表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

渋丹村 終章

作者: 渋谷千立

よろしくお願いします。


前作

https://ncode.syosetu.com/n1977kq/

森の入口に立つ。

先輩は意気揚々と歩を進めるが、私の心はずっしりと重かった。

あの夢の残滓が、まだ胸に残っている。

足元の枯れ葉がカサカサと音を立て、冷たい風が背中を撫でた。


――また、来てしまったのだ。あの森に。








数か月前の出来事以来、私は一見「普通」の大学生活を送っている。

しかし、時折あの夢が現れる。

凄惨な光景。恐怖と快感が入り混じる、あの底知れぬ情動を。


目覚めるたび、現実の境目がわからなくなる。


「おはよう、後輩君。」

耳元で声がしたが、私は反応できなかった。

「おい、後輩君!」

肩を叩かれ、ようやく意識が戻る。


「あ、すみません。今日はいい天気ですね……」

「今日は曇りだぞ? 本当に大丈夫か?」


「いえ……ちょっと眠れなくて。妙な夢を見てしまったんです。」


先輩は眉をひそめた。「まだ引きずってるのか。わからなくはないがね。」


私は苦笑しながら首をすくめる。


「でもまあ、大丈夫さ。今日はちゃんと準備してきたし、何かあったら私が何とかするからさ。」

軽く肩を叩く先輩の手のひらが、少しだけ温かかった。


そう。

私たちは再び、あの森へ向かう。

忘れたはずの何かに、導かれるように。





私はぼんやりと大学のキャンパスを歩いていた。

あの森の空気、あの闇の中で見たもの――それらはまだ鮮明に脳裏に焼きついている。

教室のざわめきや、笑い声が遠くで響くようで、まるで別世界にいるような感覚だった。


「後輩君、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」

先輩が隣で声をかける。

「はい、大丈夫です。ただ、少し考え事をしていただけで…」

そう答えたが、自分でも何を考えているのかはっきりしなかった。


「正直言って、あの森は私も気味が悪いんだ。だが、それを言ったら前に進めない。」

先輩は苦笑しながら続けた。

「まあ、今日は無理せず休んでもいいんだぞ?」


「いえ、そうもいかなくて……」

私は視線を伏せた。

「あの森にいた時の感覚が、どうにも消えなくて。現実と夢の境目が曖昧で怖いんです。」


先輩は黙って少し間を置き、こう言った。

「私も同じだ。だが、ここで逃げたら何もわからないままだ。お互いに支え合いながら進もう。」


その言葉に、わずかに救われた気がした。

まだ先は長い。だけど、ひとりじゃない。




昼休みの学生食堂は、いつもより少し賑やかだった。

窓の外の青空は変わらず明るいが、私の胸の奥はまだ晴れやかではなかった。


「後輩君、今日の授業はどうだった?」

先輩はいつもの軽口と違い、どこか気遣うような声色で話しかけてきた。


「先生の話は難しかったですが、なんとかついていけました。」

私が答えると、先輩は少し安心したように笑みを見せる。


「君らしいよ。無理はするなよ?」

「はい、ありがとうございます。先輩も、体調には気をつけてくださいね。」


ふと先輩の表情が変わり、真剣な口調になる。

「……あの森のこと、まだ心に引っかかってるんだな。」

私も俯きながら小さく頷く。


「正直に言えば、あの時の感覚がどうしても消えなくて。現実と夢の境が曖昧で怖いんです。」

「それは当然だよ。私だって同じだ。だけど、いつまでもそこで足踏みしてたら何も進まない。」


先輩は食堂の騒音の中でも、自分の言葉をゆっくり伝えようとするように語りかけた。

「私たちはこれからも調査を続けなきゃいけない。真実を知るために。君もそう思ってるんだろ?」


私は力強く頷く。

「はい。真実を知らなければ、前に進めない気がします。先輩と一緒なら、きっと乗り越えられます。」


先輩は少し笑みを浮かべ、肩に軽く手を置いた。

「そうこなくちゃな。これからも、一緒にね。」


その言葉に胸の奥がじんわりと温かくなった。

現実はまだ重い。けれど確かに、ここには支え合える仲間がいる。


食堂のざわめきの中で、私は少しずつ日常の空気を取り戻していく自分を感じていた。





研究室を出て、静かな廊下を歩きながら教授がぽつりと言った。

「正直に言おう。僕もあの森には恐怖を感じている。だが、僕たちはもう引き返せない場所に足を踏み入れてしまった。」


私はその言葉に息を呑んだ。


「二人とも、聞いてほしい。森で何が起きているのか、僕は知ってしまった。そして、その真実は君たちが想像する以上に過酷だ。」


