19
魔獣とは全ての生命の敵である
それは何時から存在するのか
どのような歴史を持つのか
どのように増えるのか
どのように死ぬのか
全てが謎のままである
少なくとも400年以上前から人類は魔法を使って魔獣と戦っている
死体を解剖して分かった事は消化器官は食道までで終わっており
呼吸器官は存在せず
脳も確認されていない
口や牙は生命を噛み殺すためだけに存在し嚥下を行うことは確認されていない
そしてここまでしか分かっていない理由は
「水溜り?」
私が最初に叩き潰した魔獣、バフォメットは既に消えていた
訂正
性格にはコールタールのような真っ黒で高粘度な液体になっていた
「そうよ、もしかしたらシシールトもこうなってたかもしれないんだから」
南区での魔法一斉射が終わると魔獣は森の中に引いていった
その後はゼネラルギルドの面々と被害処理に走り回っている
私はリンハウにぶん殴られることを無事回避できた
無事?いや無事ではない
独断で危険な事をした罰として「魔獣の危険性を認識するため」の被害処理に従事している
つまり私だけはこの活動の参加拒否権限が無いのである
「新しい遺体が見つかりました~」
少し離れた場所からゼネラル職員の声が聞こえ、そちらへ向かう
「上半身は無事ね」
「身元確認できてよかったですよ」
それが魔獣の恐ろしさ
{殺して喰うわけではないためその場に残るのは原形をとどめないほどに破壊された無惨な死体}
これはまさにその通りである
魔獣は生物を殺す
死体はその場に残る
しかしなぜか殺した魔獣が死ぬとその傷口を中心とした場所は魔獣の死体のように液体となる
この遺体は上半身が無事だった
つまり下半身を吹き飛ばされてなおしばらく生きていたという事である
ゼネラル職員にとっては幸運だが即死できなかった被害者には極めて不運である
今回の騒動の被害は大きかった
重軽傷=200人以上
重傷の後死亡=16人
遺体が確認できた死者=5人
人と思わしき液体=21人
行方不明=3人
全て一般市民だと判断された
傭兵側も20人近くが死んだらしい
僅か半日で
4体の魔獣が入り込んでこの被害である
「この街って何人くらい住んでるんですか?」
被害を再認識してそんな疑問が起きた
なので同行するギルド受付の女性に確認する
「う~ん、1500人くらいだったかな?」
4%程の被害か?
数字にすると大したことが無いように聞こえてしまう気がする
だが数字以上にこの犠牲はきっと大きいはずだ
「よう、そっちはどうだ」
同じく処理作業中のリンハウと鉢合わせた
受付が私を後ろに匿う
その表情はリンハウを警戒している様だ
「……いや殴らないぞ?」
どうやら彼女は私を守ってくれているらしい
その気持ちは嬉しいが私の現状は自業自得ではあるので申し訳ない気分になる
「リンハウさん、このスタンピードって何だったんですか?」
そんな彼女の後ろから私はリンハウに問いかける
「何だった?って言われてもなぁ…魔獣の行動に説明なんてできるわけもないし」
「こういう事ってよくあるんですか?」
「…う~ん、滅多には無い。って感じか?」
分からない、と答えるリンハウの代わりに間に入る受付が答えてくれた
「スタンピードが前回確認されたのは4年くらい前だったはずよ、ここから3つ離れた国の出来事」
「…意外に頻繁に起きるんですね」
「普通のスタンピードは今回の半分、20体でも大規模なんだけどね」
つまり今回の出来事は明らかに普通じゃないという事である
「まぁなんだかんだでこの被害で収まったのは不幸中の幸いだ、スタンピードなんて起きたら街が半日で壊滅、集落が1時間で鏖殺なんてことも……」
リンハウの言葉を聞いていると空が暗くなった
太陽は出ている
雲は無い
夕刻まではまだ時間がある
日没なんて起きるはずがない
太陽は目の前にある
雲のように巨大な何かが日陰を作る位置に降り立っている
「………え?」
受付の女性は混乱している
「……は?」
私は思わず声を出した
「……翼竜だ」
リンハウがその正体を言い当てる
翼竜、ワイバーンがこちらを、街全体に頭を向けている
そしてゆっくりと口を開き、口内から眩い光を発する
少し遅れてリンハウが叫ぶ
「逃げろぉぉぉぉ!!!」
私の目の前が白で受け尽くされた
まるで白虹のようで美しいとも思




