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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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第17話 不安

ギルドの連中が兵士に引きずられていくのを見送った後。


 俺は恐る恐る、立派な馬車の前に立つルルー地方長官に歩み寄った。


「あの……地方長官。助けていただいたのは本当に感謝してるんですが、さっきの『王立特権工場』って……」


「ん? ああ、これか」


 長官は、先ほどガストンたちを泡を吹かせて倒した王家の紋章入り羊皮紙を、ピラピラと楽しそうに揺らした。


「実を言うとな、お前たちが最初に持ち込んできたあの極上のレース。あれのいくつかを、プロヴァンス伯などの貴族に献上してみたのだ」


「プ、プロヴァンス伯!?」(※第3話参照)


 横で聞いていたジャンが素っ頓狂な声を上げる。

 そりゃそうだ。俺たちの作ったレースが、このアランソンの貴族であるプロヴァンス伯に見られたかだ、さらにプロヴァンス伯は現国王ルイ16世の弟で驚き倍増である。


「そうだ。結果は大絶賛よ。プロヴァンス伯から国王様や王妃様や周辺の貴婦人達に広まり、『こんなに均等で美しい網目のレースは見たことがない!』とこぞって欲しがってな。そこで私が『我が管轄の有能な職人に作らせている』と猛プッシュし、プロヴァンス伯の協力も得て王から、この特権を引き出してきたというわけだ」


 なるほど……! このおっさん、ただの恰幅の良い地方役人かと思ったら、中央の貴族たちへの根回しもできる超有能な政治家じゃないか。


 俺たちが安く大量に極上品を納めることで、長官自身も王室への点数稼ぎができる。完全にWin-Winの関係が完成していたのだ。


「これでお前たちは、ギルドの面倒な税金も、あのバカげた織機の台数制限も一切無視できる。……その代わり、王室や貴族たちからの莫大な注文に応えなければならんぞ。やれるか?」


「ええ、もちろん、望むところです」


 俺が即答すると、長官は満足そうに頷き、馬車に乗って帰っていった。


 ――そして、工房の中。


「やった……やったぞおおおっ!! 俺たち、王立特権工場の職人だ!! ギルドの連中に怯える必要はもうねぇ!!」


 ジャンが感極まって叫び、ラーブルと手を取り合ってピョンピョンと飛び跳ねている。


 だが、俺としては気が気でない。なにせ転生? 転移? してすでに1ヶ月以上経っている。もう1年を切って、フランス革命のタイムリミットは迫っているのだ。


 そうなると王立特権工場の恩恵を得られる期間も少ないし、何より革命が起きた時、王家との繋がりが処刑(ギロチン)へのフラグとしてどこまで悪影響を及ぼすか、俺には全く予測が及ばない……。

 いや、今は目の前の問題に集中するか。


「へっ、あのクソ偉そうなギルドマスターの顔、最高だったぜ。……だがマサト、一つ問題がある」


「わかってる。人手不足だろ?」


 俺の言葉に、ラーブルの動きがピタッと止まった。


 現在、この工房には蒸気力織機が5台ある。今はドニが機械のメンテと石炭くべを一人で回し、ラーブルがひたすらレースの裁断と仕上げを行い、俺とジャンが材料調達や交渉に走り回っている。


「……正直、俺たち4人じゃもう限界だ。特権をもらって注文が爆増するとなれば、機械を10台、20台と増やす必要がある。それには絶対に働き手が要る」


 俺が真剣な顔でそう言うと、ジャンが腕を組んだ。


「従業員を雇うってことだな。だが、ギルドの下っ端を雇うのは危険だぜ。あいつら、技術を盗んでガストンにチクるスパイになりかねない」


「ああ、同感だ。だから、ギルドや既存の職人には一切声はかけない」


「じゃあ、誰を雇うんですか……?」


 ラーブルが首を傾げる。


 俺はニヤリと笑って、2人を見渡した。


「素人だよ。家や仕事がなくて困っている孤児や、貧民街の連中だ」


「素人!? バカ言え、そんな奴らにレース編みなんて高等技術、教えるのに何年かかると思って……あっ」


 言いかけたジャンが、ハッとして工房の奥にある蒸気力織機を見た。


「そう。俺たちの工房は蒸気機関が布を織る。人間がやるのは、石炭をくべることと、機械が止まらないように見張ることくらいだろ?数年間の修行なんていらない。1日教えれば誰でもできる」


 産業革命の最大の強みは、熟練の職人技を「単純労働」に置き換えることだ。

 とはいえ、史実の産業革命では、労働者を安月給で長時間こき使う超ブラック企業が乱立した悲しい歴史もある事くらい俺でも把握してる。


「だが、俺たちはギルドみたいなケチな真似はしない。雇った奴らには、この街の平均以上の高い給料を払い、美味い飯を腹いっぱい食わせ、適度な休みを与える」


「なっ……!? そ、そんな好待遇、貴族の館のお抱え使用人でもあり得ないぞ!?」


 ジャンが目ん玉を飛び出させて驚く。

 当時のフランスの労働環境からすれば、あり得ない待遇だろう。だが、これには明確な理由がある。


「いいか? 圧倒的な好待遇で雇えば、彼らは俺たちに恩義を感じるはずだ。スパイに買収されそうになっても、今の最高の生活を失いたくないから絶対に裏切らない。つまり、機密保持のための最強の防壁になるんだよ」


 現代の知識をフル活用した、最強のホワイト企業設立計画。

 俺たちの産業革命は、ついに街の住人たちを巻き込んで、次のステージへと進む!!

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