教授は冷たい目で私たちを見据え、続けた。

「もし、あの森に深入りしすぎれば、精神も肉体も破壊されかねない。僕もまだ完全には整理できていないが、二度と戻れなくなる者もいる。」


先輩が毅然と答える。

「教授、怖じ気づいてどうするんです? 私たちは真実を知るために来たんです。」


教授は苦い笑みを浮かべた。

「恐怖や疑念は誰にでもある。だが、君たちの覚悟がどこまで続くか、僕は心配しているんだ。だから、命令する。これ以上深入りするな、と。」


私はその言葉に戸惑いながらも、どこかで安堵を感じていた。

教授もまた、この森の闇に怯えているのだ。


「しかし、行くならば…」教授は低く呟いた。

どうなるかわからない、と。

彼の声に、不安と恐怖が混ざり合っていた。




また夢を見た。踊る大木。そのそばで踊る何か。彼らは笑顔を張り付けたまま、祈っている。

一歩、また一歩と私は木に近づいていく。

その顔は、踊る彼らとよく似ていた。

無表情で、笑みを浮かべたまま。


はっと夢から覚める。

寝汗がびっしょりと体を濡らしている。

また、あの夢だ。

自分が自分でなくなるような奇妙な感覚。

恐怖だけではない、底知れぬ情動が胸を締めつける。

一体これは何なのだろうか。


布団をはねのけ、窓の外を見やる。

夜は深く、冷たい風がカーテンを揺らしている。

何かに追われているような焦燥感が胸に渦巻く。


「先輩……」

無意識に呟く声が、暗闇に消えていった。


翌朝、キャンパスの喫茶店で先輩と向かい合う。

「またあの夢かい?」

先輩は眉をひそめ、眉間にしわを寄せる。

「正直言って、私もあの森で感じたものが消えない。

ただ、知らなければならないことがあるんだ。」


私は無理に笑みを作りながら頷いた。

「真実を知ること。それが怖いけれど、避けては通れない気がするんです。」


「そう。真実だ。あの日見たあれが何なのか。私たちは知らなくてはならない。」

先輩はそう言い、遠くに目をやる。

その瞳は、まるで目の前の景色ではなく、あの森の闇の奥底を見ているかのようだった。


「……でも、怖いんです。知ってしまったら、もう戻れない気がして。」

私の言葉に、先輩はわずかに笑った。


「怖いのは当然だ。でもな、後輩君。知らなかったことで救われることもあるが、知らなかったせいで取り返しのつかないこともある。私は、後悔はしたくない。」


その声音に、わずかに震えがあったように思えた。

私たちはもう、あの森に囚われているのかもしれない。

ならば、進むしかない。真実の在処へと。






森の入口に、私たちは再び立っていた。

教授は立ち止まり、静かに息を吐いた。

その顔には、明らかに「思い出」ではなく、「記憶の再来」としての恐怖が張り付いている。


「……あの森のことを知り、入ったのはあの日が初めてだった」

教授は、まるで独白のように言った。


私は、教授の横顔をそっと見た。

森を見つめるその目は、かつての学者然とした落ち着きとは異なり、何かに怯えているようだった。


「まさか、あれほどの“実在”が待っていようとは……」

呟きは、風に混じって消えかけた。


「へえ。てっきり教授は昔から知ってたのかと」

先輩が皮肉めいた口調で言う。

相変わらず、その声色には軽さがあったが、その背筋はわずかに硬直している。


教授は無視するように続けた。


「理屈ではすでに理解していたつもりだった。“境界”の概念、“異域”の存在、そしてこの森が……“向こう側”と接していることも。しかし、現実は史料よりも残酷だった。あれを見て、正気を保てた自分を僕は今でも信じきれない」


私は喉を鳴らす。


「教授……また、入るんですか?」


教授は少しだけ私の方を向き、真っ直ぐに答えた。


「見た以上は、知らなければならない。僕は研究者である前に、人間としてこの異常と向き合わなければならん。逃げることは、もうできん」


その言葉は、恐れと責任と――どこか諦念を孕んでいた。

先輩がふうっと短くため息をつき、ポケットから何かのお守りのようなものを取り出した。


「じゃあ、覚悟はお揃いってことですね。……後輩君、置いていかれないようにしなよ?」


私はうなずく。胸の奥で、あの夢の断片がざわめいた。

踊る木々、祈る影。微笑む“彼ら”。


真実は、この先にある。

その先にあるものが、救いなのか破滅なのか――誰にも、わからなかった。





僕たちは、無言のまま森の奥へと歩を進めた。

足元の落ち葉が、わずかに湿っている。昨日の雨の名残か、それともこの森の常態か――わからない。ただ、空気ははっきりと変わった。ここからは、外とは異なる“匂い”がある。


