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眼鏡が割れた
カシャリカシャリと小さな車輪が音を立てて回転する
「はい、この鉄板に試してみて」
そう言って約10メートル先にマルタが的を用意する
分厚い鉄板だ
フライパンの底を5、6枚重ねたような厚さ
左の手首を僅かに内側へ曲げる
左手前腕からもカシャリと音が鳴る
折り畳み式の小さなクロスボウが組み上がる
その先には鉄杭が飛び出ていた
クロスボウに魔力を流し
すると前腕からすごい音が鳴る
高速回転を始めたモーターのような音がなり左腕が上に吹っ飛ばされた
「やった、成功だ!」
喜ぶマルタの声を聞きながら左腕に引っ張られて私の身体は後ろに倒れた
「……いや、ダメでしょうコレは」
「えっ!」
倒れた体を起こして的を見る
ソコにあったのは鉄板を貫通して
更にその先にあった煉瓦の壁
鉄杭はそこまで飛んで突き刺さっていた
「これ、護身用の武器って言ってましたよね?」
「言ったね、うん、まぁちょっとだけ過剰な攻撃力かな?」
死にます
こんなの人に当てたらどこに当てても即死だと思います
「もっとこう…気絶程度で済ませられる物は作れませんか?」
「作ったよ?え、コレもいる?」
そう言って用意されたのは鉄杭を打つクロスボウではなく
拳を覆うような…いわゆるガントレットに歯車が付いたようなものだった
「殴った衝撃に反応して先端の鉄板が勢いよく飛び出す事で打撃力を倍増させる仕組みなんだけど…」
「最初からそっちで良いじゃないですか!」
自衛ならそれで十分だと思う
「でも地味じゃない?やっぱ自衛なら1人即死させた時点で『戦ったら死ぬから逃げないと!』って思わせた方が結果的に被害が少なくなると思うんだ」
どこの蛮族の発想だそれは
「他にもいろいろ考えたよ。煮えたぎる油と炎を噴射、強酸を噴射、伸縮式の鉄槍を仕込んだもの、蛇の猛毒を塗りこんだナイフ、あとあと…」
殺意が高すぎる
戦争でもする気なのかこの人は
あと籠手に仕込むには危険すぎる
ヘタすれば自滅しかねないモノばかりじゃないか
「殴る奴でお願いします。殴る奴『だけ』で」
「そっかぁ…」
―――
そこから10日後
用意されたのは1個のケース
薄いスーツケースのような物
そこに入っているのは極限まで軽量化、小型化されたパワードスーツ
関節の強化しか行えないのでスーツと呼んでいいのかは疑問だが
私のために用意された執事服の上から装着できるようになっている
「これで大丈夫だと思いたいなぁ」
マルタがそう呟くが
そう思いたいのは私の方である
今、私とマルタの立っている場所は公爵の屋敷、その門前
その鋼鉄の門が開かれた先に馬車が現れる
真っ白な白馬が貴族用の豪奢な馬車を引いている
「では行ってきます」
「気を付けてね~、あとなんか面白そうな物買ってきて」
マルタに見送られながら馬車に乗る
その中には1人の少女
「久しぶりね」
「…はい、御久しぶりです」
ナイアス・エトワール・ジョベート公爵令嬢
彼女とこれから向かうのは王都
間もなく12歳になる彼女はそこで生活を始める
本格的な使用人としての生活が始まる




