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石英記―泥被りの旅人―  作者: アルグレイ
イーストアルバス
29/50

「大事な弟の絵だよ」

「弟、ですか?」

「…言っとくけどまだ生きてるからね?今は16歳だよ」


何も言ってませんが?

まぁ表情に出ていたのかもしれない

その後、マルタは弟の話はしなかった


「それよりも夕飯はまだかい?」

「今から温めますよ」


作るのは単純なスープだ

市場の食堂で購入したブイヨンを薄めて適当に切った野菜と肉を放り込む

それを黒パンと一緒に食べるだけ

真っ当な料理の知識もない私にはこれが限界である

そもそも子供にこんなことやらせるな、という話なのだが追加料金が払われるので文句は口に出さない


―――



この生活は私が12歳になるまで続いた


「よーし、こんなもんでどうだい?」


マルタが1年以上かけて調整した新作は驚くほど小型化した

金属や木材は最小限

多くの場所に革を使った柔軟性の良い物になった


「関節強化だけですか?」

「安全性を考えたらその方が良い、と判断したのさ」

「安全性…」

「そう、金属製のプレートに無理な負荷がかかって、曲がって、それが刺さったりすることを考えてね」

「刺さるんですか!」

「そうだよ。強力な力で切れたり折れたりした金属は驚くほどよく刺さるんだ、特に鉄板みたいに薄く長い金属は包丁よりもよく切れる」


怖いなぁ

……………ん?

じゃあ今までの金属製パワードスーツは危なかったという事では?


「まぁとりあえず間に合って良かったよ」

「なんか納得いきませんが、間に合ったとは?」


彼女は無言で私に書簡を渡す

朱い何かの欠片が付いた物だ、封蝋だろうか?

本当に封蝋なら「そういう」出所で書かれた書簡だ


「キミがここに来てから2年が経ったよシシールト」

「そうですね」

「キミが過去に暮らしていたエクセラの街の壊滅、それは君が思っている以上の大事なんだよ」


その大事は公国民に不安をもたらした

不安は不満を呼び起こした

その解決のために貴族達は考えた

不安を払拭させるナニかを作り出すという手段


奇跡を起こす


貴族に都合の良い奇跡を用意する

本物の奇跡である必要はない

何かを成したということも必要とされていない

「神は我々を見放していない」「神は我々に期待している」

「我々は神に選ばれた」「悲劇は全て神の試練である」

そう民衆に思わせるため


私を利用するための計画が書かれていた


「逃げる方法はありませんか?」

「公国を出るしかないね」

「どうすれば国外に?」

「……魔獣蔓延る森を抜けることができるなら容易だね」


それは用意とは言わない

マルタが溜息を吐きながら話を続ける


「いま各ギルドがフォローするように頑張ってるよ、出来れば逃げないでもらいたいねぇ…」

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