「ここから先だ」僕は二人に声をかける。「前に、異変が始まったのはこのあたりだった」


「異変ねえ……。教授のいう“異変”ってのが、いったいどの程度のことを指してるのか、ちょっと気になりますけど」

先輩が、わざとらしく肩をすくめてみせた。


僕は無視した。というより、答えようがなかった。

あれを言語化するのは、未だに困難なのだ。

あの日、この場所で――僕たちは“外側”のものに触れた。見てはならぬ構造に、足を踏み入れたのだ。


彼は黙ってついてくる。目は落ち着いているように見えるが、指先はわずかに震えていた。

それでも、引き返す気配はない。

彼は知ろうとしている。自分が見たものの正体を。夢に現れる“彼ら”の意味を。


「教授」

その小さな声に、僕は歩みを止めた。


「もし……また“あれ”が現れたら、どうすればいいんですか?」


僕は返答に詰まる。

どうすればいい――そんなもの、わかるはずもない。

ただ、ひとつだけ確かなのは、“知らないふり”を続けるには、もう遅すぎるということだ。


「……目を逸らすな。何が見えても、すべてを目に焼きつけろ。そうしなければ、次は夢では済まない」


その言葉を聞いた後輩君は、ゆっくりとうなずいた。

覚悟は、もう決まっているらしい。


先輩はふと立ち止まり、茂みの向こうを見やった。

「おや、また同じ場所に出ましたよ、教授。……これは迷ってるんじゃなくて、迷わせられてる、ってことですか?」


僕の口元に、僅かな苦笑が浮かぶ。

「ようやく君にも見えてきたようだな。この森が“普通”ではないことが」


風が吹いた。木々がざわめき、何かの声のように響く。

次の一歩は、たぶんもう、戻れない場所への入り口だった。


僕は小さく息を吸い、足を踏み出した。

あの木の元へ。すべてが始まり、すべてが終わる場所へと――。





私が最初に感じたのは、あの甘い匂いだった。

熟れすぎた果実のような、あるいは血に混じった花の香りのような――言葉にできない、だが確かに“前にも嗅いだことのある”匂いだった。


そしてその匂いが鼻腔を満たす頃には、もう足元の感覚が曖昧になっていた。

土か、葉か、水か、何か柔らかいものを踏んでいる。けれど、それを確認しようとは思わなかった。

見たら、戻れない気がした。


「……感じたか?」


教授の声がした。

私はゆっくりと顔を上げる。見慣れたはずの木々が、今はまるでこちらを見下ろしているように思えた。枝が手のように揺れ、葉が舌のように囁く。


「ええ……間違いありません。ここです、また……あの場所に近づいています」


先輩が、わざとらしく鼻を鳴らした。


「気持ち悪いな。甘ったるくて――まるで誰かが“歓迎”してるみたいだ。おぞましい趣味だね」


私は口を開こうとしたが、声が出なかった。

喉の奥に、黒い何かが貼りついているような気がした。


――まただ。夢で見たのと同じ。

この匂い。この空気。この歪んだ静けさ。


私はわかっていた。あの夢はただの記憶ではない。

むしろ、夢の中にあるものこそが“現実”なのではないかと、最近ではそう思い始めている。


先輩の足音が止まる。教授も立ち止まった。


「ここから先は、君たちだけで進みなさい」

教授の声が、低く、硬くなった。


「僕は……もう一度、あれを見てしまったら、正気でいられる自信がない」


その言葉の裏にある恐怖は、言葉以上に重く、私の胸に沈んだ。


「……わかりました。私が行きます」


そう答えながら、私は思っていた。

この匂いの正体を知るときが来たのだ、と。




一歩、また一歩と踏み出すごとに、周囲の音が遠ざかっていく気がした。

木々の音も、先輩の足音も、まるで深い水の底から聞こえてくるようにぼやけている。


そして、私は見た。


最初は、風に揺れる木々の隙間だった。

木漏れ日が地面に落ちて、斑になっている……はずだった。だが、その影が“動いて”いた。風に吹かれるでもなく、私の歩みに合わせてじりじりと形を変え、まるで笑う人の顔のように歪んでいた。


次に気づいたのは、音だ。


カサ、カサカサ……

枯れ葉を踏む音ではない。何かが地面を這っている音。しかもそれは、私の真後ろから響いていた。


振り返る。

だがそこには、誰もいない。


――幻覚だ。わかっている。これは現実ではない。


そう自分に言い聞かせようとしたとき、視界の端で“何か”が動いた。


木の幹に顔があった。

人間の顔。否、それに酷似した何か。目と、鼻と、口のような凹凸が木肌に浮かび、ゆっくりとこちらを見ていた。


私は息を呑んだ。


「後輩君?」


先輩の声が、遠くから聞こえた。私は一歩、よろける。


「……聞こえていますか?」


教授の声も混じるが、それすらも遠のいていく。まるで彼らが別の世界にいるかのようだ。


目の前の木に、もうひとつ顔が現れる。

今度は、私自身の顔だった。笑っている。あの夢で見た、踊る“彼ら”と同じような、凍りついた笑みだ。


――これは、夢か?


