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最終章 人への旅立ち#16


「 何だ、今の…!」

爆発音と生き物が焦げる異常な匂いを察して、夢と現の狭間に居たシルバは飛び起き、本能が呼ぶまま森の奥目指して駆け出し、その場へ辿り着いた。

—赤紫の膨張した枝の塊は爛れ、一部は溶けて地面の土と一体になっている。その触手の主である人だったものはあらかた皮が剥がれ落ち、もう何なのかすら解からない。触手の背にある大きな口はだらしなく開き、異臭のする液を流し続けている。

その傍には、美しい金髪を土の上へと広げたまま苦しそうに息をする女がいた。

「‥!!ウィリアン様っ!!」

シルバはウィリアンの髪をかき集める様にして上半身を抱き起こした。

「…シルバ…‥」

「どうしてっ…腕が、火傷してる!!」

ぼろぼろになった黒いワンピースドレスの袖からは爛れた腕が覗いていた。

「私の力を使い過ぎたの…でもそうしないと…リージャを救えなかったから…っゔゔっ!」

シルバはほんの先にある腐った木の塊とそこに付く人間の肉を一瞥したが、近寄ろうとはせずにウィリアンの手を握る。

「どうしたらいいですか…あなたの友達を呼べば…(ノア)!来て!」

「元々‥私の身体は、もう…どうにもならない‥」

段々と声が弱々しく息継ぎながら話すウィリアンは、シルバの手を握り返した。

「シルバ…今さらだけど、あなたにみんなのことを託したいの…妖精達と交渉して‥みん、なを救って‥リルはだめよ、あの子は、私達、を…陥れようと、そうよ、ミレ!ミレが、近くにいる…ミレを、守って、帰してあげて…」

「解りました…ミレっ!どこにいるんだ!」

シルバはウィリアンの手を離さないまま、中腰になって周辺に目を凝らして見渡す。しかしそれらしい影すらいなかった。

「リルは、どこかにいる?」

「リル、リルはいません…ということは」

「恐らく、リルがミレを連れ去ったの…ミレを、取り戻して。」

「必ず…でもそれより、ウィリアン様、あなたの身体が…!」

握る手の温度は段々と下がっていく。視線はシルバを見ているようで、何か別の景色を視ている。

「子ども達に、よろしくね…。今まで過ごした日々は、私の宝物、だったって」

「言われるまでもなくみんな、そう思ってます‥だからしっかりして下さい…助けを呼びますから、いや、僕がもう一度貴女を」

「きい、て。皆に、愛してたって…」

ウィリアンの瞳から森の光を跳ね返す力が無くなっていき、皮膚はより白くなり森の光を撥ね返す。

シルバは大きく息を止めて唇が触れ合う直前まで顔を近づけた。

「ウィリアン様、愛しています……この森で一番…僕が…‥」

『ありがとう』

瞼を永遠に閉じたウィリアンの睫毛に、彼女のものではない涙がいくつも落ち続け、レオルドとクロデアが来るまで止む事はなかった。




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