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井戸に紐の付いた木製バケツを投げ入れ引き上げる
朝だからなのか
それとも地下水だからなのかは分からないがとても冷たい
酒場から持ってきた布巾を水に漬け
それで体を拭く
その冷たさで体が震え、気が引き締まり意識がハッキリしていく
だからなのか
カタリ、と小さな音が聞こえた
特におかしな音ではない
その程度は風が吹けば何処でも聞こえるものだ
だが不思議と気になったので慎重に聞こえた方角に向かう
「あ……」
音の正体が私に気付き声を漏らす
見知らぬ女の子だった
女の子、と言うには違和感を感じる
自分の肉体基準で考えるとその娘は明らかに年上だからだ
おそらく4歳5歳は上
そして服装も奇妙だった
ドレスだ
明らかに高そうな意匠のドレス姿の女の子
だがそのドレスは泥水に塗れている
靴も履いておらず裸足である
足の裏からは血が滲んでいた
先程すれ違った2人組を思い出す
(これ、厄介事だな…)
私の首から下がっているイクスレイターよ
「運が良い」などと思った矢先にこれはあんまりではないだろうか?
「さっき大人2人が誰かを探してたけど、どうする?」
そう女の子に聞くと首を横に激しく振る
「…じゃあ付いてきて」
女の子の手を引いて歩きだす
―――
「で、ゼネラルギルドに連れ込んだわけだ」
「そう言う事になります」
受付の女性が眠そうな顔で私に問う
起きたばかりなのか寝癖がついている
「まぁ緊急事態よね。マルコぉ、ちょっと傭兵ギルドから人借りてきて!」
「へ~い、何人ぐらいにしますぅ?」
「とりあえず5人以上でお願い、報酬は護衛規約の通りに」
声をかけられた男性、マルコがギルドから出て行く
「とりあえずはこれで良し、じゃあお姫様は質問に答えてくれる?」
受付が優しく女の子に声をかける
「まず貴女の名前は?」
「あ、アイリス・ヘルマン…です」
女の子、アイリスが自分の名前を答えた
「わぁ、大物だぁ……」
「大物なんですか?」
少なくとも私は聞いたことが無い名前である
単に私の学が足りないだけなのだろうが
「ヘルマンってこの国の4大貴族と言われてる名前よ」
大物の中の大物だった
「それで、アイリス様はどうしてこんな汚れた姿で歩き回ってたの?」
「ば、馬車に乗ってルガート街道を進んでいたらいきなり誰かに襲われて」
「それでそれで?」
受付の手が素早く動く
カウンターに置かれた紙にものすごい速さで報告書が書かれていく
「さ、最初にセルディアお爺さん…御者の胸に矢が刺さったのが見えて」
ヘルマンという名はサウスアルバスという領土を収める大貴族だという
彼女たちは故郷であるサウスアルバスからルガート街道という道を馬車で移動していた
目的地はイーストアルバスと呼ばれる領土
そこで王族主催のパーティーが行われることとなり
それに参加する為に移動していたと
「シシールト君」
受付の女性が私の方を向く
「怪しい2人組、どんな格好していた?」
「格好、ですか…」
どんな姿だったか
長めのブーツで…
大きな帽子を深く被って眼はみえなかった
「あ、腰に細くて長い剣がありました」
「かなり細い?」
「はい」
剣身は直接見ていないが
この街では今まで見たことがないほど細い鞘だったので間違いないだろう
「それ、多分エストックね」
「刺し攻撃に特化した奴ですか?」
「まぁ、そうね。それでエストックを使う奴なんて1種しかいないのよ」
「貴族ですね?」
「そう言う事」