いや、違う。

これは、森が見せている“記憶”だ。


私の記憶か、それとも森のものか――その境界も、もうわからない。


「……まだだ。まだ、奥がある」


私はふらつく足を踏み出した。木の顔が、微笑んだ気がした。




木々の間を抜けた先――

霧が薄く立ち込める小さな広場のような場所に、私は辿り着いた。


そこは奇妙に静かだった。風も、鳥の声も、遠くのざわめきさえも失われている。

ただ、甘い匂いだけが濃く漂っていた。


そして――見えた。


彼らは、いた。


夢と同じだった。大木のまわりを、何かが踊っている。

人のようで、人ではない。

白い目に、裂けるような笑み。

四肢の動きは人間の踊りを模しているようでいて、どこか関節が多すぎる気がする。


彼らは、私の存在に気づいていた。だがすぐに駆け寄ることもなく、ただ踊りながらこちらを見ている。

その視線には敵意はなかった。不気味なまでの“歓迎”だけがあった。


私は、気がつくと歩み寄っていた。


恐怖はあった。しかし、同時に懐かしさのようなものもあった。

まるで、何かを忘れていたのだと、今になって気づいたかのような――そんな感覚。


一歩踏み出すごとに、彼らの踊りは熱を帯びる。

腕を掲げ、足を鳴らし、顔のない顔でこちらに笑いかけてくる。


そして、そのうちの一体が私の前に立った。


背格好は私と同じほど。顔には無表情の仮面のような皮が張りついていた。

だが、その目だけが、見覚えのある色をしていた。


――それは、夢の中で見た、“私自身”だった。


「……思い出せ」と、その“私”は口を動かさずに言った気がした。

音はなかった。ただ、頭の奥に直接響くような感覚だった。


「君はもう、こっち側に片足を踏み入れている。否、最初から、ずっと……」


背後で、木々がざわめいた。

視界の端で、教授が叫んでいるのが見えた。先輩がこちらに走ってくる。


だが私は、動けなかった。


彼らの輪の中に、自分が入りかけているのを感じていた。


そしてそのとき――

仮面の顔が、ふいに、私に触れた。


その指は、思いがけないほど、温かかった。





「……思い出せ」


その“私”の囁きが脳内に響いた瞬間、世界がふっと傾いたような錯覚があった。


木々のざわめき、彼らの笑み、仮面の指先――

すべてが、溶けるように崩れ落ちていった。


次に気づいたとき、私はまだ森の入り口に立っていた。


足元の落ち葉は乱れていない。靴にも土がついていない。

心臓の音ばかりがうるさく響く。


「……後輩君、何をしている?」


すぐそばで、先輩の声がした。

私ははっとして顔を上げた。


先輩は、眉間にしわを寄せて私を見下ろしている。

教授もすぐ後ろに立っていた。無言だが、その表情は険しい。


「……今、君は一歩も動いていないぞ」


先輩の言葉が、乾いた風に混じって耳に届いた。

私は反射的に足元を見下ろした。確かに、その通りだった。


「まるで、そこに“引き込まれそう”になっていたように見えた」

教授が低い声で言った。

「まったく動かずに、目を見開いて……何を見ていたんだい?」


私は唇を噛んだ。喉がひどく乾いている。


「……彼らが、いました。踊っていて、私に……話しかけたような……」


先輩はため息をついた。「やっぱり見えてるんだな。……こっち側の“目”で」


教授は眼鏡を外し、ハンカチで曇りを拭いながら言った。


「本格的に境界が薄くなってきている。僕らも、もう悠長にはできないようだね」


私は黙ったまま、もう一度、目の前の森を見た。

葉の揺れ、湿った空気。何の変哲もないはずなのに、呼吸するような気配がそこにあった。


先ほどまで見ていた夢幻の光景が、記憶の奥からじわじわと滲み出してくる。


一歩も動いていない。だが、心の奥深くでは、確かに――彼らと“再会”していた。





しばらくして、教授は語りだす。

「……あの大木は、ただの木じゃない。千年も昔、空の彼方から降り注いだ“異形”だ。

人の理解を超えた存在、まるで森そのものの意志を宿しているかのように――」


教授の声が低くなり、視線は遠く闇に溶けていく。

教授は史料を取り出すと、

「伝説では、その大木は自らの根を深く地に伸ばし、森の生命や時間さえも絡め取り、支配すると言われている。

それは生きている。いや、森を超えた“何か”なのだ」


「その樹の影響下に入った者は、意識を揺さぶられ、夢と現実の境が曖昧になる。まるで木に魂を吸い取られ、体の中に“何か”が潜り込むような感覚を覚える」


教授は静かに息を吐いた。


「我々が見ているのは、単なる自然現象じゃない。超越した意思、もしくは呪いのようなものだ。あの大木は森の守護者でもあり、獰猛な支配者でもある。触れる者に畏怖と狂気を与える“生きた伝説”だよ」


