【短編】その瞳に宿る熱
私は人の目が好きだ。
決して猟奇的な意味じゃない。
ただ見るのが大好きだ。
目には色んな感情が籠る。
だから大抵、人の目を見ていれば、
その人がどう思ってるかも大方わかる。
それに、目は綺麗だ。
どんな人でも目だけは綺麗にできてる。
汚い目をした人なんてこの世にいない。
だから私は目が好きだ。
「南雲先輩、試合いいっすか?」
「んー。いいよ」
私は小学生から高校に至るまで、
剣道に身を捧げてきた。
小学生の頃は全国大会も出たけど、二回戦負け。
中学じゃそもそも私以外が弱すぎて、個人での全国大会だった。そこでも三回戦負け。
私は本気で悔しかった。
鍔迫り合いになった時、相手と目が合う。
″熱″で負けてたんだ。
ここで負けたら死んでやるみたいな。
狂った覚悟すら感じる目だった。
「はーい私の勝ちー。ほんと懲りないなぁ」
「もう一回……おなしゃす」
私は高校に入っても負けなしの強さだった。
なんなら高校に入ってからの方が強くなった。
私は女だ。だから大会じゃ男とは分かれてる。
でも、男だって私には勝てない。
「神崎はさ、私のスピードについてこれてないよ」
「知ってますよ……」
「踏み込み、すり足、そこら辺を練習しな。
ポテンシャルは悔しいけど私よりあるんだから」
面越しに見える神崎の目。
それはとんでもない熱量だった。
神崎は中学の時、全国大会の団体戦で五回戦まで行ったかなり強いチーム所属だった。
そこの副将。かなり強い。
でも私の方がもっと強い。
「南雲先輩は……なんでそんな強いんですか」
「……そりゃあ部長だし?
まあ言っちゃえば、私は相手の目をよく見る。
目をジッと見つめて、予測するんだよ」
「俺、裸眼あんま視力良くないっすよ」
「ははは、じゃあ詰みかな」
ーーー
神崎は私が二年の頃に入ってきた。
あいつは一年の頃、県大会で優勝した。
私だって負けてない。
地区大会、県大会は個人戦全部優勝だし。
団体は準優勝だったケド……
まあ、そんな二年の時。
新入生の癖に強い神崎が妬ましくて、
相手は男だってのに試合を申し込んだ。
怪我させたくないとかほざいてたけど、
私がボコボコにして圧勝。
「つよっ……」
「次期部長候補ナメんな」
あの時は本当に嬉しかった。
熱量がすごい目をしてる男を倒せた。
あの日から今まで、私は神崎に負けたことはない。
毎日神崎は私に試合を申し込んでくる。
「はーい練習終わりー!」
三年になって二ヶ月。
そろそろインターハイの予選大会がある。
負ける気はしない。
インターハイ、私は優勝する気だ。
正直団体は諦めてる。
私以外の女子が弱すぎてダメ。
「神崎残ってってー」
「え? はい」
次の予選大会を勝てなかったらインターハイすら行けない。個人でインターハイに出るには優勝か準優勝。
まあ私は県内じゃ最強だから大丈夫。
「神崎、お前インターハイ個人戦行けよ」
「え、でも先輩方が」
私と神崎二人だけの体育館でそんな話をした。
「遠慮はしちゃダメだぞー?
