第11話 夢物語
「……で、若造。お前さんが言う『一から新しい商品を作り出す機械』とやらを作るために買ってきたのが、これか?」
工房の机の上。
ジャンが呆れたような顔で指差したのは、市場のガラクタ屋で買ってきた小さな『ブイヨワール』と言うフランス版ヤカンと、細長い『銅のパイプ』、そしておもちゃの『水車』だ。
「ああ、そうだ。まあ見てろ」
それを木の台座に固定し、クルクルと回るようにセットする。
次に、ブイヨワールの中に水を半分ほど入れ、注ぎ口に細い銅のパイプを強引にねじ込んで隙間を粘土で塞ぐ。
パイプの先は、先ほど作った小さな木の水車に向けて固定した。
「ラーブル、かまどの火を強くしてくれ」
「は、はい! ……でも、一体何が始まるんです?」
「お茶会じゃねぇことだけは確かだな」
ジャンが酒瓶を傾けながら、鼻で笑う。
俺はブイヨワールをかまどの火にかけ、腕を組んで待った。
やがて、中から「コポコポ……」と水が沸騰する音が聞こえ始めた。
「いいか、二人とも。よく見ておけ。これが『時代を変える力』だ」
「大げさな野郎だぜ、たかが湯を沸かしただ――」
ジャンの言葉が、途切れた。
『――プシュルルルルルッ!!』
ブイヨワールに取り付けた細いパイプの先から、圧縮された高圧の蒸気が勢いよく噴き出したのだ。
その白く熱い蒸気の束は、一直線に木の水車へと激突する。
「なっ!?」
カタカタカタッ! と、水車が勢いよく回り始めた。
いや、回るなんて生易しいものではない。蒸気の圧力に押され、目にも留まらぬ猛烈なスピードで『ギュイイイイン!』と高速回転を始めたのだ。
「ひっ……!? ま、魔法ですか……!?」
ラーブルが腰を抜かして尻餅をつく。
ジャンに至っては、持っていた酒瓶を床に取り落とし、目をひん剥いて高速回転する水車を凝視していた。
「馬も、人も、誰も触ってねぇ……水も流れてねぇのに……勝手に、こんな凄まじい勢いで回ってやがる……!」
「魔法じゃない。ただの『蒸気』の力だ」
俺は唖然とする二人に向かって、ニヤリと笑った。
「これはほんの模型だ。だが、想像してみろ。このブイヨワールが巨大なボイラーになり、この小さな水車が大人の背丈ほどある鉄のピストンと歯車になったらどうなる?」
「……まさか」
「そうだ。馬何十頭分もの力で、文句も言わず、疲れることもなく、昼夜ぶっ通しで何十台もの織機を自動で動かし続ける『怪物』が生まれるんだ」
ゴクリ、とジャンが喉を鳴らす音が聞こえた。
酔っ払いの目は完全に覚め、本物の『職人』としての鋭い光を放っている。
「……だが若造。今のままじゃあ、ただの夢物語だぜ」
ジャンは震える指で、ブイヨワールを指差した。
見れば、蒸気の圧力に耐えきれず、ブイヨワールの隙間を塞いだ粘土からシューシューと白い湯気が漏れ出している。
「これをもっとデカく、強力にするってんなら、とんでもなく分厚くて頑丈な『鉄の筒』が必要だ。それに、蒸気を逃がさねぇくらい精密に削り出された部品もな。俺たち布を扱う職人じゃ、逆立ちしたって作れねぇ」
「その通りだ、ジャン。だからお前に聞きたい。この街で一番腕が良くて、今の模型を巨大化出来そうな職人を知らないか? 」
ジャンはニヤリと、悪党のように口角を上げた。
「……一人だけ、心当たりがあるぜ。腕は確かだが、気性が荒すぎて誰からも見放されたやつだ」
よし、次のターゲットは決まったな。
フランス革命の足音が近づく中、俺たちの『産業革命』がいよいよ動き出す。