教授の言葉が空気に沈黙を落としたあと、先輩が口を開いた。


「はは……千年も昔に宇宙から降ってきた“異形の大木”か。ずいぶんと壮大な話だね、教授。

まるでSFとオカルトの合作ってところかな。」


そう言って、先輩は笑みを浮かべる。しかしその笑みはどこか引きつっていた。


「けど……まあ、否定はしないさ。あの木の前じゃ、どんな理屈も薄っぺらく感じるのは確かだしね。

あの匂いも、あの“気配”も……説明のつくものじゃなかった。」


ふと、先輩の目が伏せられる。珍しく、声に揺らぎが混じっていた。


「正直に言うと、私も怖いんだ。あれに触れたとき、自分が自分じゃなくなるような感じがして……。

夢の中で笑ってる“私”が、現実よりずっと自然に思える瞬間がある。」


わずかに拳を握りしめ、先輩は吐き捨てるように言った。


「――だからこそ、引き返す気にはならない。

あれが何なのか、本当に知っておかないと……いずれ、自分がどこかへ消えてしまいそうで。」




私は先輩の横顔を見つめながら、胸の奥がひどくざわつくのを感じていた。


自分もまた、同じだった。

夢の中で微笑む「私」が、時折、現実よりも真実らしく思える瞬間がある。

そして、その「私」はいつも、大木の前で祈っていた――いや、何かに同化していた。


「……先生は、どうしてあれを“異形”と呼ぶのですか?」


私は教授に尋ねた。わかっている。答えが怖いのだ。けれど、聞かずにはいられなかった。


教授は少しの間、黙って空を見上げた。


「異形、という言葉がふさわしいかは……わからない。

だがね、あれには“始まり”も“終わり”もない。時間というものが通用しない。

我々がその存在を理解しようとすること自体、そもそも無謀なんだよ。」


そして、声をひそめて続けた。


「僕たちはね、夢の中で“呼ばれた”んだ。あの木の根元に立ち尽くす、自分の姿を何度も見た。

そして……あれが微笑んだ。木に“顔”なんてあるはずがないのに、あの瞬間、私は確かに“見返された”と感じた。」


一瞬、冷たい風が森の奥から吹き抜け、木々をざわつかせた。


私は無意識に腕を抱きしめる。言葉にできない何かが、背筋を這い上がってくる。

まるで森そのものが、こちらを見ているかのようだった。


「……もう、戻れないんでしょうか。普通の生活に。」


私の問いに、先輩は一度だけ乾いた笑いを漏らし、ポケットに手を突っ込んだまま答えた。


「“普通”って何だ? そいつがどこにあるか知ってたら教えてくれよ。私も探してるところでね。」


そして、一歩、森のほうへ足を向ける。


「さあ、行こうか。このまま立ち止まってたって、あの木が答えてくれるわけじゃない。

聞きたいなら、自分の足で近づくしかない。怖くてもね。」


私は、ごくりと唾を飲み込む。


遠く、森の奥から――甘く、熟れすぎた果実のような、あるいは血に混じった花の香りのような――あの匂いがかすかに漂ってきた。

私は、その香りに誘われるように、一歩を踏み出した。






森へ足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。湿っていて、やけに静かだ。

葉の擦れる音さえ遠く、呼吸音だけが耳に残る。


「先輩、この辺り……以前と少し違う気がします」


私は、木々の位置がわずかにズレているような、そんな奇妙な違和感を覚えて口にした。

だが、先輩は眉をひそめ、首を横に振る。


「何を言ってるんだ。ここは前にも通った場所だろう。君が迷って足を滑らせた、あの沢も、確か……」


「……え?」


先輩が指差した方向に、沢などない。

ただ乾いた地面と朽ちた倒木があるばかりだ。


「先輩、そこに沢なんて……ありませんでしたよ」


私がそう言うと、今度は先輩の顔が曇る。


「何を言ってるんだ。私が助けたじゃないか。君が水に足を取られて、尻もちをついたとき」


「私はそんな記憶、ありません……」


ふたりの間に沈黙が落ちる。空気が、また少し重くなる。


そのとき、教授が口を開いた。


「おかしいな……君たち、前にここに来たとき、あの木の根元までは近づかなかったはずだろう?」


私はハッとして教授の顔を見た。


「……教授、それは違います。あのとき私たちは、木の幹に触れました。根の下にあった、あの……“顔”みたいな模様まで」


「そんなことはない。私は――君たちを手前で止めたはずだ。あそこまで行かせた覚えはない」


教授の表情は本気だ。だが、私の記憶もまた確かだった。

