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其処は大部屋
中央には巨大で細長い机
漆で光沢のある黒に塗られ
至る所に純金で装飾された机である
その机に沿うように、同様に漆と金で装飾された豪華な椅子が並んでいる
その一番端
入口に最も近い席にワタシは座る
「さて、報告を聞かせてもらおうか」
対して入口から最も遠くの席に座る人物が私に声をかける
その周囲には数人の貴族と騎士が控えている
その貴族達は伯爵と侯爵ばかり
そしてその中央にいる人こそ
「はい、リュシアン閣下」
リュシアン・ユングヴィスト・ジョベート公爵
四大公爵の一角、ジョベート家の現当主
ナイアス嬢の父である
その顔には深い皴がいくつも刻まれている
そして御歳75にもなる怪人でもある
娘がまだ10と考えると本当に元気な御当主様だ
「ベルトルートの石女が…」
ワタシが彼の事を{閣下}と呼んだのが気に食わないのだろう
騎士や貴族の表情に不快感が見える
閣下とはつまり{外交相手、他国の重要人物}に対して使う言葉である
つまり彼らから見ればワタシは{忠誠を誓っていない貴族の嫁ぎ遅れ女}という評価だ
「控えよ」
そんな彼らの殺気を公爵は咎める
「しかし殿下…」
「二度も言わせるな」
「…はっ!」
公爵は無表情である
何を考えているのかわからない者ほど恐ろしいものは無い
「ベルトルート家は北の貴族だ、政敵とも言える者に忠誠など誓われても信用できないだけだな」
要するに外交者として接するという発言である
「お前が来るまでに報告書には目を通した、綿糸の製造量が1ヵ月で4倍になるとは思わなかったぞ」
「本音を言いますとワタシも驚いています」
これは本当の事だ
しかもこれでも綿花が足りないから4倍で抑えられている
その上でこれが常態化可能な事であるという現実も
「開墾、種まき、金属加工、採掘、あらゆる面で改革が起きると文官達は泣いているぞ」
「…それは嬉し泣きですかね?」
「そんな訳が無かろう、突然仕事量が激増すれば嬉しさなど感じる者は稀だ」
それはそうだろうな
申し訳ないが諦めてほしい
私は止まるつもりが無いのである
これからも作りたいものを作るのだ
「……何故イーストアルバスで行動を始めた」
それが公爵閣下の聞きたいことだろう
北で
実家のあるノースアルバスで行えばいいだろう、と
彼はそれが不可解なのだ
「セーデフブスタ家は嫌いです」
「ふむ…ベルトルート家は男爵だったか、今の爵位に不満か?」
「いいえ、そもそも女では当主になり得ませんので」
公爵は報告書を見る
「これらの全ての事柄を共同開発者たちの手柄にしているな、名を隠したいか?」
ワタシは無言を貫く
「北に連れ戻されるのが嫌か?」
ワタシは無表情を貫く
「…弟か?」
突然の発言に動揺を見せてしまった
公的には既にワタシには弟など存在しないはずなのに
「当たりだな」
「黙秘します」
「…まぁよかろう、我々には関係ない事だ、だが上手くやってくれると嬉しいがね」
そして話題が変わる
ここからはワタシのことではない
「アレの使用人についてだ。貴様の見立てを信用して良いのかと思ってな」
自分の娘をアレ呼ばわり
やはりこの男も貴族らしい貴族である
「別段アレの行動に文句を言うつもりはない、必要なのは孕んで産む機能だけだ」
所詮この国の貴族にとって女など血を繋ぐための道具でしかない
「だがキズモノは困るのだ。王族に入り込み、子を産むまでは純血でいてもらわねば困る」
「平民ですが節度や立場をよく理解している者です、問題はありません」
「それでも間違いというものは何時起きるかわからぬものだ、だから貴様に問うのだ。確実に間違いが起きぬようにな」
要するに彼を
シシールトをワタシが見張れという命令である
「では見張りやすいように手配を願いたく」
「…具体的には?」
「ワタシの数々の発明には彼の者の性質が関与しています、それを解明するためにも…」
言葉を選ぶ必要がある
彼を守るような発言をすれば信用を失う
「彼を実験体として十分に解体するための権限をください」
貴族とは人間である
平民とは資源である
貴族にとって平民とは物なのだからこれが貴族らしい回答となる




