかりの溝にべったりとこびりついている。
「二発目だ。見てろ」
ドニが再び火薬を入れ、先ほどと同じ鉛玉を銃口から入れようとする。だが――。
「……っ! 固ぇ! 入らねぇぞ!」
ドニが棒で力一杯押し込むが、煤が邪魔をして弾が途中で止まってしまった。
「そうか……黒色火薬の煤は粘り気が強い。溝にこびりつくと、弾が通る隙間がなくなるんだ」
現代の銃はカスが出にくい無煙火薬だが、この時代は違う。一発撃つたびに銃を洗わなきゃならないんじゃ、戦場では使い物にならない。
「マサト、どうする? 溝を浅くするか?」
「いや、それじゃ回転が足りなくなる。……待てよ、銃身がダメなら弾丸の方を変えればいいんじゃないか?」
俺の頭に、一つのアイデアが閃いた。
「ドニ、弾丸自体に斜めの溝を彫ってみてくれ。そうすれば、弾が煤を掃除しながら進むし、飛んでいる間も空気抵抗で風車みたいに回転するはずだ!」
「なるほど! そいつは面白そうだ!」
ドニが即座に鉛を削り出し、側面に斜めの溝がある弾丸を作り上げた。
これなら、煤が溜まっていても溝の隙間で逃げられるし、空気の力で回るはず――。
だが、結果は散々なものだった。
「――パスッ……。」
放たれた弾丸は、力なくヘロヘロと飛び、標的に届く前に地面に落ちた。
「な、なんだ!? 全然威力がないぞ!」
「……ダメだマサト。弾の溝から、爆発のガスが全部前にプシューッと抜けちまってる。これじゃあ後ろから押す力が伝わらねぇ」
さらに、空気抵抗くらいでは弾は十分に回転せず、弾道はバラバラだった。
「クソッ、物理の壁か……」
俺は冷や汗を拭い、必死に前世のミリタリー知識を検索した。
煤で詰まらないように弾を小さくすれば、ガスが漏れる。ガスが漏れないように密着させれば、煤で詰まって入らない。
この矛盾を解決する、ために自分の脳を総動員する。
「……あった。これだ」
俺は地面に、どんぐりのような形の弾丸を描いた。
「ドニ。弾を丸じゃなく、このどんぐりみたいな形にしてくれ。大きさは銃身より一回り小さくていい。……その代わり、底の部分を深く窪ませるんだ」
「あぁ? 底が凹んでたら、そこからガスが漏れるんじゃねぇか?」
「逆だよ。爆発の瞬間、その凹みにガスが入り込んで、弾の底がパカッとスカートみたいに広がるんだ。そうすれば、広まった鉛が銃身の溝にガッチリ食い込んで、ガスを逃がさずに回転しながら、煤を削り飛ばして飛んでいく」
ドニは半信半疑ながらも、その奇妙な形の弾を打ち出した。
――そして。
ドニが再び引き金を引いた瞬間、先ほどまでとは比較にならない鋭い発射音が響いた。
『――ドシュゥゥゥゥゥッ!!』
弾丸は凄まじい速度で直進し、分厚い木板を粉砕して、背後の土手まで貫通した。
「……おいおい、マジかよ。二発目なのに、スルスル入ったぞ」
ドニが震える手で次の弾を装填する。煤がついているはずなのに、面白いように弾が奥まで吸い込まれていく。
「成功だ……! これで、百メートル先の敵の眉間を確実に撃ち抜ける世界最強の銃が作れるぞ」
俺は確信した。
この銃があれば、例えギルドが暴徒を雇って襲ってこようが、一年後に革命の嵐が吹き荒れようが、俺たちは生き残れる。
「マサト……お前、やっぱり人間じゃねぇな」
引きつった笑いを浮かべるドニを横目に、あとは……雷管があれば完璧なんだがなと、さらなる改良に思いを馳せていた。