あの幹のぬめるような感触、近づくほどに聞こえた囁き声のようなもの……忘れられるはずがない。


「……おかしいのは、誰なんでしょうね」


先輩がぽつりと呟いた。

半ば笑っているような、しかし目は笑っていない。


誰の記憶が正しいのか。

あるいは全員が、何かを「忘れさせられている」のか。


森は、何も言わない。ただ静かに、こちらを見下ろしていた。





風がざわりと吹き、木々の影がわずかに揺れた。


私は静かに深呼吸をして、もう一度あたりを見渡す。

見覚えのある木々――のはずなのに、どこか、ほんの僅かに形が違っているような気がする。まるで記憶の中の風景が、別の“記憶”にすり替えられているような。


「……まさか、森そのものが、私たちの記憶に干渉してる?」


私の言葉に、教授は顔を強張らせ、口元に手を当てた。


「あり得る。いや、理屈としては馬鹿げているが……この森に入ってから、私は時計を見ていないことに気づいた。携帯も圏外のままだ。時間の感覚すら、どこか曖昧だ」


「私のスマホも、いつのまにか電池が切れてるな。さっきまで残っていたはずなのに」


先輩は苦笑するように画面を見せたが、そこには真っ黒な表示があるばかりだった。


教授が、ふと森の奥――例の大木があるはずの方角を見やった。


「この森は、僕たちを記録ではなく、“体験”によって縛ろうとしているのかもしれないな。

記憶を操作する。時間をゆがめる。認識さえ、塗り替えるように」


先輩が眉をひそめた。


「じゃあ、私たちが覚えている“あの木”の姿すら、本当に正しいとは限らないってことか」


私はごくりと唾を飲み込んだ。


そうだ。私たちが見た“木”――

幹に刻まれた無数の顔のような模様、震えるようにうねる枝、まるでこちらを見ているような存在感――

それが、本当に“木”だったのかすら、もうわからない。


「……だとしても、戻りますか?」


私は思わずそう尋ねた。


先輩は、鼻で笑った。


「戻る? どこへ? “普通”の生活? それとも、もう書き換えられたかもしれない記憶の中へ?」


「先輩……」


「いいか、後輩君。私たちはもう、あの木に“見られた”んだよ。見られたものは、戻れない。否応なしに“関係者”にされてしまうんだ」


その声は冗談めいていたが、目だけは真剣だった。


教授がゆっくりと頷いた。


「“関係者”……いや、すでに“構造の一部”になりかけているのかもしれないな。

この森の、あの木の“物語”の中にね」


静かだった森の中で、どこか遠くから“風鈴”のような音が聞こえた気がした。

木々が歌っているのか。それとも――誰かが、呼んでいるのか。


私の中に、再びあの感覚が忍び寄ってきた。

甘く、澱んだ熱。ぞくりとするような懐かしさと、底知れぬ嫌悪。


夢と同じだ。

あの木の根元で踊っていた何か。笑顔を張り付けたまま、祈りにも似た動きを繰り返していた影たち。


――あれは、私たちなのか?

――それとも、かつて森に来て、戻れなかった誰かなのか?


言葉にならない不安が、胸の奥でゆっくりと芽を広げていく。





ふと、教授が足を止めた。


「……これは」


彼の視線の先、苔むした地面に、何かが半ば埋もれるようにして転がっていた。


私はそっと近づき、それを拾い上げる。金属の、重たい感触。泥にまみれていたが、それは明らかに録音用のICレコーダーだった。


「まだ使えそうかい?」先輩が顔を覗き込む。


私はレコーダーのボタンをそっと押してみる。

最初は無音。しかし、数秒の後――かすれた音声が響いた。


『……これは、第三回目の記録。ここは……変わっている。植物の成長速度が異常で、昨日まで無かった倒木が道を塞いでいる……』

『……同行者の一人が夢遊状態で歩いていた。目は開いていたが、何かを“見ていない”目だった。話しかけても反応しない。彼女は“根が呼んでる”とだけ言って……』


そこまで再生されたところで、レコーダーはプツン、と電源が落ちた。


「第三回目……?」私は思わずつぶやく。


「ということは、少なくとも三度は、この森に足を踏み入れた者がいたってことか」

先輩はレコーダーを手に取り、ひっくり返して底の記名部分を確認した。


「あった。名前……“羽田 圭司”……聞いたことあるか?」


教授の表情が一瞬凍った。


「……まさか……その名前、昔の記録で見たことがある。“都市民俗論研究会”の卒業生だ。十五年ほど前に、ゼミ合宿で行方不明になった一人だよ。確か、遺体も見つからなかったはずだ」