実力勝負、神崎は正直本当に強い。
お前、ずっと私に手加減してるだろ?」
「いや、してませんよ」
嘘つきの目だ。
知ってた。三年になる前に一回負けそうになってから、神崎はもう私を超えたんだ。
こいつの面は迫力が凄すぎて足がすくむ。
「……そう言うのやめなね。
私はインターハイ個人戦に賭けてる。
絶対に優勝するつもり。だからさ、明日」
プライドそれを折る覚悟。
それがなきゃインターハイで勝ち上がれない。
「神崎、本気のお前で私を倒せ。
倒せなかったら県大会には出させない」
「ちょ……南雲先輩どうしたんすか」
わかってないなぁ……鈍感なやつだよまったく。
「お前はさいっきょーの剣道男児……
負ける想像がつかない。だから私のためだけに、
そうやって力を封じちゃもったいないよ。
お前の目標は私を倒すことじゃない。
インターハイ個人戦、優勝。
もう私に勝てるなら勝って、早く優勝目指せ……」
私は神崎の胸を軽く叩いて体育館を出て行った。
ーーー
試合。
剣道の試合は長い。
三本勝負、通常四分。
でも。負ける時は数秒で負ける。
「……負けた〜」
超強い人同士の試合は延長が続きすぎて、
十分、二十分かかる時は日常茶飯事。
最長記録じゃ一時間強だった気がする。
でも私は速攻で負けた。
本気の神崎は目の前に修羅でもいるような、
圧倒的なオーラと声で足が動かなかった。
「南雲先輩……」
「ん……」
背の高い神崎が私の前に立って礼をしてきた。
「ありがとうございました……!」
「ははっ……勝てよ〜?」
やっぱりだ。こいつめちゃくちゃ強い。
……あの目のギラつき……勝てないなぁ。
ーーー
「……あー負けたなぁ」
「お疲れ様です南雲先輩」
私はインターハイ個人戦、六回戦目負け。
戦績じゃまあ……いやすごいけど悔しい。
「神崎〜。順調そ?」
「まぁはい。次の準決勝で勝てば決勝戦です」
「マジやばいね〜。安心しなって〜。
神崎より強いやつなんていないよ」
肩をほぐしてやった。
我ながら良い先輩だと思う。
「……南雲先輩」
神崎が改まってきた。
なんだろう? めちゃくちゃ応援してほしいとか、
なんかそう言う甘えみたいなものかな?
「俺、一年の頃から南雲先輩と試合ずっとしてたんすけど、確かに冬の頃には勝てました。でも……それは手加減とかじゃなくて……俺は惚れてるんす。
俺は南雲先輩の剣道に惚れきってるんすよ!」
「……だから試合をして味わいたかったってこと?」
「……そうっす。俺、南雲先輩より綺麗な剣筋の人、
この世に存在しないって思ってます」
……なるほどね。
「これが俺の覚悟です。
見といてください。俺が今年の日本一、
持ち帰って笑顔で締めるんで」
目……私は目が好きだ。
神崎の目は、特別好きだ。
ギラギラとして……燃え上がってる。
誰よりも……太陽のような明るさで……
「生意気。ふっ……勝てよ〜?」
神崎は覚悟を決めて会場に戻ってった。
「……余裕っす!」
ーーー
「南雲先輩、呼び出しって?」
「日本一の男、優勝したんだから私からご褒美だ」
「……それってなんすか?」
神崎がマジで日本一になった。
インターハイの準決勝から決勝なんて、
実力は拮抗してるから意気込みと覚悟勝負。
神崎は決勝戦で延長二十三分の末に面で勝った。
互いに体力は切れて、気力勝負。
最後の面は迫力がすごくて、
屋内全域に声が轟いてた。
「お前、ずっと私の剣に惚れてるんだろ?」
「そりゃあもう……」
「私は?」
「え?」
「私には惚れてないのか?」
「……その」
図星だ。
「私知ってるぞ? 剣に惚れてるとか言って、
裏では全然告白するつもりだったんだろ。
エモいな〜青春しようとしてるじゃん」
「なんでそれを……!?」
「二年の男捕まえて吐かせた」
「何してるんすか先輩……」
神崎の目は綺麗だ。
今まで見てきた誰よりも……
「あーもう……言っておくけどなぁ!!
私だってお前が好きじゃなきゃ!!
男と女だってのに練習で毎回試合しないわ!!」
試合の時はギラギラしてて。
いつもは眩しく輝いてて。
私を見る目はそう、いつだってキラキラしてる。
「じゃ……じゃあ先輩!
俺が優勝したご褒美って……!」
なんでかな。いつからだろ。
目が離せない目なんて見つけるつもりなかったのに。
「ふっ……神崎──」
まだ暑い日が続く中、今日、私は神崎の手を握って、
長い剣道人生と高校の夏が終わった。




