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最終章 人への旅立ち#4


フィンスはその明るい性格で来てすぐにみんなと馴染んだ。

よく笑って、よく食べて、よく遊んで、よく寝た。よく仕事もした。

来て七日しか経っていないのにずっと昔から居たような気さえするぐらいだった。

だからあんなに急にいなくなるなんて、誰も思わなかった。

その日フィンスはいつもより朝に起きてくるのが遅かった。

「フィンス、眠いのか?」

「レオ…うん…なんか‥だるくて…ご飯食べたくないな…」

「おい大丈夫か?フィンス?」

フィンスはフォークを握ったまま朝食のテーブルの上へ突っ伏した。

「フィンス!熱っ…熱がある…誰かウィリアン様を呼んできて!」

あっという間に皆が集まってフィンスは自分の部屋へ運ばれた。

そのままフィンスは三日間寝込んだままだった。

  「ウィリアン様…フィンスはどうですか?熱は…」

「…まだ下がらないわ。」

ウィリアン様は僕と目を合わせないまま、またフィンスの部屋へ消えていった。

「うっ…お父さん‥!ヨシュア…助けてっ!」

「フィンス……」

「ウィリアン様…もう出来ることはないんでしょうか…」

ドアの向こうから聞こえてくるウィリアン様とナナヤの声。

ここで僕がどうにかする、なんて言えるほど僕は無責任じゃない。

僕には何の力もない…


それからまた二日経った頃、ウィリアン様は熱の下がらないフィンスをロズンドに背負わせて一緒に森の外へと出て行て

いった。

ここじゃ何も出来ることはないから、フィンスを元の村へ帰すのだそうだ。

ウィリアン様はこの二日間頻繁にカラスを通じて手紙で誰かとやりとりしていたり、城を出ていって何時間も帰って来なかったからフィンスを助けるために何かしようと頑張っていたんだと思う。

僕らはフィンスにろくにお別れも言えないまま、去っていく姿を見送った。

 しばらくしてウィリアン様とロズンドだけが帰ってきて、さらにそれから二週間ほど経った頃、ウィリアン様は三日間城を空けた。どうやら馬を連れて森の外へ出ていたらしい。

ウィリアン様は朝早くに帰ってくるなり、レオが一番字を読むのが上手いから一番先に読んでね、と、まだ新しくて汚れていない厚い本を僕に手渡した。

「よく読んで、この本の著者に今日中に感想の手紙を書いてほしいの。批評は絶対ダメ。なるべく褒めて書いてね。それから明日からは皆に、長くなるけどこの本読み聞かせてあげて。皆の家事の配分を大幅に減らすから、空いた時間で読み聞かせ会をやりましょう。それが終わったらすぐに皆に感想の手紙を書かせて。最終的には私も目を通すけどその前にあなたも目を通して。」

「ま、待って下さい…そんなに一度に言われても…と言うか、何があったんですか?」

「ごめんなさい。今は話している余裕はないの。‥よく分からないかもしれないけど、レオルドならやり遂げてくれるって信じてるわ。」

ウィリアン様にはこういうところがある。

僕を頼りにしてるといいながら、その実、何も話してくれないところが。

でも少しも頼りにされないよりはましだ。

僕はきっと…ウィリアン様に母さんを重ねてる。

母さんとは見た目も性格も何もかも違うけれど、僕の理想の母としてウィリアン様を見て

る。

偽物だったとしても僕に愛情をくれて、嘘だったとしても僕を頼りにしてると言ってくれ

る。

「…分かりました。今日は寝ずに読んでみたいと思います。」


またあの時みたいに、僕は表紙に‶愛は彼方へ行った‶と書かれた本をなでた。


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