私たちは言葉を失い、沈黙した。


そのとき、風が吹き抜け、どこかで乾いた枝が折れる音がした。


私は立ち止まった。何かが、近くにいる。そんな気がした。


「……ねえ、これ」先輩が指差した。


視線の先には、まるで古い登山靴の片方が、地面の根に引っかかるようにして残されていた。劣化し、破れ、苔に覆われている。だが、間違いなく“人の痕跡”だった。


「……十五年も前のものにしては、ずいぶん“新しい”ね」先輩が低く言う。


教授もその場にしゃがみこみ、小さくうめくように言葉を漏らした。


「時間が……おかしいんだ、この森は。記録の順序も、物の劣化も……“今”と“過去”が混じり合っている」


「まるで、森そのものが“記憶”を抱えているみたいだ」私は呟いた。


「いや」教授は言った。「違う。“記憶している”んじゃない。“飲み込んで”、育ててるんだ。この森は。痕跡も、記録も、人の感情も。全部、根の奥に絡み取って――養分にしてるんだ」


その瞬間、レコーダーが再び震え、勝手に音が再生された。


『……あの木が、笑った気がした。彼らはまだ踊っている。踊りながら、こちらを見ている……お願い、もしこれを聞いているなら――もう戻らないで……!』


そして再び、沈黙。


森は、何もなかったかのように静かだった。






しばらく進んだ先、小さな沢を越えたときだった。


「……これ、見て」


先輩の声に、私は足を止める。


そこは一見、ただの倒木の陰だった。だが、先輩が手袋越しにそっと拾い上げたものを見て、私は息を呑んだ。


それは、一冊の革張りの手帳だった。


表紙には、精緻な金の型押しで名前が記されている。


「黒川静馬 一八九七年」


教授が手帳に目を通すと、すぐに眉をひそめた。


「黒川静馬……これは……明治時代の学術調査員の名前だ。民俗誌に出てくる、“奥山踏査報告書”を書いた男。けど、確かあの報告は未完だったはずだ」


私はおそるおそる、その日記の一ページを開いた。


墨で記された文字は、不思議なことにまったく滲んでいない。


一〇月十二日

本日、第三観測点付近にて奇妙な現象に遭遇。天候は晴天なるも、日差しが届かぬほど樹々が密生しており、コンパスの針が定まらぬ。同行の助手・林は突然、木の根に触れた後、言葉を失い、ただ笑い続けるようになった。

