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借りてきた猫のよう、とは今の私の事を言うのではないだろうか?
「見えてきましたよ、レディ」
若く、それでも優秀に見える騎士がとても満面な笑顔で私に語り掛ける
「緊張する必要はありません。レディは人々にその御姿を見せるだけで良いのです、後のことは我々が行いますので」
公国の、王都から私を迎えに来た騎士は私が男だとは気づいていないようだった
―――
「なんですかコレ…」
ゼネラルギルドが私のために色々と頑張ってくれているのは知っていた
それはとてもありがたいことだとも思った
「シシールト君のドレスよ!」
ギルドの受付嬢達がソレを見せてくれる
いや、見ればわかる
どこからどう見ても女物のドレスである
私が聞きたいのはそういう事ではないのだ
「私のドレスというのはどういうことなのでしょうか!」
「そりゃ着るのよ」
「なぜ?どうして?」
「それはね、貴族の毒牙から貴方を守るためなのよ」
過去の話
公国の歴史の話
そこには数多の破壊と復興と殺戮と虐殺があった
人同士の争い
自然災害
魔獣の襲来
その歴史の中で大勢の英雄が居た
貴族の英雄がいた
侵略戦争で多大な功績を上げて公王から褒美を賜った
その名は歴史に記され長く語り継がれた
大きな災害があった
何もかも失ってそれでも生きようと足掻き
そうした人々に寄り添った人がいた
その名は聖人として人々の心の支えとなった
魔獣の侵攻があった
貴族の与り知らぬ小さな町を守り切った平民達、それを率いたリーダーがいた
その功績を公王に称えられ
しかしその名は語られること無く埋もれた
語られる者と忘れられた者
そこにはわかりやすい線引きがあった
貴族と女性は語られる
平民の男は名を消される
名を消されるだけならまだいい
大抵の凡夫は何らかの理由で突然死している
平民の男は貴族から危険視される
自分達の地位を脅かすかもしれない、と
だからある日突然姿を消す
平民達でも大人ならその末路は容易に予想できる
私は予想できなかったが
正直そこまで貴族とは愚かなのかと驚いた
「シシールト君が何処に行くかって言うと王都なのよ、そこで奇跡の子供と称して皆にお披露目するの」
「貴族って最悪でね、子供だろうが目立つ平民の男は物理的に排除しようとするのよ」
「つまり女として喧伝されれば問題ないってこと」
「そうすれば帰って来た後のシシールト君の活動も制限されないだろうしね」
「あとマルタさんも出席するから安全だし。…少しは」
最後のマルタ云々は何か引っかかる所があるが無いよりは良いだろう
寝泊まりする宿もマルタと同じ場所になるのだそうだ
「そういうわけでシシールト君は今から勉強してもらいます」
「…淑女の所作を覚えろとか言いませんよね?」
「正解、あと簡単な化粧とか、ドレスの着かたとかもね。お披露目会まで20日しかないから集中して」
酷い話だ
生きるためになぜ別人を演じなければならないのか




