第18話 孤児
先日、[日間] 異世界転生/転移〔文芸・SF・その他〕ランキング - 連載中で2位が取れました!皆様のお陰です。これからもご愛読お願いします。
〜Side:とある少年〜
俺たちの世界は、いつも泥と生ゴミ、そして死の臭いがしていた。
去年の冬に親父とお袋が流行り病で死んでから、俺が妹を食わせていかなきゃならない。だけど、このアランソンの貧民街で子供二人が生きていくのはあまりにも過酷すぎた。
「や、やめろ! 妹には手を出すな!!」
「うるせぇガキが! 親がいねぇなら、その小娘を売れば少しは金になるだろうが!」
薄暗い路地裏で、俺は背中に妹を庇いながら、2人の柄の悪い男たちを睨みつけていた。
ついに運の尽きか。妹が恐怖でボロボロと涙を流し、俺の背着くにしがみついている。
男の一人がニヤリと笑い、俺たちに手を伸ばそうとした、その時だった。
「ひでぇ有様だな……。俺も昔は似たようなもんだったが、ここは特に酷ぇ」
ふいに、場違いな声が響いた。
振り返ると、路地の入り口に2人の男が立っていた。一人は身の丈ほどもある巨大なハンマーを肩に担いだ、熊のような大男。そして、その隣に立つのは、見たこともない黒髪と黒い瞳を持った、不思議な雰囲気の青年だった。
「なんだテメェら! すっこんでろ!」
「チッ、どこの時代もクズはいるもんだな。……ジャン、出番だ」
「おう。あんなひ弱な連中、俺のハンマーでミンチにしてやるよ」
熊のような大男――ジャンと呼ばれた男が、首をボキボキと鳴らしながら前に出る。
だが、俺たちを襲っていた男の一人が、懐から黒い筒のようなものを取り出した瞬間、空気が凍りついた。
――銃だ。
木製のグリップに、鉄の銃身。この貧民街でも、あれが火を吹き、人をあっけなく殺す恐ろしい武器だということくらい知っている。
「おい……! マ、マサト、銃だぞ! いくらなんでも撃たれたら死んじまう!」
大男の足もピタリと止まった。
ダメだ、あの人たちまで殺されちまう! 俺が絶望で目を閉じた時。
「ジャン、ビビる必要はない。そのまま突っ込め」
黒髪の青年――マサトだけは、全く焦っていなかった。
むしろ、銃口を向けられているというのに、ひどく冷静な目で銃を分析していた。
「なっ、本気かマサト!?」
「ああ。あれはフリントロック式だ。引き金を引いてから弾が出るまで、コンマ数秒のラグがあるし、何より……こんな湿気まみれの場所で、ろくに手入れもしていない貧乏人の銃が、そう簡単に火を吹くわけがない」
青年の言葉に、大男はニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
次の瞬間、大男の巨体が弾かれたように男たちへ向かって突進する。
「なっ……! クソッ、死ねええっ!!」
焦った男が引き金を引いた。
『カチッ!』
しかし――パンッ! という破裂音は鳴らず、プスプスと嫌な煙が上がっただけだった。
「な、なんだ!? なんで撃てねぇんだよ!」
男がパニックになって銃を振る。
マサトの言った通りだ。銃は火を吹かなかった。
「もらったぜぇ!!」
「ひぎぃっ!?」
大男のハンマーが圧倒的な力で、銃を持った男の顔面にめり込んだ。
男は綺麗に宙を舞い、ゴミ山に激突して白目を剥く。残りの二人も、
大男が軽くハンマーを振り回しただけで悲鳴を上げて逃げ出していった。
「……ふぅ。怪我はないか、君たち」
マサトという青年が、腰をかがめて俺たちに目線を合わせた。
「あ、あんたたち……どうして俺たちを?」
「…君たち、親は?」
「……去年の冬に、流行り病で死んだ。俺が、妹を食わせなきゃいけないんだ」
俺は怯えながらも、必死に彼を睨み返した。油断はできない。この人たちも、俺たちを売り飛ばそうとする悪党かもしれないからだ。
だが、彼は優しく微笑んで、信じられないことを口にした。
「そうか。お腹、空いてるだろ? 俺の工房で働かないか。毎日、腹いっぱい温かいスープとパンを食わせてやる。雨風をしのげるベッドも、清潔な服も用意してやる」
「……えっ?」
幻聴かと思った。この地獄のような街で、孤児にそんな夢のような話があるわけがない。
俺が呆然としていると、マサトは立ち上がり、男が落としていった銃を拾い上げた。




