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石英記―泥被りの旅人―  作者: アルグレイ
イーストアルバス
32/50

11ーL

「あ~、疲れたぁ~」

「それはそれは、お疲れさまだねぇ」


王都でのパーティーは無事終わりリッシュラウドに帰ることになった

複数の貴族達に王都の別荘で一泊することを勧められたがマルタが頑なに拒否してくれた

王都から十字に広がる大街道

その東側を1台の馬車にマルタと2人で帰る事となる

因みにお迎えの騎士は役目は終わったという事で一切関わってこなかった


「あの騎士様は私が男だと気づいていたんでしょうか?」


彼の行きの頃の優しさは完全に失われておりまるで汚物を見るかのような目を向けていた


「それは無いね、王都の騎士なんてそんなもんだよ、王都勤めの騎士は基本貴族様だからね、最初は優しいけど用が済んだらお払い箱なんて普通さ」


それはこの帰り道でも露骨だ

最初は護衛なり色々と付いていた貴族用の豪華な馬車だったのが帰路は一般的な幌馬車1台である


「そうですか。…じゃあ何でお披露目が終わったあと他の貴族は王都に留まる事を勧めたんでしょうか?」

「そりゃアレだよ」


マルタが右手親指と人差し指で輪を作り

その中に左手の人差し指を入れる


「…私は12歳だと紹介されていたはずですが?」

「そんなの貴族には関係無いさ、綺麗で若い女なら何でも食べるよ。あぁ、でもシシールトの正体がバレて即座に首を撥ねられる可能性が高いね、男でもイケる奴はいるけど」


自分の体温が一気に下がるのが分かる


「勘弁してください」

「だからワタシが断ってあげただろう?」


貴族との直接な接触は無いが

マルタの説明が本当なら貴族はなんと節操が無いのだろうか


「それよりもパワードスーツの調子はどうだい?」


そしてそんなマルタも貴族である

つまり節操が無いのである

突然ドレスを脱がされたら男でも驚くのである


「肩や肘の方はあまり使いませんでしたね」

「そうみたいだね、やはり立ちっぱなしだったから腰と膝にはかなり負担がかかってるみたいだ、少し歪んだね」


マルタは私の関節の側面にピタリと張り付いた円盤に触れる

触っただけで僅かな歪みや負荷を見れるのは流石は専門家である


「あれ?手首の方も相当に疲労起こしてる…何か持った?」

「何か…いいえ、ワイングラスを持たされたくらいですよ」

「そうか…手首足首用にかなり小型化したのが原因で弱いのかな?あ、今外すから動かさないでね、絶対だよ、手首とサヨナラしちゃうよ」

「…どういうことですかソレ?」

「円盤関節の金属部分に亀裂があるからね。関節に食い込んでそのままスパリ、だよ?」


なぜそんな危険な物を装着させた


「試験とかしてないんですか?」

「時間が無かったからね仕方ないね、今回が実験だったんだよ」


なぜ私が実験体にされるのかを問いたい


「うわ、ストッパーも折れかけてる、これもよく考えないとなぁ」

「もしそれが壊れたらどうなってましたか?」

「そうだねぇ、例えば肩のが壊れてたら際限なく肩が車輪のようにグルグルと…シシールトの魔力なら秒速20回転くらいしてるんじゃないかな?」

「それ死にますよね!?」

「死ぬねぇ!助かったねぇ!」


勘弁してほしい

やはりマルタも間違いなく貴族だ

何処かのネジが外れている

ケラケラと笑うマルタに恐怖する

そしてそんなマルタの表情が次の瞬間に険しくなる

馬車が急停止したためだ


「どうした!」


彼女は御者に叫ぶ

しかし御者がその言葉に答えることは無かった

既に叫び声を上げながら大街道を走って、来た道を戻っていたからだ


「シシールト、伏せろ」


2人で幌馬車の中で伏せ息を潜める

外から音が聞こえる

色々な音が聞こえる

木材の折れる音

布が破れる音

硝子の割れる音

肉の千切れる音

骨の砕ける音

マルタが静かに外を除く


「まずいな、トロルがいる」


私も続いて外を除く

粗末な腰布だけの半裸の巨体

身長は軽く3メートル超え

生物とは思えないほどの筋骨が盛り上がった身体

それが数台の馬車と馬と人間を力任せに千切っていた

馬車の残骸には紋章が見える

何の紋章かはマルタが答えてくれた


「ジョベート家の馬車だ…」


ある程度荒らし終えたのかトロルが私達の馬車に向かってくる


「これは、マズいね……」

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