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画像のあの子

作者: あかいの
掲載日:2025/11/06

 人生において最も心が震えた瞬間。

 だけどそれを、僕は語ることができない。

 ここでいうできないというのは、語るほどの言語化能力がないとか、物理的に口が塞がっているとかそういう意味ではない。そうではなく、語る相手がいないという意味あいだ。より正確に言うなら、語って共感してもらえる相手がいないという意味だ。


 中学2年生のとき、僕は買ってもらったiPodでネットサーフィンを楽しんでいた。それまで家にあったインターネットを繋げる道具は家族共用のPCのみで、履歴も気にせず自由に使えるものはそのiPodが初めてだった。そして自由気ままにネットの海を泳いでいる中、僕はもの凄くエロい画像を見つけてしまった。


 なんてエロいんだ!

 網膜が捕らえた瞬間、僕の脊髄がそう叫んだ。この時の僕の海馬は世界中で開発されたどの記憶媒体よりも優秀であったに違いない。僕は未だにその画像を観て発散することがあるし、その画像を観なくとも発散することができるのだから。


 しかし、その画像には一つ問題があった。それは普通から外れた趣向のものであったことだ。


 はじめて友達同士で猥談した日のことを鮮明に覚えている。高校2年生のことだった。クラスの誰々がエロいとか、〇〇先生の〇〇に挟まれたいとか、そんな話からどんどん発展していき、自分の一番好きな癖についてそれぞれ発表するという流れになった。その場には僕を含めて5人いて、順番は僕が最後であった。

 1人目はこう言った。

「俺は中出しが好きだな。出したあとに膣からとろっと流れるあの感じがたまらないんだ」

 普通だな〜とか、俺はグロくて無理とか、そんな声が聞こえた。僕はそれだけでなぜ興奮できるんだ?と思った。

 2人目は、

「俺は眼鏡っ娘が好きだな。特に眼鏡っ娘の眼鏡の上にかけるのがたまらなくエロいんだ」

 と言った。マニアックだなとか、それ顔射が好きなだけだろと周りは言った。僕は、そんなにマニアックな気もしなかった。

 3人目は、

「俺は潮吹きが好きだ。絶頂に達した時の女としてあれほど可愛いものはない」

 と言った。その時、他の3人が爆笑したのだ。いやいやそれはないわ、とか、AVの見過ぎかよ、とか、あれの何がいいんだよ、とか。そんな笑うなよと、潮吹き好きの彼は困った様子で言った。僕は、何がそんなに面白いのか分からなかった。寧ろ、僕の好みとしては先の二つよりも近い部類だった。僕がクリスティアーノ・ロナウドとかだったら「なぜ笑うんだい?彼の性癖は立派だよ」とでも言って庇ったのだろうが、そんな勇気はなかった。

 4人目は、

「俺はバックが好きだ。煽りの角度から撮った時に胸がブルンブルン揺れるのがたまらないんだ」

と言った。この彼には共感の嵐であった。分かる、それな、おう心の友よなどと、まるでお前がNo.1だと言わんばかりの称賛を彼に与えたのだ。

 僕は、ここでも解らなかった。バックが嫌いとか、そういうわけではない。なんならバックは僕だって好きだ。だけど、そこまで絶賛するものとは思えなかった。フルコースでいったらスープぐらいの立ち位置のものを、そこまで絶賛する理由が僕には解らなかった。

 僕が自身の性的趣向が普通から外れたそれであると自覚したのは、正確に言えば疑いだしたこの時であった。僕の性的趣向の骨格をなすあの画像、あの画像について話せば笑われるどころか最悪友達としての縁が切られると思った。そんな恐怖が頭をよぎった。

「それで、お前はどうなんだよ」

「僕は………」

 この時僕が何と言ったのか、なぜか上手く思い出せない。なんだ普通だな、とか、つまんねえの、とか言われたから、多分当たり障りない嘘をついたのだろう。

 

 今振り替えると、この時嘘をついたのは正解だった。僕の癖はあの4人との相対では外れていたのでありより多くの集団の中では案外そうでもない、などと淡い期待を抱いたりもしたが、その後、これ以外にもたくさん人とたくさんの猥談を重ね、淡い希望は泡になり、疑いは確信となって、僕の癖が普通とか一般という集合に含めるにはあまりに困難であることを自覚した。


 僕は積極的には猥談に参加しなくなった。単純に癖がばれるのも嫌だったし、嘘をつき続けるのにも疲れたからだ。


 何度か自身の癖を普通な方向へ矯正しようと試みたことがある。世間一般でエロいと言われている人をおかずにしてみたり、正統派といわれるプレイの動画を嗜んだり、まあ色々な試みをした。色々していると色々気づくもので、ああ、このプレーが好きな人はこんなところが好きなのかなと思う部分もあった。しかし、それらはすべて対処療法みたいなもので、あの画像から得られる真の意味でのリビドーの高まりを感じることは一度もなかった。


