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出来そうなことはとりあえず何でもやってみる
日の出と共に孤児院を出て安宿や酒場が密集する地区へ向かうことが習慣となった
「よう、泥っ子!」
「おはよう泥っ子」
いつの間にか宿や酒場から出てくる傭兵や娼婦達とすれ違う時にそう呼ばれるようになっていた
声をかけられたら軽く会釈することは欠かさないように気を付ける
大人達から好感を持たれることは何かの役に立つかもしれないからだ
彼らにとって孤児は3つに分けられていた
・察しが悪く騙しやすい子供
・小賢しく扱いにくい子供
・何も分からず何も理解できない利用価値のない子供
私は小賢しい子供と分けられている
そこに好感を合わせれば犯罪に巻き込まれる可能性は大きく下がる
その地区最大の井戸に到着する
大小様々な布が乱雑に積まれた場所だ
「来たかい泥っ子、さっさと仕事を始めな」
「はい!」
布の正体は宿屋や酒場で様々な用途使われた物
大体がベッドのシーツや布巾
それを十数人で昼までに洗い、干し、夕暮れに畳む
「お前さんは今日はそっちのを洗いな」
そう言って洗濯場を仕切る女に任される
他の人達より量が少ないのは厄介な布を渡されたからだ
娼婦たちが一晩使った布である
こうして昼までに洗いと干しが終わると夕暮れまで時間が出来る
「なんでい、また来たのか泥坊主」
朝日が昇っても未だに酒を飲む男達が数人
「はい、今日の分です」
「おう、授業料でいただいとくぜ」
彼らは落ちぶれた騎士や衛兵、商人である
すでに真っ当に生きる気力を失って酒浸りの日々を過ごす者達
だが私にとっては利用価値のある大人である
「じゃあ今日は…あ~、何から教えっかなぁ?」
そんな彼等に酒瓶を渡すことで歴史や地理、文字を学ぶ
酒は当然私の自腹
日々の労働で手に入れた資金から捻出する
どうせ帰れば孤児院の老婆に全部持っていかれるのだから惜しくもない
何より
「おう泥っ子、今日も勉強か!」
「あんまり飲んだくれの話を真に受けるんじゃねぇぞ!」
そう言って酒場の常連たちがたまに食事をおごってくれることがある
ハッキリ言って孤児院より良い物が食えるのだ
許されるのならこの地区に住みたいくらいだ