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凄まじい匂いが私の鼻に流れ込んでくる
呼吸をするだけで喉が冷える感覚に襲われる
「凄い匂いだろ?」
バードゥルが私に問いかける
「ええ、これがメイティの匂いですか?」
「おう、明日まで消えんぞ」
もう少し進むと緩やかな丘がある
皆でそれを越えた先には一帯が緑に覆われた空間
「なるほど、確かに群生地ですね」
何故こんな場所に繁殖力の強いメイティがあるのか
…何故此処にしかないのか
それが目の前の光景で理解できた
「岩崖に囲まれた場所だから広がらないんだ…」
子供の私でも少し時間を掛ければ登れる程度の段差
しかしこの植物にとっては外界と隔絶される程の断崖なのだ
「よし、採取を始めるぞ!」
メイティは根が恐ろしいらしい
ほんの僅かでも根が地面に潜るとそこから繁殖する
「せぇのっ!」
みんなでスコップを地面に突き刺しメイティを掘り起こす
よく振って土を落とす
ある程度落としたら荷台で待っている人に渡し
それをナイフで根、茎、葉と切り分けて別々の袋に詰める
やる事は単純にそれだけである
しかし数名は採取をせずに崖の上で周囲を警戒する
それだけ私達は危険な状況にあると言える
「異常はねぇかぁ?」
バードゥルが定期的に崖上に向けて声をかける
「問題ねぇっス!」
移動の合間に過去に遭遇した魔獣の話を聞いた
その中には遠くから、正確に眉間を狙って小石を吐き出す存在も居たという
狙われたのは崖上で警戒していた人
頭を貫通し即死
しかし当時誰も気づかなかったので魔獣の接近を許し地獄を見た、と
それ以来、定期的にみんなで声を掛け合う習慣が出来たとのこと
「バードゥル、時間だ」
リンハウがゴーレムに寄りかかりながら空を指差す
その先には黄色い煙、狼煙が上がってた
これが傭兵達によるなんらかの合図なのだろう
「みたいだな、ようし撤収だ!」
特に大きな問題も無く採集は、私の初めてのギルド仕事は終わった