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あたり一面に悲鳴が響く
「助けてくれ!」と叫ぶ男
「死にたくない!」と叫ぶ女
どいつもこいつも大人で
地面に突き刺さった木の杭に縛り付けられている
涙と鼻水、それと涎をまき散らして泣き喚く
そんな中で「ビンッ!」と弦の揺れる音が響く
すると大人が1人動かなくなった
その大人だった物体はあっという間に衣服が血で染まった
「よし!これで貴様も今日から戦士だ!」
縛られていない大人が数人
私達の後ろで偉そうに命令している
そのすぐ横に弦を鳴らした子供がいる
絶望と諦めの混ざった表情で
弓を握りしめて震えている
そんなことなど関係ない、と別の大人が乱暴に髪を掴んで外に連れて行く
「よし次!」
別の子供が引き摺られて縛られた大人の前に立たされる
「………っ!助けて………っ!」
大人は必死に目の前の子供の名を叫ぶ
子供はその声を恐れて動けなくなっている
そんな子供が棍棒で殴られて吹き飛ぶ
「軟弱者め!戦士がそんなことでどうする!」
倒れたまま動けない子供
そんな子供に男は言う
「お前が戦士にならないというならお前の妹に働いてもらうぞ、女らしくな!」
その言葉で子供は弓を握りしめ
矢を番え
引き絞り
「うわぁぁぁ!」
叫びながら矢を放ち
自分と妹の
親を殺した
「よし次!」
そして私の番が来た
目の前には私の両親が立たされていた
――――
そんな
夢を
見た
気が付くとベッドの上で寝ていた
全身が汗で濡れていた
とんでもなくリアルで
とびきりな悪夢だった
「……最悪だ」
何が最悪か
それは夢の内容が前世の記憶だと理解できるからだ
自分の前世が親殺しとか
これ程酷いものはなかなかに無いだろう
できれば永遠に失われた記憶であってほしかった
「シシールト~起きているかい?」
ドアをノックする音
それと同時に響く声
「…今日は随分と早いですね、マルタさん」
声の主はマルタ
彼女は大抵昼から動き出す
だが現在は日の出の最中
とても珍しい現象だ
「いやぁ、ちょっと早馬が来てね。あ、入っていいかい?」
「どうぞ」
あれだけ汗をかいたのだ
少し汗臭いかもしれないと感じ少し窓を開ける
「じゃあ失礼するよ」
マルタは入室してすぐに部屋の隅にある椅子に座る
「さっき言ったように早馬が来てね」
「はい」
「まぁ、シシールトにも無関係じゃないだろうと思って伝えに来たんだ」
これは、また厄介な話だな?
「アイリス・ヘルマンは覚えてる?」
「南部の公爵令嬢?」
「そう、我らが東部公爵令嬢であるナイアス嬢の恋敵だね」
恋敵とはまた違うのではないだろうか?
「どちらが王妃になるかが常に言い争われていたわけだがここで大変な事が起きたんだ」
「何かあったんですか?」
「アイリス令嬢が王妃候補から降りたんだよ、自分から公言してね」
「…まずいことですか?」
「ナイアス嬢やジョベート家にとってはまさに僥倖だね」
そしてマルタ曰く
私にとっては不幸だと
「アイリス嬢が降りたとなればヘルマン家や直接的な家臣は大人しくなるだろう。だが全ての南部貴族がそれに納得しているとは思えない」
「一部の貴族が暴走する可能性があると…」
「そう、中にはわかりやすくナイアス嬢に危害を加える輩も現れるかもしれない」
つまり彼女に使用人である私の身近に暴力沙汰が増えるという事だ
「次の休みに工房に来てくれ」
「何か作ってくれるんでしょうか?」
「ああ、とびきりの物を設計してある。作るのはこれからだけどね」
なんだろう
楽しみより不安が勝る感覚がする




