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異世界転生してやっぱ中世ヨーロッパっぽいなって思ってたら近世ヨーロッパに転生してました…  作者: あああ


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第14話 取引

 アランソンの街の中心部。

 

 豪奢な石造りの建物の一室で、恰幅の良い中年男が、震える手で『純白のレース』を掲げていた。


「……信じられん。なんだこの美しさは……。王都のベルサイユ宮殿でも、これほど精緻で複雑な『百合』の文様は見たことがないぞ……!」


 この中年の男は、アランソンを治める地方長官だ。

 同時に金にも目ざといこの男を交渉相手に選んだのは、前回かなりの量のレースを買ってくれたかなりの太客だ。


「お気に召して光栄です、地方長官様」


 俺は恭しく頭を下げながら、口元だけでニヤリと笑った。


 隣に立つジャンは、一介の平民が地方長官を前にしているというのに、堂々としている俺を見て少し冷や汗をかいている。


「素晴らしい。我がアランソンのレース産業が、王都で再び覇権を握る起爆剤になる品だ。……それで? お前たちはこの最高級品を、私にどうしろと言うのだ? 私の紹介状でも欲しいのか?」


 中年長官が、値踏みするような鋭い視線を俺に向けてくる。

 俺は一つ深呼吸をして、あらかじめ決めていた『最強のカード』を切った。


「いえ。この最高級レースのを、地方長官様に安くお譲りしようかと考えていて。……それも、現在の市場相場の『6割』の価格で卸させていただきます」


「……なっ!?」


 長官が、目をひん剥いて立ち上がった。


 横にいたジャンまで「おいマサト、お前正気か!?」と小声で袖を引いてくる。

 無理もない。貴族相手に金貨何十枚という値がつく一級品を、ほぼ半値に近い6割で卸すと言っているのだ。長官がこれを王都の貴族に正規の値段で転売するだけで、莫大な利益が彼の懐に転がり込むことになる。


「……相場の6割だと? 冗談を言うな。そんな安値で卸せば、お前たちの手元にはまともな利益など残らんだろう。……何の裏がある?」


 さすがは腐っても地方長官。ただ喜ぶだけではなく、しっかりと疑念を抱いてくれた。

 俺は背筋を伸ばし、真っ直ぐに長官の目を見返した。


「裏などありません。ただ一つ、条件があるだけです」


「条件、だと?」


「ええ。私たちは、このレースを大量に生産するための特殊な製法を編み出しました。しかし、その製法には……大量の石炭が必要なのです」


 俺の言葉に、長官が眉をひそめた。


「石炭? 薪ではなく、あの臭くて黒い石か? あんなものは鉄を打つ鍛冶屋か、一部の貧民しか使わんぞ」


「はい。ですが、我々にはそれが必要不可欠なのです。相場の6割でレースを卸す代わりに、地方長官様の広大な人脈を使って、石炭の安定した仕入れ先の確保と我々はレースの額を融通してるので、6割とは言いませんが融通してくれると嬉しいですね」


 これが俺の狙いだ。

 個人で荷馬車を手配し、遠くの炭鉱から石炭を買い付けていては、輸送費だけで赤字になってしまう。だが、地方長官の権限と人脈を使えば、安価で大量の石炭を安定して確保できる。


「……なるほど。お前たちは、燃料の手配を私に丸投げする代わりに、この芸術品を安く差し出すというわけか」


 長官は太い指で顎を撫でながら、机の上のレースと俺の顔を交互に見比べた。

 石炭の手配など、長官の権力を持っていれば造作もないことだ。それでこれだけの利益が約束されるのなら、彼にとって断る理由はない。

 数秒の沈黙の後、ルルー長官の顔に、商人のような獰猛な笑みが浮かんだ。


「……よかろう。石炭の件は、私の名において必ず調達しよう。その代わり、この品質のレースを月に一度、必ず私の元へ納品しろ。約束を破れば、ただでは済まさんぞ」


「もちろんです、地方長官様。末永いお取引をよろしくお願いいたします」


 俺は深く一礼した。

 隣でジャンが、安堵と興奮の入り混じったような深いため息をつくのが聞こえた。


 ――これで、一番のネックだった燃料問題はクリアだ。


 相場の6割での卸しになるが、蒸気機関による「大量生産」が本格稼働すれば、薄利多売でも利益は爆発的に膨れ上がる。


 帰り道

 長官の屋敷を出たところで、ジャンがたまらず俺の肩をバンバンと叩いた。


「お前、本当に心臓に毛が生えてやがるな! あの長官相手に堂々と交渉しやがって! だが、これで石炭の心配はなくなった。あとは……あのドニのバカでかい『怪物』を、昼夜問わずフル稼働させるだけだな!」


「ああ。いよいよ、本格的な量産体制に入るぞ」


 アランソンの空を見上げながら、俺はニヤリと笑った。

 

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