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魔力置換体について

ちょっと説明が必要そうなので説明回で説明会です。


・相変わらずアクターの隙間時間で人間やっているジュラ

・感覚派で才能の片鱗を窺わせるギソード

・技師・主任のメイとは良好な関係を築けている


などの描写を含みます

 魔力置換(アストラル)体になるジュラ。

 クアンタム製術機関二階のトレーニングルームの一画、簡易結界を備えたスタジオは、実際に魔力を使用した訓練になんとか耐えられるようになっている。


「…………」

「………………」

「…………………………」

「……」

「――――」

「……なぁ」

「どうした」

「立ってるだけ、だよな?」


 スタジオの中心あたりで足を肩幅に開き、上体を弛緩させていただけのジュラ。何か起きるだろうと待っていたギソードが、ついに痺れを切らして質問した。


「立っているだけ、だが?」

「それって意味あんのか?」

「……、あとで話す。その上でそんな質問をするなら、…………仕方のないことだ」

「めっちゃ言葉選んでくれるじゃん」



◆◆◆



「はじめまして、だね」

「……はじめまして」

 五階、製術機関研究員メイの私的フロア。

 白衣と白髪はくちゃくちゃで、寝起きであることが察せられた。鬱陶しい前髪から覗く灰色の瞳も、どこかぼんやりとしている。


「おはよう、メイ。起きてたんだな」

「おやおやヘンタイくん、待っていたよ。いやね、さっきお嬢が這ってきて、二日酔いに効く何かはないかと叩き起こされたのだな」

「それで、レィルは?」

「先ほど点滴を終え、元気に出て行ったよ。若いっていいね」

「そうか」

「ペチャパイスキー、寂しいのか?」

「別に」


 書類を踏まないよう床が見えているところを歩き、唯一円状に確保されている、L字ソファーもといメイの生活スペースへ。ダンボールからお茶のペットボトルを人数分取り出したメイは、白衣のポケットからメモとペンを取り出した。


「じゃあ、魔力置換(アストラル)体について話していく」

「この子も聞くのか?」

「俺のデバイスとアダプターの面倒を見てくれている。大事なことだ」

「そういうことだよ、ルーツくん」

「そっか」


「――まず、魔力置換(アストラル)体っていうのは、過去の魔術師が魔力を生み出すための仮想器官……クライン器官……の作用によって、自身のアバターを作り出すことで生まれたものをいう。クライン器官で肉体を裏返し、魔力で置換した肉体をこっちに出してくるんだ」


「紙の裏表みたいな感じかね?」


「そういう認識で構わない。ただ、その維持にはかなり気を使う。表の世界に、裏の世界のものを魔力で無理やり作り出して……引っ張ってきている、というべきか」


「ずっと踏ん張ってるイメージだな、オレは」

「この裏側を維持できなくなると、アストラル体は崩壊して負けになる」

「見た目重傷でも案外大丈夫だったり、かと思いきや細かい傷から魔力が漏出して負けたりってやつだね。ルーツくんの言葉を借りるなら、踏ん張りきれない方が負けだと」


「ここからが本題だ。じゃあ、そのアストラル体ってなんだ? っていうことになる」

「?」

「?」


「メイはわからないだろうけど、ギソードはどうだ? アストラル体になるとき、どうしている?」

「どうって、フツーに……」

「……センスがあるのはいいことだ」

「お前がやれやれって顔してんのバレてんだからな?」


「アストラル体の構築には、自分の体のイメージが重要になる。メイ、自分の心拍数がいまいくつかわかる?」

「んー? 90くらいかな?」

「激しい運動をしたら?」

「しない」

「ギソードは?」

「マックスで187」

「俺は192だ」

「はえー……アクターってそんなことまで意識しているのだねぇ……」

「必要だからな」

「そうなのか?」


「…………まぁ。アストラル体を構築するにあたり、心拍数から血圧、その日の爪の長さまで理解して再現しないと、肉体本来のパフォーマンスは発揮されないんだ」


「……言いたいことはわかる。でも、それってどこまでやるんだい?」

「できれば全部」

「うえぇ……」

「ギソードはできないと困るだろ」

「そりゃそうだけどよ」

「そのためには徹底した自己管理と、実際にアストラル体になって出来を確認する必要があるわけだ」

「彫刻の贋作みたいな話だねぇ……」


「アストラル体っていうのは、魔力で再現した自分だ。それ以上でも以下でもない」

「どうだ? 質問があれば受け付けるが」

「ペチャパイスキーの[外付け]ってさ」

「ワタシが作りました」

「おう。あれって、直接アストラル体に作用させてるんだろ?」

「……そうなのかい?」

「そうだよ。俺が仕様を書き換えた」

「は?」

「だってメイずっと寝てたし……」

「それはそうだね」


「さっきの話でいうと、それってかなりまずいんじゃないのか? せっかく調整したものを、その場その場で変更してるんだろ?」

「そのためのトレーニングだ。多少の変化が加わっても、その下地をよく理解していれば、考えるのはその変わった分だけでいい」

「簡単に言うよ」

「簡単にしたんだ」

「はいはい。でもそれって、わざわざやる必要あるのか?」


「……」

「バカを見るような目をするな。目だけはちょっと穴から見えてんだからな」

「失礼。……さっきも言ったが、アストラル体っていうのは全部魔力だ。術式を使うにもなんにしても、まず魔力が必要になる。ほとんどのアクターは魔力をアストラル体の維持に割いているが……俺はアストラル体そのものを[外付け]術式のリソースに回すことで出力を上げている」

「ジュラのインタビューで見たな、それ。使わないのはもったいないって」


「手の込んだ自殺行為かい?」

「どんな技術もそうだろ。逆立ちも、ランニングでさえ、練習してできるようになっただけで、本質の危険度は変わらない」


「それもそうか。うん。ヘンタイくんがそういうなら、ワタシもそれ前提でデバイスを組んでみよう。期待していてくれ」

「なぁペチャパイスキー、明日からそっちの訓練にも付き合っていいか?」

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