笑顔のまま、「おかえり」と繰り返している。

……この森は生きている。我々を知っている。いや、覚えている。


教授はゆっくりと頭を振った。「あり得ない……これが百年以上前のものだとすれば、なぜ紙も、墨も風化していない?」


「あり得ないことばかりじゃないか、ここは」と先輩が皮肉交じりに言った。


私は震える手で、次のページを開いた。


そこには、奇妙な植物のスケッチが描かれていた。幹がねじれ、空に手を伸ばすような枝、根元には人のような影が絡みついている。


まるで――あの“大木”だった。


そして最後のページには、こう走り書きされていた。


あの木は、私の名を呼んだ。

まだ言葉にならぬ声で、確かに、私の名を。

……私はまだここにいる。


ページの隅には、爪で刻んだような傷跡が幾重にも重なっていた。


「これ、本当に百年前の記録……ですか?」私は問うたが、自分の声が震えているのがわかった。


「記録は“百年前のもの”だろうな。ただし、“そこに書かれている彼”が、まだこの森にいるかどうかは……別の問題だ」

教授は手帳を閉じて静かに言った。


その瞬間、頭の奥でふいに誰かの名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。


甘く、低く、耳元をなぞるような声。


私はその場に立ち尽くし、振り返る。


誰も、いない。


だが確かに、“何か”が見ていた。




私たちは更に森の奥へと分け入り、背の高いシダ植物と、ぬかるんだ土を踏みしめながら進んでいた。


やがて、木々が唐突に途切れ、ぽっかりと空の見える円形の広場が現れた。


「……不自然な開け方ですね」と私が呟くと、教授は帽子を押さえながら答えた。


「人工的だ。誰かが……いや、“何かが”整えた形跡がある」


その中心に、巨石が立っていた。丸く削られた花崗岩。高さは二メートルほど。表面は年月に風化されているにもかかわらず、ある一点だけ、妙に滑らかで光を反射していた。


「これは……鏡石?」教授が近づき、掌でそっと撫でると、石は冷たくも温かくもない、不思議な感触を返した。


その石の周囲には、土に埋もれかけた陶片、骨片、焼けた木片、貝殻のようなものが円環状に並べられている。中には、明らかに人骨の一部と思しきものもあった。


「縄文期のものだな」と教授がつぶやいた。「こんな奥地に、これだけの遺構があるとは……普通なら考えにくい。ましてや、儀式に人骨を……」


先輩が鼻を鳴らした。「“普通”じゃないことばかりだろう、この森は」


私は、ふと地面に何かの文様が彫られているのを見つけ、しゃがみこんだ。


土を払うと、浮かび上がってきたのは――


目のような形をした円環と、その中心から放射状に伸びる枝のような線。


「これは……あの大木を模しているんじゃ……?」


そう口に出した瞬間、胸の奥が妙に熱を持ったような感覚が走る。脈が早くなり、視界が揺れる。遠くで、笛の音のような響きがした。


教授が急に真顔になった。


「これは“祭祀痕”だ。単なる信仰じゃない。あの木に触れた者たちが、何かを捧げ、何かを交換していた……生贄かもしれない」


「見て、これ……」先輩が落ち葉の下から引きずり出したのは、風化した木製の仮面だった。ひび割れた面に、笑っているような口と、空っぽの目が彫られている。


私は息を呑む。


それは、夢の中で踊っていた“彼ら”がつけていた顔に、そっくりだった。


「……これ、夢で見ました。あの木の下で、踊っていた人たちが……」


教授と先輩が顔を見合わせた。その空気が、凍るように冷えた。


「夢じゃないかもしれないぞ」と教授がぽつりと言う。


「ここで、ずっと続いていたんだ。誰にも知られずに。千年……いや、もっと前から」


私はその仮面から目が離せなかった。まるで、かつてそこにいた者たちの声が、仮面越しに響いてくるようだった。


“また来たのか”


“ようこそ、おかえりなさい”


風が吹き抜け、木々がざわめく。


香りがした――あの、甘く、熟れすぎた果実のような、あるいは血に混じった花の香りのような匂いが。


私は仮面を手放せずにいた。





風が吹き抜け、木々がざわめく。


香りがした――あの、甘く、熟れすぎた果実のような、あるいは血に混じった花の香りのような匂いが。


私は仮面を手放せずにいた。

手にしたそれはただの木製の遺物ではない。ひび割れた面の裏側から、何かがこちらを見返してくるような感覚。目を逸らせば、背後から囁きが聞こえる気がした。


「やめておけ、後輩君」

先輩の声が低く、鋭くなった。


私は反射的に顔を上げた。だが、先輩の視線は仮面ではなく、私の手に向いていた。


「……それ、いつの間に、そんな形になった?」


自分の指を見下ろすと、知らぬ間に土と赤黒い染みが混じった痕が、仮面の端から手首にかけてこびりついていた。しかも、仮面と皮膚が微かに同化しているようにも見える。


「ちょっと待て」

教授が歩み寄ってくる。「その模様……古い儀式の証印に似ている。文献でしか見たことがないが……」


彼は慌てて荷を開き、古びたノートを取り出した。震える手でページをめくると、そこに描かれた図案は――今、私の手に浮かび上がっている模様と酷似していた。


「まさか、そんな……これは“契約印”のはずだ。あの木と、“交わった”者に刻まれる……」


「どういうことですか?」私は声を震わせながら問いかけた。


教授は口を結び、そして絞り出すように言った。


「……君はもう、“中に入ってしまった”かもしれない」


森の奥で、どこかからかすかな歌声が聞こえた。

それは人の声のようでいて、どこか植物が風にそよぐ音にも似ていた。いや、むしろ、木々そのものが歌っているような――


先輩が低く呟く。


「やっぱり、始まってるんだな……あの木は、今も誰かを“選んで”いる」


私は、仮面を見つめ続けていた。

それがほんの数秒か、あるいは永遠か――ただ、はっきりしているのは一つ。


もう、ここからは戻れないのかもしれない。




森の奥から帰ってきてから、()の中の何かが確実に変わった。

言葉にできない違和感と、体の奥底から湧き上がる奇妙な力。

あの仮面を手にしたあの日から、夜になると夢に見知らぬ景色が映り込むようになった。


目覚めれば、いつも寝汗でびっしょりだ。

鏡を見ると、自分の瞳に微かに緑が宿っている気がしてならない。

まるで森の一部が俺に染み込んだような錯覚だ。


先輩も教授も、俺の変化に気づいているようだ。

「君、どこか様子がおかしいぞ」と先輩は冗談交じりに言うが、その目は真剣だ。

教授は何かを隠しているのか、俺に直接何も言わない。


体調は悪くないはずなのに、時折呼吸が苦しくなる瞬間がある。

そして、あの甘くて腐ったような匂いが、ふとした瞬間に鼻をくすぐる。

まるで森が俺を呼んでいるようで、足が勝手にそちらへ向かいそうになる。


俺は確かに、あの儀式の“契約”を交わしてしまったんだ。

それが何を意味するのか、まだはっきりとはわからない。

だが、逃げられない。森の意思は、確かに俺の内側に根を張っている。


これから何が起きるのか。俺の運命はもう、あの大木と森に縛られているのだ――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