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「………マルタさん、生きてますか?」
トロルに掴まれた彼女に声をかける
「生きてるよ、あと少し遅れてたら口から心臓が飛び出るところだった。そっちは…あ~、泥塗れから血塗れに改名するかい?」
「遠慮しておきます」
幌馬車にトロルが近づき
無遠慮にその体を突っ込んできた
そういう行動をするはずだ、とマルタは考え
即座に生き残る手段を考えた
逃げることはできない
私もマルタもドレス姿だ
そんな状態でまともに走れるわけもなく
マルタ曰く、人が走ってもトロルからは逃げられない
片方が即座に肉塊にされて
もう片方がすぐに追いつかれて肉塊にされる
だから行うべきはトロルを殺すこと
幌馬車の端でトロルを限界まで引き寄せて
手を伸ばして無防備な所を一瞬で致命傷を与える
問題は武器だ
即座に殺せる武器など持っていない
しかし物は使い様で
少し考えれば十分すぎる武器が目の前にあった
「いや~、何とかなるもんだね」
幌馬車から出たマルタが背伸びをしながらそう呟く
「相手が人型で助かりました。急所がわかりやすい」
私の手には破損した円盤型強化関節
本来金属が溶接されているはずの場所は酷く捩じ切れて
まるでナイフのように鋭くなっている
これをパワードスーツの力で思い切りトロルの喉に押付け
全力で魔力を流した
勢いよく高速回転した円盤は一瞬でトロルの喉を切り裂き血飛沫を飛ばしながら食い込んでいく
刃部分が首の骨に当たり円盤は完全に破損して動かなくなった
その頃にはトロルも既に息絶えていた
「これギルドの人達に怒られますかね?」
そんな状況を特等席で見た私のドレスは酷い状況だった
濡れていない場所の方が少ない
「不可抗力ってことで許してもらえるんじゃないかな?知らないけど」
マルタはそんなこと気にせずに先駆者達を調べている
騎士鎧を着ている10人程度の人間だった物が転がっている
「ジョベート家は魔導士偏重してるのが裏目に出たね」
「そうなんですか?」
その言葉に私が答えるとマルタは騎士鎧だった鉄塊を指差す
あっという間に握り潰されたようだ
「鎧と考えると相当薄い、馬上や機動力を考えてもこんなペラペラにしないよ。魔導士に金かけるためにケチってるのは知ってたんだけどね」
「それは、意味があるんですか?鎧として」
「無いね、いや、この場合は騎士そのものが鎧になるのかな?」
「…つまり?」
「肉盾って言えば伝わるかい?」
どうやらジョベート家では騎士は使い捨てらしい
大丈夫なのだろうかそれは
惨状を見渡すと1人だけ女性がいた
メイド服だった服を着た肉塊
そのすぐ近くにあった馬車は横転しただけのようでそんなに壊れていない
そして中からは僅かに音が聞こえた
「マルタさん!」
そう声を出してすぐに馬車の上によじ登る
扉に顔が近づくと独特な匂い
正確に言えば排尿の匂いがする
そんな馬車の中から少女が私を見上げていた
酷い状態だ
明らかに首の骨が折れて死んでいるメイドの横でうずくまって震えている
立派なドレスの下半身は水に濡れて
上半身は涙と鼻水でそれはもう酷いことになっていた




