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第2話② 活発な私が好きってこと?

 放課後、俺は慎重に教室を出るタイミングを見計らっていた。友人は揃いも揃って部活だ委員会だなんだで、帰宅部の人間も既に帰っている。

 雨谷のことだ、またどこかで待ち伏せしている可能性は高い。


(……今ならいける)


 周囲を確認し、できるだけ目立たないように廊下へと足を踏み出す。

 しかし――。


「塩川くん!」


(しまった!)


 振り向くまでもなく分かる。やはり雨谷だ。

 いつの間にか俺の背後に回り込み、まるで俺がここから出ることを見越していたかのように声をかけてくる。


「ねえねえ、一緒に帰らない?」

「今日は寄り道せずに帰る」

「私も塩川くんと一緒なら、まっすぐ帰るよ?」


 俺は一瞬考えた。雨谷が一緒だと、距離感の問題が発生する。

 それに、あいつと一緒に帰ったら確実に玲奈の詮索対象になってしまう。

 最近の雨谷のことだ。理由つけて結局玄関まで来るだろうし、そのタイミングで玲奈と鉢合わせたら匂い以前の問題だ。


「悪い、今日はちょっと用事があるんだ」

「へえ〜?」


 雨谷がじっと俺の顔を覗き込んでくる。


「なんか怪しいなぁ。最近、私を避けてない? 好き避けってやつ?」

「避けてない」

「……ほんとに?」


 雨谷は唇を尖らせ、俺の顔をじーっと見つめる。


「じゃあ、ちょっとだけでもいいからお話ししながら帰ろ?」


(やばい、これは断りづらい流れだ)


 下手に拒否すると余計に疑われるし、変に警戒されても厄介だ。

 仕方ない、適当なところで振り切るしかないか……。


「……分かった。少しだけな」

「やった!」


 雨谷は満面の笑みを浮かべ、俺の横に並んで歩き出す。

――やばい。もうすでに近い。


(この距離でずっと歩いてたら、確実に玲奈にバレる)


「そういえばさ」

「ん?」

「塩川くんって、どんなタイプの子が好きなの?」

「……は?」


 突然の質問に、俺は思わず足を止めた。


「いや、別に意識したことないけど」

「うそ〜。誰だって多少はあるでしょ?」

「ない」

「ふーん……じゃあ、たとえば……」


 雨谷は少し考える素振りを見せてから、俺の方に向き直った。


「パッと思い浮かんだ、一番親しい異性は?」


 顎に手を当てて考えてみる。うん、やっぱ雨谷になってしまう。親しいどころか口を聞かない異性もいるし、その点雨谷は誰よりもグイグイくる。

 でも口に出すと調子に乗るだろうから、黙っておく。


「じゃあ、その子の印象は……?」

「…………活発な子だな」

「活発な私が好きってこと?」

「んなっ!?」


 図星を疲れて思わず身を引いてしまった。活発な雨谷が好き……? 確かに好ましいとは思ってるが、それは最近まで友人としてだった。

 それを異性に向けるものに変換するには早い。


「もしかして……当たり?」

「う、うっさい」


 正直なところ、雨谷のことを意識しないようにしていた分、改めて「好きかどうか」と聞かれると、なんと答えたらいいのか分からない。

 正直雨谷は可愛いしそれに――発育がいい。それで悩んでいることを知っているから、俺だけでもは紳士的に接してあげたかった。

 しかし異性として見ようとすると、どうしても魅力というものを探してしまう。それが雨谷の場合は、内面もそうだが、外見も凄い魅力的なのだ。

 まあ、何が言いたいかというと――異性として見ようとすると、どうしてもエロい方向にいってしまうのだ。


「まぁ、答えはまだ焦らなくていっか」

「それは……どうも」


 雨谷は両手を後ろに組みながら、少し悪戯っぽく笑う。その仕草に突き出た胸に視線が入ってしまって、すぐに視線を戻した。


「……気になる?」

「……何がだよ」


 狙いを俺に定めた様に雨谷は艶っぽい笑みを浮かべた。――おい、まずいぞ。匂い以前の問題になる。

 でも意思は目の前の胸に勝てなくて……つい注視してしまった。


「……塩川くんのスケベ」


 雨谷は俺を覗き込むようにして、艶っぽい笑みを浮かべた。

 ――やばい、これはまずい。匂い以前の問題だ。あとなんで満更でもないんだよ。お前は殴ってでも止めなきゃなんだぞ。


「何言ってんだ」

「いやいや、今めっちゃ見てたよね?」

「見てない」

「うそだー。今、ちょっと顔赤くなったし」


 クスクスと笑う雨谷。その余裕そうな表情がまた厄介だ。

 なんだこいつ、俺をからかって楽しんでるのか?


「別にいいけどさ、塩川くんがそういう目で見てくれるの、ちょっと嬉しいかも」

「なっ……!」


 俺は思わず目を逸らした。

 こいつ……何を言っても俺が動揺するのを分かって言ってやがる。


「ふふ、かわいいね」

「……お前な、いい加減にしろ」

「はいはい、怒んないでよ。で、結局どんな子がタイプなの?」

「だから、そんなのないって」

「うそだー」


 俺の腕を組むようにして、雨谷はじっと顔を覗き込んでくる。

 近い。いや、こいつ本当に距離感バグってるだろ。


「それとも、まだ気づいてないだけ?」

「……何に」

「自分がどんな子に惹かれるか、だよ」


 雨谷はちょっとだけ真剣な表情になった。

 俺は――思わず、言葉に詰まる。


 自分がどんな子に惹かれるか……?


 そんなの、考えたこともなかった。

 というか、今まで「惹かれる」なんて感情自体、あまり意識してこなかった。

 でも――。


(もし、仮に好きなタイプがあるとしたら……)


 昔好きだった女子、A子の特徴を出そう。

 ・優しい。

 ・面倒見が良い。

 ・シンプルに可愛い。

 ・俺のことを気にかけてくれる。

 うん、雨谷と合致点が意外と多い事に気づいた。もしかしたら、雨谷も好きになれるんじゃないか?


「……はっ」


 思わず、考えてしまった自分に気づく。


(そんなわけないだろ)


 自分で自分にツッコミを入れる。

 だが、雨谷は俺の心の中を見透かしたかのように、ニヤリと微笑んだ。


「ねえ、塩川くん」

「……なんだよ」

「私のこと、もっと意識していいよ?」


 小悪魔的な笑みを浮かべながら、雨谷は軽く俺の肩をポンっと叩いた。


「……っ!」


 しまった、また匂いが――!


(……終わった)


 俺の頭に、“game over”とか“YOU DIED”の赤文字が浮かんできた。

 まだ外にすら出てないのに……スキンシップ激しすぎだ。

 陛下の詮索がさらに厳しくなることは、火を見るより明らかだった。


「……お前、ほんと勘弁してくれよ……」

「えへへ、明日も楽しみだね!」


 俺の嘆きをよそに、雨谷は朗らかに笑うのだった――。


「ねえ、今日の夜、電話してみる? 寝落ち通話ってやつしたい!」

「俺が断ってもかけてくるだろうし……まあ、付き合ってやる」

「やった!」


 雨谷が小さくガッツポーズした後に俺の裾を掴んだ。その仕草が妙に可愛く感じると同時に、匂いの件はもう諦めた。

最後まで読んでくださりありがとうございます


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