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「すいません、遅くなりました」
既に太陽は沈み月が見える時間
帰還からギルドへの報告で酒場の仕事が遅れてしまった
「構わねぇよ、俺が行けって言いだしたんだ」
カウンターで作業をしている店主がそう言いながら私に何かを投げる
受け取ってみるとそれは鍵だった
そして店主は続けて言う
「報酬はどんなもんだった?」
「銅貨140枚でした」
「ほ~ん、銀貨1枚半ってところか。それ、孤児院の婆に持ってかれんだろ?」
「まぁ…そうですね…」
「その為の鍵だ」
「…?」
どういう事だろうか?
「珍しく察しが悪いな、この酒場から東に2件となりの貸家の鍵だ」
「…え?」
「孤児院出てそこに住みな、家賃は年に銀貨2枚だが今の収入なら問題ねぇだろ」
「…何から何までありがとうございます」
「気にするな、俺達からの先行投資って奴だ」
そして酒場全体から大声が響く
酒場の常連達の声だ
「これでお前も一人前だぞシシールト!」
「お前らコイツまだ10歳なんだから酒勧めんなよ!」
「シシールトのめでたい日なのにあの娼婦はどうした?」
「どっかで客取ってんじゃね?」
「あの子供喰い癖のマリーがここ一番を見逃すのかよ!」
「ほっとけほっとけ、何人娼婦狂いにさせたと思ってんだあの女」
大騒ぎである、だが……
悪い気はしない
―――――
翌日、朝日が昇ると酒場は死屍累々であった
どいつもこいつも酒臭いのだ
飲んでいない私でさえ全身から酒の匂いがする
「目が覚めたか」
だが店主は昨晩、全く飲んでいなかった
「こういう場を狙う盗人がいるからな、誰かが素面を維持しねぇとならねぇんだよ」
「そういう人もいるんですね」
「ああ、だから金の扱いも気を付けろよ?」
金を持っていると知られると
そういう輩に狙われるぞ、と忠告を受ける
「自衛手段は無いと困るからな」
治安の悪い裏道に入らない
身体を鍛える
護衛を雇う
狙われたら一目散に逃げる
子供の私に今できることは逃げることだけだ
できるだけ大通りを歩いたほうが良いだろう
「それじゃあ身体を洗ってきます」
「ああ、それとこれからは酒場の手伝いは気が向いた時でいい」
店主はギルドの仕事を優先しろと言ってくれた
足取りが軽く感じる
色々順調な先行きに気分が浮かれているのが分かる
イクスレイター
紐で首から下げた白濁りの水晶が朝日を反射させる
(これのおかげだったりしてな)
そんな訳がないと思いながらも…
正面から2人組の大人が歩いてくる
何やら周囲を見回しながら私の方へ
嫌な予感がするので道の端に寄り大きく間を空ける
そのまま2人は私の方を見ることも無くすれ違う
「クソ、どこ行った?」
「裏道かもしれんぞ?」
誰かを探しているようだった