 まあ、性癖が矯正できなくとも、僕個人という閉じた系においては大きな問題とならなかった。その系における性癖の役割は、所詮、僕の自慰に何を使うかという小さな差異しか生まないからだ。


 問題となったのは、大学に入り、こんな僕にも彼女ができ、それなりの関係性になり、いざ夜の営みへと洒落込もうとした時だった。僕の一物が勃たなかったのだ。どれほど擦っても、どれほど舐めてもらっても一向に勃つ気配がない。

「私ってそんなに魅力が無い?」と彼女は落ち込んでしまった。僕は「そんなことない。君の体は十分エロいよ」と言った。時と場合によってはセクハラで捕まりそうなその発言に彼女は笑ってくれたが、どこか乾いた笑いだった。

 僕は彼女を困らせまいと必死に思考を巡らせた。この言う事を聞かない情けない一物にどうにか喝を入れる方法はないものかと。そんな時、ふとあの画像が頭をよぎったのだ。そしてこんな考えもよぎった。この画像を頭に浮かべていれば勃つのではないか、と。

 思惑は見事はまった。普段していることをそのまましたとという意味では大して不思議なことでもない。あれほど擦っても舐めてもうんともすんとも言わなかった一物が、見事なまでにそそり勃ったのだ。

 そこからは一転、彼女が満足するまで思う存分のセックスをした。いや、厳密にはセックスとは言えなかったと思う。だって行為の最中、僕は彼女のことを一切みていなかったのだから。彼女をみない代わりに、脳内であの画像を維持し続けることに力を注いでいたのだから。彼女が望めば2回戦でも3回戦でもそれ以上でもいけた。しかし、何度勃たせようと何度まぐわおうと、僕が彼女をみることはなかった。

 それは愛のあるセックスとはとてもじゃないが言えなかった。どちらというとオナニーに近かった。最高級のオナホを使ってのオナニー。


 彼女と別れた後も色んな女とまぐわった。何回戦でもできる僕は絶倫男と噂が立ち、そういう男を好む性的に奔放な女がよく言い寄ってきたからだ。そういった女たちを拒否することはなかったので、それなりの数のセックスを経験することになったが、その中で真の意味でセックスと呼べるものは一度もなかった。

 僕の頭の中には常にあの画像があり、女たちの胸や膣をみなくとも興奮し、ひとりで勝手に果てることができたのだから。

 画像の中の彼女とセックスをしていた、となら言えるだろうか?いや、それならすべてのオナニーがセックスになってしまう。

 

 僕は次第にセックスをすることが嫌になってきた。だんだんと脳が慣れてしまったのか、画像を思い浮かべるだけでは興奮しづらくなってきたのもある。しかし、それよりも大きな理由は、事後に見る女たちの顔と画像の彼女とのギャップ、それにどうしようもなく心が萎えてしまったのだ。


 セックスをしなくなってから、僕は自分で慰めることすらしなくなった。下手に経験を積んだせいで、自分の手では満足できなくなってしまったからだ。だからといってセックスはもう嫌であった。


 それから僕は不眠症と診断された。セックス嫌いと満たされぬ性欲の板挟みは、僕の脳内を興奮で支配し、適切なリズムでの生活を困難にさせた。医師は僕に思い当たる原因はないか尋ねてきた。思い当たる原因はある、だがそれをあけすけに言うのは憚られた。僕はここでも当たり障りのない嘘をついた。医者はそれで納得したようで、デエビゴという睡眠薬を処方してくれた。


 睡眠薬によって、僕は自身のリズムを取り戻していった。もちろん根本的な原因は解決してないが、何とか普通の生活を送れるぐらいにはなった。一時期はピンチだった大学の単位も何とか回収し、明日は念願の卒業式だった。


 その前日、僕はとある夢をみた。それはあの画像の中にいるあの彼女との出会いだった。意外なことに僕は彼女と会うのはこれが初めてだった。だけど初めてとは思えないぐらいすぐさま仲良くなり、人生で初めて心底からで話し、愛し合った。そこでは僕が彼女にしたいすべてのことができ、彼女が僕にしたいすべてができた。


 目が覚めると、卒業式の時間はとっくに過ぎおり、なぜか股の間がぐっしょりと濡れていた。触るとあの嫌な粘り気がし、初めて夢精したのだと気づいた。


 僕はパンツやズボンを洗濯機に入れ、シャワーを浴び、もう式に間に合わないのにスーツに着替えた。行くとこもないがどこかに行きたい。柄にもなくそう思ってしまうぐらいに晴れやか気分だった。

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